与那国島起業ガイド|国境離島補助金と二拠点居住の現実的な始め方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

日本最西端の与那国島は、台湾までわずか111キロという距離にある人口1,689人の小さな島です。サトウキビ畑、カジキ漁、ヨナグニウマ、海底地形、冬場のハンマーヘッドシャーク。聞いただけで心が動く資源が、この狭い島に詰まっています。「いつか与那国島で何かやってみたい」と感じている会社員の方は、決して少なくないはずです。

ただ、与那国島は石垣島や宮古島とは事情がかなり違います。観光客の規模は石垣島の30分の1ほど、住居は慢性的に不足しており、令和8年度の沖縄県移住支援金事業の対象市町村にも与那国町は含まれていません。「島で食べていくこと」を会社員のまま設計し、島内市場と島外マーケットの両方に向けた事業を組み立てることが、この島で起業する人の現実解です。

本稿では、与那国島の現状と公的支援、向いているビジネス、会員さんの事例を順に整理しながら、会社員のまま関係人口として始める手順をお話しします。

ポイント 日本最西端の島・与那国島の現状を知る

人口1,689人と観光客約4.6万人の国境離島

与那国島

与那国島は沖縄県八重山郡与那国町を構成する一島一町の自治体で、台湾の蘇澳鎮までの距離は111キロです。東京から南西に約2,000キロ離れた、文字通り日本の端にある島です。与那国町役場の住民基本台帳ベース統計によると、2025年1月1日時点の人口は1,689人、男性974人・女性715人となっています。65歳以上の高齢化率は22.4%、20?39歳の若年女性人口は162人で総人口の9.6%にとどまります。1980年代には2,000人を超えていた人口は2010年代に入って1,500人を割り、2016年の陸上自衛隊与那国駐屯地配備をきっかけに微増に転じています。

島の主な産業は、サトウキビと水稲を軸とする農業、カジキマグロ漁とクルマエビ養殖を中心とする漁業、肉牛とヨナグニウマの畜産、そして観光業です。観光資源としては、1986年に発見された海底地形、冬場の西崎で見られるハンマーヘッドシャーク、日本最西端の碑、ティンダバナ、久部良バリなどがあり、ダイビングサービスは島内に5社あります。与那国町役場の入域観光客数によると、2025年(令和7年)の年間観光客数は45,971人で、コロナ禍以前の2019年(平成31年・令和元年)の40,615人を上回っています。

もう一つ理解しておきたいのは、与那国島は石垣島や宮古島と比べて、観光産業の規模も島内マーケットの大きさも一桁少ない島だという事実です。観光客は石垣島の約141万人と比べると30分の1程度、人口も宮古島の55,490人と比べておよそ30分の1です。「島内のお客さんだけで食べていくビジネスは限定的」という前提に立ち、島外のマーケットも視野に入れた事業設計が必須になります。

  • 人口1,689人(与那国町役場・2025年1月1日)
  • 高齢化率22.4%・若年女性比率9.6%
  • 年間観光客45,971人(2025年・令和7年、与那国町役場)
  • 主産業:サトウキビ・カジキ漁・ヨナグニウマ・観光
  • 2016年陸自配備後は人口微増基調

与那国町役場の企画財政課に問い合わせると、移住者向けの基礎情報がまとまった「移住サポートBOOK」(2026年3月19日完成版)の案内も受けられます。電話は0980-87-3577です。

ポイント 与那国島で使える支援制度と国境離島補助金

国境離島補助金最大1,200万円と町独自の生活支援

与那国島

与那国島は2016年4月に成立し、2017年4月に施行された有人国境離島法により、特定有人国境離島地域に指定されている島の一つです。同法は2017年4月から2027年3月までの10年時限措置で、地域社会維持推進交付金を通じてさまざまな支援が提供されています。創業を考える会社員にとって特に意味があるのが、雇用機会拡充事業です。

雇用機会拡充事業では、特定有人国境離島地域で新たな雇用を生む創業・事業承継・事業拡大を行う事業者に対して、設備投資・人件費・広告宣伝費などの経費を最長5年間補助します。創業の場合は補助対象経費の上限が600万円、補助金の上限は450万円、補助率は最大3/4です。事業拡大の場合は補助対象経費の上限が1,200万円・1,600万円という枠が用意されています。具体的な公募・採択は与那国町を含む各市町村経由で行われるため、活用を検討する場合は与那国町商工会(電話0980-87-2944)と町役場の窓口に必ず確認してください。

