記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「山形市の人口では商圏が足りない」と、動き出す前に自分で結論を出してしまう方がいます。山形市で起業するなら、天童市と上山市を足した約32万人を最初の母数に置き直すほうが、実態にずっと近くなります。市の境界線と、人が動く範囲は別物だからです。
起業18フォーラムの勉強会でも、山形や東北から参加された方が最初に口にするのは、たいてい人口の話です。ただ、そのあとで詳しく聞いていくと、商売の中身より先に、数えている範囲のほうに原因が見つかります。
山形市の商圏は市の境界線では測れない

山形市の推計人口は234,006人、世帯数は103,265世帯です(令和8年6月1日現在)。県庁所在地としては中規模で、政令市のような人口の厚みはありません。ここだけを見れば、確かに心もとない数字に見えます。
山形市で商圏を測るときは、市の境界線ではなく、車で30分ほどで行き来できる生活圏の広さで数えます。山形市に住んでいる方なら、天童のショッピングセンターにも上山の温泉にも、日常の感覚で出かけているはずです。逆の流れも毎日あります。天童や上山から山形市の病院や飲食店に来る人が、朝から夕方まで動いています。
- 山形市:
234,006人・103,265世帯(令和8年6月1日現在の推計人口) - 天童市:
59,416人・23,484世帯(令和8年6月末現在の住民基本台帳) - 上山市:
26,663人・11,138世帯(令和8年6月末現在の住民基本台帳)
3市を足すと320,085人になります。山形市だけで数えたときより86,079人多い計算です。この差は誤差ではありません。仙台市の商圏を宮城野区だけで数えるようなもので、最初の見積もりを丸ごと外してしまいます。
村山地域という単位で母数を数え直す

山形市が属するのは村山地域と呼ばれる区分です。山形市・寒河江市・上山市・村山市・天童市・東根市・尾花沢市の7市と、山辺町・中山町・河北町・西川町・朝日町・大江町・大石田町の7町で構成されています。
村山地域は7市7町からなり、面積は県土の28.1%を占めます。山形県の紹介では、神奈川県や沖縄県よりも広いと説明されています。
ここで大事なのは、行政の区分そのものではありません。山形市の中心部から車を走らせると、天童も上山も寒河江も東根も、おおむね30分前後で着きます。買い物も通院も通勤も、この範囲でつながっています。
つまり、山形市に住む人にとっての「近所」は、市境の内側では終わっていません。村山地域には県民のおよそ半数が暮らしています。その数はおよそ50万人で、市の内側だけで数えると商圏は半分にも届きません。
商圏の測り方は4つの段階に分かれる

山形市で始める方の商圏の測り方は、実際には4つの段階に分かれます。どれが正しいという話ではありません。扱う商品と、自分が動ける時間で決まります。
- 市内完結型:
山形市内の住民と事業者だけが相手。母数は234,006人で、同業と重なりやすい構図 - 隣接2市型:
天童と上山まで足して回る形。母数は320,085人で、市内だけで数えたときの1.4倍 - 村山地域型:
寒河江・東根・村山まで含む7市7町が相手。母数は約50万人まで広がり、件数を積み上げやすい形 - 県外併走型:
村山地域の仕事を続けながらオンラインで県外の相手も持つ形。単価は上げやすい反面、最初の1件までが長い道のり
山形市に住みながら村山地域型を選ぶと、移動の負担は増えます。そのかわり、同じ商品を売る相手とぶつかる確率は下がります。同じ山形市で始めても、どこまでを商圏に入れるかで用意するものがまったく変わります。
山形固有の産業に仕事の入口がある

山形市とその周辺には、ほかの県庁所在地では代わりのきかない産地があります。しかも、どの産地にも事務が滞る時期があります。
山形鋳物は昭和50年に国の伝統的工芸品へ指定され、制度が始まった最初の指定に名を連ねています。この指定制度は現在、経済産業省が所管しています。始まりは平安時代で、馬見ヶ崎川の砂が鋳物づくりに向いていたことがきっかけだと伝えられています。
果樹も外せません。さくらんぼは全国の生産量のおよそ7割が山形県産で、村山地域の東根市や寒河江市が主産地です。収穫と出荷が6月から7月に集中するため、この時期だけ人手と事務が足りなくなる事業者が出ます。
山辺町のニットも山形らしい地場産業です。紡績から編み立て、縫製までを地域内で回してきた歴史があり、アパレル向けの受託生産を担う会社が並んでいます。食品加工の工場も、山形市から寒河江・河北にかけて点在しています。
食品加工・果樹・鋳物・ニットという4本の柱には、季節と工程がはっきりしているという共通点があります。忙しくなる月と手が空く月が、事前に読めるということです。
この読みやすさが、初めて仕事を受ける側にとっては入口になります。繁忙期が始まる前に「忙しい数か月だけ手伝います」と声をかけられるからです。いきなり年間契約を取りにいく必要はありません。
山形市で使える創業支援の窓口

