富良野で起業するには|季節差を埋める仕事と移住支援の使い方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

夏のラベンダー畑にできる観光客の列と、雪の季節のスキー客。富良野に何度か通ったことのある人なら、季節ごとに人の流れが変わることを肌で知っているはずです。富良野で起業を目指すなら、観光と農業の需要変動を、いきなり移住して埋めようとせず、通いながら地元との関係を積み上げて確かめるのが現実的な入口になります。

人口およそ2万人の観光地で、夏と冬、農繁期と農閑期の波とどう付き合うか。そこが富良野での起業準備の、最初の分かれ目です。

「富良野で暮らしながら、自分の仕事を持ちたい」。そう考えて情報を集めはじめた人ほど、移住という大きな決断を前に、その一歩をためらいがちです。これまで多くの起業準備を見てきましたが、憧れの土地ほど「全部を整えてから動こう」として動けなくなる傾向があります。富良野は、その典型が出やすい場所です。

ポイント 富良野で起業を考えるときに押さえる土地の条件

人口約1.9万人と延べ観光客数に見る季節差

富良野

富良野市の人口は、2026年6月末で19,034人です。市が公表する観光統計では、令和5年度(2023年度)の観光入込客数は延べ約189万人に達しており、最新の令和7年度(2025年度)は延べ約181万4千人となっています。これは実人数ではなく訪問回数を積み上げた数ですが、住民人口の約95倍に相当する規模です。月別の入込数には差があるため、最新の観光統計で自分の業種の繁閑を確かめる必要があります。

国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口を見ても、富良野市のような地方の市の人口は、これから先も減っていく見通しです。だからこそ、移住や関係人口として外から関わる人の役割が、地域にとって大きくなります。

その人の流れには季節の波があります。夏の花畑観光と冬のスキーでは、客層も動く場所も異なります。農作業の繁閑も作物ごとに違うため、月別統計と現地の聞き取りを重ねて判断しましょう。

この山と谷の落差が、富良野で何かを始めるときに最初に向き合う条件になります。一年を通して同じ売上を見込む計画を立てると、閑散期に資金が続かなくなります。だからこそ、繁忙期に稼いで閑散期に仕込む、という一年単位の設計が要ります。

  • 夏の最盛期:
    ラベンダーと畑作が重なり、観光も農業も人手が足りない時期
  • 冬のスキーシーズン:
    宿泊や雪上体験などの需要期と、夏とは異なる客層・導線
  • 季節の切り替わり:
    月別統計と現地調査で需要を確かめ、地元向けの仕事や仕込みを組み合わせる時期

ポイント 富良野で使える創業支援と移住の制度

東京圏からの移住支援金と北海道の起業支援金

富良野

富良野市には、要件を満たす東京圏からの移住者に向けた支援金があります。UIJターン新規就業支援事業では、単身60万円、2人以上の世帯100万円が基本で、18歳未満の世帯員を伴う場合は一人につき100万円が加算されます。

東京圏での居住・通勤歴に加え、対象求人への就業、テレワーク、起業支援金の採択などの要件があります。別の移住就職支援にも市内共通商品券10万円分などがありますが、年齢、就業、居住期間などの条件があるため、移住前に対象可否を確認してください。

起業そのものへの後押しには、北海道の地域課題解決型起業支援事業があります。令和8年度は、対象経費の2分の1以内、上限200万円で募集されましたが、当年度の公募はすでに終了しています。デジタル技術を活用して地域課題を解決する社会的事業であること、道内で定められた期間に起業することなどの要件があり、一次産業など対象外の事業もあります。次年度以降の実施は公式発表を確認してください。

ただし、こうした制度は「何で食べていくか」が決まってから効いてくる道具です。補助金の書類や移住の要件を先に調べても、事業の中身が固まっていなければ、窓口の担当者も答えようがありません。支援制度は、やりたいことの輪郭が見えてきた段階で使う道具だと考えてください。

ポイント 富良野で通いながら始めやすい起業の3つの型

観光特化型と農と食の通年型とリモート併用型

富良野

富良野で起業を考えるときは、季節差との向き合い方で、おおきく3つの型に分かれます。どれが正解ということはなく、自分の暮らしと資金の体力に合う型を選ぶのが出発点です。