もう一点、誤解されやすいのが沖縄県移住支援金事業です。令和8年度の沖縄県移住支援金事業の対象市町村は石垣市・国頭村・東村・本部町・伊江村の5自治体で、与那国町は対象外となっています。隣の石垣島では使えても、与那国島では使えません。「県の移住支援金で足りない部分を補える」という前提では設計できないため、町独自の生活支援と国境離島補助金を組み合わせる発想が必要です。

  • 特定有人国境離島地域社会維持推進交付金(雇用機会拡充事業)
  • 移住定住促進住宅と古民家活用型住宅
  • 小中学校給食費・町営塾の無料化
  • 妊婦の石垣本院通院に対する航空運賃・宿泊費補助
  • 離島住民割引運賃カード(航空運賃の割引)

これら補助金や支援制度は、「何で食べていくか」が固まった後にはじめて使える道具です。窓口にいきなり相談に行っても担当者は答えに困ります。先に事業の方向性を持ってから補助金や住宅支援に向き合う順番を守ることで、はじめて支援制度が活きてきます。

ポイント 与那国島で会社員が始めやすい4タイプのビジネス

島内市場と島外マーケットの二刀流で考える

与那国島

与那国島で起業を考えるなら、人口1,689人という島内マーケットの規模を冷静に見ることから始まります。観光ガイドやダイビングインストラクターのように島内の観光客と直接接する事業は、繁忙期と閑散期の落差が大きく、体力勝負になりがちです。一方で島外マーケットを視野に入れた事業は、島にいない時間も収益が動き、会社員との並行も成立します。島内収入と島外収入の両輪を持つ「二刀流」が、与那国島で起業する人の標準形と考えてよいと思います。

具体的に向いているビジネスを4タイプに整理しました。

①島内型・観光体験ビジネス

ダイビング、海底地形ツアー、カジキフィッシング体験、ヨナグニウマでの海岸乗馬、ナイトツアーなどが該当します。島内の観光客を直接相手にする事業で、独立資金は数百万円から、年間の繁閑差が大きい点が特徴です。先述の雇用機会拡充事業(創業上限600万円)と相性が良い分野です。

②島産品の島外通販ビジネス

与那国織、花酒(60度の蒸留酒)、サトウキビ加工品、海産加工品などを、島外向けにECで販売するモデルです。製造は地元の生産者と組み、企画・販売・発信を会社員のままリモートで担当できます。在庫を抱えず受注生産・予約販売型にすれば、島内に常駐する必要もありません。

③島の魅力を発信するメディア・コンテンツ事業

島の暮らし・自然・食・文化を、Webサイト・YouTube・SNSで発信する事業です。観光地ガイドではなく、島の生産者と組んで「現地のリアル」を継続発信することで、関係人口・ファンの蓄積につながります。広告収入よりも、スポンサー契約・受託発信・コミュニティ会費などのストック型の収入を狙う形が向いています。

④リモートワーク継続+島の一次産業サポート

東京や大阪での本業をリモートで継続しつつ、島滞在中に島の漁師・農家のWeb発信や事務サポート、補助金申請代行、ECサイト構築などを副次的に請け負う形です。本業の収入を維持できるため移住リスクが小さく、関係人口として段階的に深く入り込めます。

この4タイプの中で、会社員が在職のまま3ヶ月以内に動き出せるのは②③④の組み合わせです。①は退職もしくは長期滞在が前提になる傾向があり、最初の一歩としては重い選択になります。

ここで参考にしたいのが、拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』にこんな言葉が出てきます。「ストック思考とフロー思考の両方を意図して持つこと」が、長く稼ぎ続ける人の共通点だという視点です。観光ガイド1日のフロー収入だけで島の生計を組み立てると、台風や天候不良ですぐに崩れます。Webコンテンツ・コミュニティ・受託発信のような島を離れていても積み上がるストックの仕組みを並行して作ることが、与那国島という限定された島で長く事業を続けるための要諦です。

