受験期の親は自分の夢を後回しにするしかない? 月1回の記録で準備をつなぐ形

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

中学3年生の子どもが受験生になり、塾代も送迎も増えました。平日の夜は塾の迎え、週末は模試や説明会の付き添いで、自分の時間がほとんど残りません。

1年ほど前から講座を開く準備を進めてきたのですが、教育費がかさむ時期に自分のことへお金と時間を使うのも後ろめたく感じます。起業準備は受験が終わるまで止めるべきでしょうか?

起業前質問集

● 回答

ご相談を読んで、夜の食卓が目に浮かびました。塾から戻ったお子さんが遅い夕食をとっていて、向かいであなたは模試の日程を確かめている。棚には塾の振込用紙が置かれていて、ご自身のノートはかばんの底に入ったままになっています。受験期の家には、多かれ少なかれこういう夜があります。

その中で「自分の準備は止めるべきか」と迷うのは、逃げ腰だからではありません。起業18フォーラムにも、受験期の親御さんから同じ相談が毎年届きます。家族の節目に合わせて進み方を組み替えようとしている時点で、向き合い方はむしろ誠実だと感じます。

ご質問にまっすぐ答えるなら、選ぶのは二択のどちらでもありません。受験期の起業準備は、作業をうんと縮めて記録だけは切らさない「維持モード」に切り替えるのが現実的な答えです。フル稼働は、いったん手放してかまいません。

受験期の一日から、親の時間はこうして消える

まず、止めたくなって当然だという事実から確かめます。受験学年の親の一日は、朝のお弁当づくりに始まり、日中は仕事、夕方は塾への送り出し、夜10時すぎの迎え、帰宅後は夜食の支度と翌日の段取りで埋まっていきます。

自分の机に向かえるのは、すべてが終わったあとの30分ほどです。その30分も、疲れて何も手につかないまま終わる日が少なくありません。続かないのは意志の弱さではなく、時間の構造の問題です。

時間と並んで、家計にも受験は実体のある重さでのしかかります。文部科学省の「子供の学習費調査」(令和5年度)によると、公立中学校の補助学習費(学習塾や家庭教師、参考書などにかかる費用)は年間平均271,574円です。月にならせば2万円を超える計算になります。

高校受験を前に塾通いが集中するぶん、この費用は私立中学校(236,986円)より公立中学校のほうが高いという逆転も起きています。「いまは自分のことをしている場合ではない」という感覚には、それだけの裏付けがあるわけです。だからこそ、全部やめるのではなく、この時期に合う大きさまで縮めることを考えます。

受験という制約には「終わりの日付」がある

ここで、受験ならではの性質に目を向けてみてください。いつまで続くか先の読めない事情と違って、受験には終わりの日付があります。入試日も合格発表も、すでにカレンダーの上に載っています。

終わりが見えている制約は、設計できる制約です。「いつ再開するか」を今日の時点で決められるのは、起業準備の足止め要因としては、実はかなり恵まれた条件だといえます。

試しに、手帳の来年3月のページに「準備をフル再開する日」を先に書き込んでみてください。日付がひとつ入るだけで、準備を「止める」が「待たせる」に変わります。

そのうえで、待たせているあいだに何を残すか。受験期の維持モードでやることは、次の3つに絞られます。

  • 作業は月1回に縮める:
    新しい作業は増やさず、続ける作業を月1回・1時間の枠に集約
  • 記録だけは切らさない:
    できたこと・気づき・耳にした困りごとを月にいちど3行で記す
  • 再開日を先に決める:
    合格発表の翌週など、戻る日付をカレンダーに先に確定
月1回・3行の「親の準備ログ」が止まった時間を資産に変える

相談の現場でよく話すのですが、動きが小さい時期ほど、記録する時間を先に決めて、記録そのものを切らさず積み上げていくことがあとで効いてきます。私はこれを「記録の連続性」と呼んでいます。流れて消えるはずだった日々の動きが、書き残した瞬間から、手元にたまる資産に変わるからです。

受験期の親がやるなら、形は「親の準備ログ」と呼べる程度の簡単なメモで構いません。書くのは、今月できたこと、気づいたこと、周りで耳にした困りごとの3つだけ。月にいちど3行なら5分で終わり、受験勉強の邪魔にもなりません。

効果がいちばん分かるのは、再開の日です。ログが残っていれば、自分がどこまで進んでいたかを思い出す作業から始め直さずに済みます。書きためた半年分の3行が、止まっていた時間をそのまま助走に変えてくれます。

受験の前に一本だけ仕込んだ、永瀬さんの録画講座

起業18フォーラム会員の永瀬さん(仮名・40代)は、職場で長く新人向けの資料づくりを任されてきた経験を生かし、「伝わる資料のつくり方」を教える小さな講座を1年がかりで準備してきた方です。ひとり娘が中学3年生に上がった春、説明会と模試で週末が埋まり始め、「受験が終わるまで全部止めよう」と決めかけていました。

考えが変わったのは、起業18の個別相談で、止まっていても動き続けるものを先に一つ仕込んでおくという発想に出会ってからです。永瀬さんは受験期に入る前の夏のうちに、対面でやるつもりだった講座を録画講座1本に作り替えて公開しました。

秋からは予定どおり維持モードに入りました。手を動かす作業はほぼ止め、月にいちどのログだけを続けたそうです。そのあいだも録画講座への申込みは月に2〜3件ずつ、淡々と届き続けました。金額にすれば月数千円でも、「商売は止まっていない」という事実が、送迎の夜の心の支えになったといいます。

春に受験が終わって準備を戻したとき、手元には半年分のログと、受講した方から届いた質問が残っていました。質問はそのまま次の講座の種になっています。永瀬さんは今の仕事を辞めないまま、講座の回数を少しずつ戻しているところです。

止まっていたのは手であって、準備そのものではなかった。維持モードの半年を、永瀬さんはそう振り返ります。フル稼働の手応えがなくても、細い線は引き続けられるのです。

今日できることは、子どもが寝たあとに5分だけノートを開き、この1ヶ月でできたことを一つ書き留めるだけで十分です。その一行が、受験が終わった日のあなたの再開地点になります。

塾代の振込にも送迎の夜にも、必ず終わりの日が来ます。受験期は夢を後回しにする期間ではなく、期限の決まった伴走の期間です。自分の記録を細く続ける姿は、目標に向かって机に向かうお子さんと、同じ側に立つ姿でもあります。

子育て中で時間が取れません。起業準備の時間はどう作りますか?
● 質問 未就学児を育てながら起業準備をしたいのですが、自分の時間がほぼ取れません。夜中に起きて作業すると体が

受験が終わった春の日、あなたのノートにはどんな半年が残っていてほしいですか? その1冊を具体的に思い描けたなら、維持モードはもう半分始まっています。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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