  • 観光シーズン特化型:
    夏と冬の繁忙期にガイドや体験プログラム、間借りの飲食で集中して稼ぎ、閑散期は仕込みや発信にあてる型
  • 農と食の通年型:
    地元の農産物を加工品やオンライン販売につなげ、収穫期の波を一年の売上にならしていく型
  • リモート併用の関係人口型:
    今の仕事をリモートで続けながら通い、富良野の情報発信や地元事業者の手伝いから関係を広げる型

この中で生活への影響を抑えて試しやすいのは、三つ目のリモート併用型です。生活の基盤ごと移すのではなく、今の収入を保ったまま通う関わり方から踏み出せます。旭川・札幌方面から車で移動できる位置ですが、所要時間は出発地、経路、工事、冬季の路面や天候で大きく変わります。公共交通も含め、季節ごとに無理のない往復計画を立ててください。

ポイント 通いながら依頼が積み上がっていった例

関係人口から延べ十数件の依頼が生まれるまで

富良野

起業18フォーラムの会員さんに、児玉さん(仮名・40代)という方がいます。札幌で働きながら、家族と富良野へ通ううちにこの土地が好きになり、「この場所で自分の仕事をしたい」と考えるようになりました。最初は写真を撮ってSNSに載せる程度で、何を仕事にできるのか、自分でもはっきりしていませんでした。

変わり始めたのは、同じように地方へ通う会員が、まず地元の困りごとを一つ数えることから動き出したと知ってからです。児玉さんが気づいたのは、農家や家族経営の宿が、繁忙期の情報発信にまで手が回っていないことでした。撮りためた写真と、会社で身につけた資料づくりの力を合わせて、宿のSNS発信を手伝うことから始めました。

最初の一件は、知り合った宿のオーナーに声をかけてもらった仕事でした。勉強会で経過を話しては、次にどう動くかを整理する。それを繰り返すうちに、頼まれる仕事が少しずつ増えていきました。通いはじめて3年目には、農産物直売所の紹介ページづくりや地元イベントの記録撮影まで、依頼が延べで十数件に積み上がっていました。まだ会社は辞めていませんが、富良野に自分の居場所と役割ができています。

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ポイント よくある質問

富良野での起業準備前に確認したい代表的な疑問と回答

起業前質問集

Q.富良野へ移住してから仕事を探すべきですか?

先に移住する必要はありません。今の収入を保ちながら季節ごとに通い、現地の需要と自分が提供できることを確かめる方法があります。

Q.観光客が多ければ一年中売上を見込めますか?

観光需要には夏と冬など季節差があります。月別の観光統計と現地での聞き取りを重ね、繁忙期と閑散期を分けて収支を設計してください。

Q.移住支援金は誰でも受け取れますか?

東京圏での居住・通勤歴、就業、テレワーク、起業支援金の採択などの要件があります。移住前に富良野市の窓口で対象可否と申請時期を確認してください。

Q.富良野で最初に試しやすい仕事は何ですか?

今の仕事の経験を生かし、地元事業者の情報発信や資料づくりなど、小さく提供できる仕事から試す方法があります。現地の困りごとを聞いてから内容を決めてください。

ポイント 富良野で最初の一歩を踏み出す順番

学びと関わりを先にして制度はあとに回す順番

point

富良野での起業準備は、順番を間違えなければ、そこまで難しくありません。まず起業18フォーラムのセミナーや動画で、自分は何が好きで、何なら続けられそうかを整理する。方向が見えてきたら、市の移住相談窓口や補助金を道具として使い、関係人口として通うところから少しずつ試していく。この順番です。

拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』で、「20点取れたら進め」という考え方を紹介しています。100点の移住計画や完璧な事業計画がそろうのを待っていると、動き出す日はやってきません。富良野に通う日を一日決めて、次の交流会や直売所をのぞいてみるのが、20点の一歩です。

次の一歩として現実的なのは、富良野の移住・創業の交流会や、農産物の直売所をのぞいてみることです。地元の人がどんな困りごとを抱えているか、どんな人が集まっているかは、その場に立ってみないとわかりません。まず見学だけのつもりで顔を出すことから、関わりは始まります。

富良野は、通う人にだけ少しずつ扉を開いてくれる土地です。一度で移住を決めなくても、関わりを重ねるうちに、自分にできることと、この土地が必要としていることが重なる場所が見つかります。

この先、富良野で自分の名前を掲げた看板を出す日が来るとして、その一枚は、会社の名刺とは違う重みを持つはずです。まずは次の週末、富良野へ通う予定を一つ、手帳に書き込むところからです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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