Uターン先で知り合いも顧客もいないまま起業できる? 地方に戻る人の最初の一歩

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

年内に地方の実家近くにUターンで戻る予定で、戻ってから会社勤めを続けつつ自分の仕事も少しずつ始めたいと思っています。ただ、地元とはいえ長く離れていたので、知り合いも顧客もいません。

人脈も需要もない土地で、起業準備は本当に進められるのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

起業の始め方は、いきなり大海原に出る航海ではなく、まず岸の近くで小舟を浮かべてみることに似ています。Uターン先で知り合いも顧客もいない状態は、実は岸辺の水深を素直に測れる立ち位置でもあります。

知り合いも顧客もいない土地では、まず「観察する側」から入るのが最短の道です。戻った直後に人脈作りから動こうとするより、その地域で今どんな仕事が足りていないかを先に見て回るほうが、あとの準備が空回りしません。

戻る前の景色と戻ったあとの景色は分けて考える

地方Uターンで起業準備を進める方の相談を伺っていると、戻る前に描いた景色と、戻ってから見える景色にずれがあることに気づきます。戻る前は「地元だから何とかなる」「昔の同級生がいる」と思いがちで、戻ったあとに「同級生は皆それぞれ忙しい」「昔の顔なじみの店はもうない」と分かります。

そのずれを埋めるのは、人脈でも資格でもなく、その土地を今の目でもう一度見る時間です。中小企業庁の2024年版小規模企業白書では、小規模事業者にとって販路開拓が主要な経営課題の一つとして整理されています。販路開拓とは営業の話に見えて、その手前で「この土地の誰が、何に困っているか」を見つける作業のことでもあります。

  • 戻ってすぐ交流会や紹介に頼る:
    名刺が増えるだけで、需要そのものは見えないまま時間が過ぎる進み方
  • 都市部と同じ商品をそのまま持ち込む:
    価格も動線も土地の実情に合わず、反応が薄い理由が分からずに止まる
  • SNSの発信から着手する:
    誰に向けて何を伝えるかが定まる前に投稿が続き、更新のための更新になる
観察者スタートは知り合いゼロだからこそ効く

都市部に長くいた人が地元に戻る場合、実は「よそ者に近い目」を一時的に持てるという利点があります。長年住んでいる方には当たり前すぎて見えなくなっているものが、戻ってきた側にはくっきり見えるからです。

その目を活かす動き方はシンプルです。地元の商工会か市町村の移住・産業支援窓口に、就業規則で認められる範囲で一度立ち寄り、「この地域で今、足りていない仕事は何ですか」と一つだけ聞いてみることです。名刺を配りに行くのではなく、聞き役に回るための訪問です。

Uターン後の最初の一週間は、商工会か地元の産業支援窓口に一度足を運び、地域で足りていない仕事を一つだけ耳に入れて帰ってきてください。持ち帰るのは相談窓口の担当者の言葉一つで十分です。その一つが、あとで準備の方向を決める材料になります。

拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、才能のない人は一人もいないという考え方を紹介しています。都市部の勤め先で積み上げた経験は、地元では珍しい視点として残っていることが多く、資格の有無より、その人固有の観察のほうが土地に合う商品の入口になります。

桧山さんの、地元に戻って半年から一年半までの変化

桧山さん(仮名・40代後半)は、首都圏の小売チェーンで20年以上、店舗運営と仕入れの仕事を続けてきた方です。両親の介護がきっかけで、生まれ育った地方都市へUターンする決断をしました。戻る前は「地元だから何とかなる」と考えていたそうです。

戻って半年、景色は思っていたのと違いました。同級生は皆、自分の暮らしと仕事で手一杯です。声をかけても近況報告で終わり、仕事の話には進みません。地元で長く続いている個人商店主に自己流で挨拶回りをしてみたものの、名前を覚えてもらう段階でとどまり、半年ほど動きが止まったといいます。

転機は、起業18フォーラムのオンライン勉強会に参加したことでした。同じくUターンで動き始めていた他の会員さんから「戻ってすぐ人脈作りではなく、地元の同業のお店を客として一巡してから決めた」という話を聞き、自分は都市部の売り方をそのまま持ち込もうとしていたと気づいたそうです。翌週から進め方を変えました。

変えたのは、動く順番です。近隣の商店街を客として3週間かけて回り、値付け・品揃え・接客の癖を一つずつメモしました。次に地元の商工会の創業相談窓口に一度足を運び、「地域で足りていない販路の作り方は何ですか」と一つだけ質問して帰ってきました。動き始めて三ヶ月、方向が徐々に定まってきたそうです。

桧山さんはUターンから一年半後、都市部で扱っていた小売の知識を活かした地元農産物の少量詰め合わせをオンラインで月20件ほど扱うようになり、単価は当初考えていた1,000円台から3,000円台へと引き上げられました。同じ商品でも、届け先と見せ方を土地の観察に合わせて組み直したことで、単価そのものが変わった経験でした。

桧山さんの言葉が印象的でした。「戻る前は、知り合いを増やすことが起業準備だと思っていました。今は、地元をもう一度見る時間が準備だったと分かります」。観察者の目で入ったからこそ、都市部の経験が資産として残ったのだと私は見ています。

Uターン40代の方は決して少数派ではない

Uターン先で起業準備を進めることに孤独感を覚える方が多いのですが、数字で見るとその立ち位置は少数派ではありません。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によると、開業時の年齢は「40代」が36.9%で最も多く、開業時の平均年齢は43.9歳と、調査開始以来最も高くなっています。勤め先の経験を持ったまま起業準備に入る流れは、年々厚みを増しています。

数字が語っているのは、40代からのスタートが「遅い」のではなく、むしろ主流に近いということです。長年の勤め先で培った目の付け所は、地元で仕事を作るときの元手になります。焦って人脈を追わなくてもよい理由が、この一つの数字にも表れています。

  • 最初の3週間:
    地元の商店街と同業のお店を客として一巡し、値付け・品揃え・客層をメモする
  • 4週間目:
    商工会か産業支援窓口を一度訪ね、地域で足りていない仕事を担当者に一つだけ聞く
  • 2〜3ヶ月目:
    都市部での経験と観察を突き合わせ、地域向けに商品の見せ方を一つ試す

ここに書いた順番は、Uターン40代の会員さんに共通して効きやすい流れです。人脈は結果として増えます。先に置くのは観察のほうです。

Uターン先で最初にすることは、看板を掲げることではなく、自分の足で街を歩いて、掲げる場所を選び直すことです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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