ポイント 関係人口から始めて月収を作った会員さんの事例

東京勤務のまま年4回通って月8万円の継続収入

与那国島

起業18フォーラムの会員さんで、東京の建設コンサルに勤める鈴木さん(仮名・40代後半・男性・既婚で中学生のお子さん1人)の事例をお話しします。鈴木さんは40歳のときに友人と訪れた与那国島が忘れられず、それから年4回ほど休暇のたびに通っていました。「定年後はこの島で何か小さなことをやって暮らしたい。でも何で食べていくのかが正直見えない」という状態で、起業18フォーラムに参加されました。

鈴木さんが勉強会で出会ったのが、「自分の好きな場所と本業のスキルを直接つなげる」という発想です。建設コンサルの仕事で培ったWeb発信・補助金申請書作成・データ整理の力は、島の生産者にとって慢性的に不足しているスキルでした。鈴木さんは島滞在中に顔見知りになっていた若手のカジキ漁師に、漁の様子を発信するWebサイトとSNS運用を提案。月3万円のサポート契約から始まり、半年後には島の野菜農家からも「同じことをやってほしい」と依頼が入るようになりました。

  • 属性:40代後半・男性・東京の建設コンサル勤務・年収750万円・既婚で子1人
  • スタート時:与那国島が好きで年4回通う・島で何で食べるか未定
  • 転機:起業18フォーラムでスキル×好きな場所を結ぶ発想に出会う
  • 初動:島の若手カジキ漁師にWeb発信を提案・月3万円のサポート契約
  • 現在地点:14ヶ月目・会社員のまま月8万円の継続収入・年6回通島

鈴木さんの現在の月8万円という数字は、独立収入としては足りません。けれど鈴木さんは、それで十分だと話してくれました。本業の年収を維持しながら、与那国島との関係を毎月深めていけているからです。「3年後の本格的な二拠点に向けて、今は島内のお客さんを3件まで増やすことを目標にしています」とのことでした。

いきなり仕事を辞めて移住するのではなく、会社員のまま島の現地パートナーと小さく組んで、収入と信頼を同時に積み上げるのが、与那国島のような小規模離島では現実的な手順だと感じます。

ポイント 与那国島で起業する前に踏んでおきたい4ステップ

学び・整理・パートナー・段階移住の順に進める

point

与那国島で起業を考えている会社員の方が、明日から踏める4ステップを整理します。順番が大切です。補助金や役場の窓口は、自分で「何を売るか」が固まってから動かす道具であって、最初の入り口ではありません。

  • STEP1:起業18フォーラムで「何で食べていくか」の整理
  • STEP2:島内型・島外型の事業アイデアを最低3案書き出す
  • STEP3:島の現地パートナー候補と関係人口として顔を作る
  • STEP4:国境離島補助金・町支援を「選択肢」として把握

STEP1は、起業18フォーラムの動画講座と勉強会で「自分の強み」と「自分が続けられる事業形態」を言語化する段階です。本業のスキル、これまでの経験、苦手なこと、譲れないことを整理しないまま島に通い続けても、現地パートナーから何を頼まれても動けません。

STEP2は、与那国島で考えられる事業を「島内型(観光・体験)」「島外通販型(島産品)」「メディア・発信型」「本業スキル提供型」の4分類に当てはめ、自分が動かせそうなものを最低3案書き出すことです。3案書ければ、組み合わせの妙が見えてきます。

STEP3は、島に通って関係人口として顔を作る段階です。与那国町役場の企画財政課(電話0980-87-3577)への移住相談、与那国町商工会(電話0980-87-2944)への事業相談、両方の窓口を訪ねることで、現地のキーパーソンを紹介してもらえます。お試し滞在として年4回程度の通島から始めるのが現実的です。

STEP4でようやく、特定有人国境離島地域の雇用機会拡充事業や、町の移住定住促進住宅、給食費無料といった支援制度が「使える道具」として位置づきます。補助金は事業計画ありきの後追いツールであり、補助金ありきで事業を組むと続きません

移住起業と在職起業はどちらが先? 判断軸はどこに置けばいいですか?
● 質問 都心の通勤に疲れて地方移住を考え始めました。移住先で起業する人の体験談記事をたくさん読みましたが、い

与那国島の海と風の中で、自分は誰に何を売るのかを、まずは机の上で言葉にしてみてください。言葉にできた瞬間から、島への通い方も、人との会い方も、補助金との向き合い方も、すべて変わってきます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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