方向性が見えてきた人のために、山形市には制度がそろっています。中心になるのが特定創業支援等事業です。
山形市の場合、市が実施する創業ゼミ、公益財団法人やまがた産業支援機構の創業塾と創業相談、山形商工会議所の創業相談と創業セミナーが、この事業に位置づけられています。市の創業ゼミは全4回を受講することが、支援を受けたことの証明書を申請する要件の例として案内されています。
証明書を受けると、株式会社や合同会社を設立するときの登録免許税が資本金の0.70%から0.35%に軽減されます。本店を山形市内に置くことが条件です。
あわせて、創業関連保証の特例が、事業を始める6か月前から対象になります。証明書の申請窓口は山形市商工観光部産業政策課で、電話は023-641-1212です。山形商工会議所は023-622-4666で創業相談を受け付けています。
ただ、制度は行き先が決まった人にとって効くものです。何を売るかが決まらないまま窓口に座っても、担当の方と話が噛み合いません。窓口を訪ねる前に、自分が誰のどの作業を引き受けるのかを一行で書けるようにしてください。
事務32年の立花さんが最初に回った先

山形市で32年間、地元の食品メーカーで事務をしてきた会員さんの立花さん(60代前半)の例を紹介します。原材料の発注や産地とのやり取りが長く、農家さんとの電話には慣れていました。
定年後の再雇用が始まったころ、立花さんは「果樹農家さんの出荷と請求の事務を手伝えないか」と考えました。最初は山形市内の知り合いに片端から声をかけました。名刺は増えましたが、仕事の話にはなりませんでした。
立花さんが次に動いたのは、山形市の外でした。週末に天童と寒河江の直売所や商店街を回り、店先に立つ人へ「収穫の時期に何が一番大変か」を1軒3分だけ聞いて歩いたのです。同じ答えが何度も返ってきました。さくらんぼの出荷が始まると、注文書と請求書の処理が回らなくなる、という話でした。
ちょうどそのころ、起業18フォーラムの勉強会で人脈の数え方を扱った回がありました。拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、強い人脈を「失業しているのですが、仕事を紹介してもらえますか」と電話で聞ける相手のことだと紹介しています。立花さんは名刺の枚数を数えるのをやめ、この基準で自分の名簿を作り直しました。残ったのは11人でした。
そこからは早く進みました。11人のうち3人が果樹関係で、そのうちの1人が寒河江の農家さんを紹介してくれました。立花さんは単発の代行を受ける形をやめ、繁忙期の3か月をまとめて引き受ける月額の契約に切り替えました。
9ヶ月目には継続の依頼が月3件になりました。ここで単価を上げずに、紹介の輪だけを広げたのが良かったのだと思います。
18ヶ月目には継続契約が月7件になり、そのうち3件が2年目も続いています。6月が来る前に次の依頼がもう決まっている状態になりました。
この形にたどり着けたのは、山形市の内側だけを見ていたら聞けなかった話を、外で拾えたからです。名簿の11人も、市境の内側では出てきませんでした。
商圏の見立てがついたら、次に出てくるのが資金の話です。公庫に相談を始めるタイミングは、こちらにまとめています。

よくある質問

Q.山形市で起業するとき、商圏人口はどこまで数えてよいですか?
車で30分前後で行き来できる範囲までは、日常の商圏として数えて差し支えありません。山形市の234,006人に天童市の59,416人と上山市の26,663人を足すと320,085人になります。ただし、これは来てもらえる可能性のある人数であって、そのまま見込み客の数ではありません。業種ごとに、そのうち何割が自分の相手かを掛け直してください。
Q.特定創業支援等事業の証明書は、どこに申請すればよいですか?
山形市の場合は市の産業政策課が窓口です。市が実施する創業ゼミを全4回受講したうえで、修了証明の申請書を提出します。やまがた産業支援機構の創業塾、山形商工会議所の創業相談やセミナーも同じ事業に位置づけられています。
特定創業支援等事業の原則は、1か月以上にわたり4回以上、経営・財務・人材育成・販路開拓の4分野に関する支援を受けることですが、各事業の修了要件は同一ではありません。受講前に実施機関か産業政策課へ確認してください。
Q.山形市の創業支援を受けるとき、必ず会社を設立しないといけませんか?
会社にしなくても使える部分があります。登録免許税の軽減は株式会社や合同会社を設立するときの制度なので、個人事業のままなら関係しません。一方、創業関連保証の特例は、事業を始める6か月前から対象になります。個人で始める方は、こちらを先に確認しておいてください。
Q.山形市の外にも売りたい場合、どこから広げればよいですか?
村山地域を一周してからにしてください。天童・上山・寒河江・東根には、山形市内と似た困りごとを抱えた事業者がいます。同じ商品で件数を増やせるので、進め方を変えずに済みます。県外やオンラインは、その次の段階で足すほうが安全です。
山形市で起業するために今日できること

山形市の人口だけを見て諦めるのは早すぎます。市の外に一歩出た時点で母数は32万人に増え、村山地域まで含めれば、7市7町のおよそ50万人が一つの生活圏として重なります。
順番としては、まず起業18フォーラムの動画やセミナーで、自分が何を売る側に回るのかを固めてください。方向が決まってから山形市の創業ゼミや山形商工会議所に相談すると、話が一気に具体的になります。登録免許税の軽減も信用保証の特例も、行き先が決まってから効いてくる制度です。
今週の休みに、天童か上山か寒河江のどれか一つまで車で足を運び、直売所か商店街を30分だけ歩いてみてください。誰が何に困っているかは、地図の上ではなく店先で分かります。
ここまで読んで、いちばん自分に近いと感じたのは、4つの段階のどれだったでしょうか。それが一つ決まれば、山形市で最初にやることは自然に絞られます。
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