記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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イラストレーターとして仕事を続けてきて、そろそろ納品仕事に頼らないかたちで動きたい、と考える人が増えています。SNSのフォロワー数を追うことに疲れた、案件は来るけれど単価がじわじわ下がる、年齢を重ねた先の収入の伸びが見えない。こうした悩みは、絵が上手いかどうかよりも、収入の設計と仕事の取り方の問題で起こりやすいのです。
イラストレーターさんが起業の足場をつくるときに大事なのは、勤務先や受託案件で身につけた力を、自分の商品としてどう組み立てるかという視点です。ここでは、在職中から動ける4つのステップ、経験タイプ別のアイデア、踏みやすい失敗パターンまで順番に整理していきます。
イラストレーターの経験はそのままビジネスの素材になる

仕事として絵を納品してきた経験は、そのまま自分の起業の側の武器に変わります。社内の制作チームでスケジュールに合わせて絵を仕上げてきた、案件ごとに違うレギュレーションを読み解いてきた、修正指示を受けて納品物に着地させてきた。こうした働き方そのものが、外の世界では値段のつく動きなのです。
拙著『起業神100則』に「名もなき強み」という考え方が出てきます。本人にとって「これくらい誰でもできるはず」と感じる行動こそ、社外に出た瞬間に強みに変わるという話です。イラストレーターさんの場合、納期内に複数案を出す慣れ、ディレクターの言葉を絵に翻訳する力、自分の絵柄を相手の要件に合わせて寄せる柔軟性が、まさにこれに当たります。
商品は絵そのものだけではない
絵を売る、という発想を一段広げると、収入の作り方が変わります。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、商品のかたちを大きく4つに分けています。
- モノを渡すかたち(イラスト納品、ストックイラスト、グッズ、LINEスタンプ)
- やってあげるかたち(キャラクター制作、装画、漫画制作、似顔絵)
- 教えるかたち(オンライン講座、添削サービス、絵柄分析サービス)
- 場・機会を渡すかたち(コミッション仲介、コミュニティ、即売会主催)
この4つを意識すると、納品仕事一本足から少しずつ脱出する筋道が見えてきます。最初の1本目は受託でかまいません。問題は、その収入の脇に「描き続けなくても入ってくる仕組み」を置けるかどうかです。
在職中から動ける4つのステップ

順番をまちがえると遠回りになります。最初に「自分が指名された理由」を書き出すことから始めると、商品設計が早く決まります。
STEP1:指名された案件を30件書き出す
過去3年で「あなたに描いてほしい」と言われた案件を、納品物のジャンル・依頼元の業種・なぜ自分に頼んできたかの3列で書き出します。だいたい15件を超えたあたりで「同じ理由」が浮かびます。やわらかい線、パステル色、人物の表情、キャラクターのクセ。この「同じ理由」が、最初のポジションになります。
STEP2:ヒアリング20件で需要を確かめる
書き出したポジションが市場で求められているかを、SNSではなく直接の声で確かめます。在職中のつながり、過去のクライアント、勉強会で知り合った経営者など、メッセージで会話できる相手20人に「もしこのジャンルのイラストが必要になるとしたら、いつ・いくらで・どこに頼みますか?」と聞きます。
- 使う場面(販促物、採用LP、社内資料、ノベルティ)
- 予算の上限と下限
- 納期の感覚(1週間、1ヶ月、継続発注)
- 今までに頼んだ相手と不満点
この4点をひとり5分で聞ければ十分です。20件分の答えを並べると、自分が想定していた市場と実際にお金が動く市場のズレが必ず見えます。
STEP3:モニター案件を1件だけ受ける
ヒアリングで一番反応が良かった人にだけ、お試し価格で案件を引き受けます。価格は無料ではなく、相場の半額から6割。ここでの目的は売上ではなく、ヒアリング内容と納品物のズレを潰すことです。
完璧主義に陥る人ほど、ここで時間を使ってしまいます。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』にも「20点でいいから出してみる」という話が出てきます。20点の状態でモニターに出して、納品後にヒアリングし直したほうが、頭の中で100点を目指すより早く商品が固まります。
STEP4:開業届と価格表をセットで整える
モニター1件を納品し終えた段階で、開業届と価格表を同時に整えます。価格表はモニター価格ではなく、「継続して受けても疲弊しない」価格に書き直します。1枚あたりの単価だけでなく、修正回数の上限、ラフ提出本数、二次利用条件をひとつの表に並べます。価格表が決まらないまま受注を続けると、案件ごとに条件交渉に時間を取られて消耗します。
経験タイプ別に起業アイデアを逆算する

ここまでの実務経験が出版寄りか広告寄りかで、最初に組む収入の柱は変わります。描いてきた現場の通路を、そのまま自分の仕事の通路に引き継ぐのが最短ルートです。
出版・装画系の経験があるかた
書籍カバー、雑誌挿絵、児童書、漫画原作の経験があるかたは、出版社のつながりを起点に「特定ジャンルの装画専門イラストレーター」として動くと早いです。社内便利屋から外に出る瞬間に、ジャンルを絞り込むほうが指名が来やすくなります。ライトミステリー専門、児童書専門、医療系ノンフィクション専門のように、ジャンル一語で覚えてもらえる位置を取ります。
広告・販促系の経験があるかた
LP用バナー、SNS広告クリエイティブ、店頭POP、採用ページの経験があるかたは、中小企業や個人事業主との継続契約を狙えます。「月10本のバナー納品」を月額制で受けるパッケージ商品にすると、単発受託より単価と安定性が両方上がります。
ゲーム・キャラクター系の経験があるかた
ゲーム会社や玩具メーカーで原画を描いてきたかたは、IP立ち上げ期の中小企業や地域団体のキャラクター制作で重宝されます。マスコット1体ではなく、表情差分・ポーズ集・ガイドライン文書まで一式で納品する設計にすると、相手が運用しやすく継続発注に繋がります。
SNS・Webサービス系の経験があるかた
Vtuber、YouTuber、起業家のSNSアイコン、サムネイル、漫画コンテンツの経験があるかたは、ストック型の商品を組み合わせやすい立場にいます。クライアントワークの脇で、絵柄の素材集販売、LINEスタンプ、有料素材サイトへの出品を進めると、納期に追われない収入が育ちます。
教育・講師系の経験があるかた
専門学校・スクール・カルチャー教室で教えてきたかたは、講座型の収入を立てやすい立場です。1対1の添削サブスク、テーマ別オンライン講座、卒業生限定の継続コミュニティ。教えるかたちの収入は、絵を描く時間が減っても続けやすいのが特徴です。
- 出版=ジャンル特化で指名を集める設計
- 広告=月額パッケージで単価と安定性を両立
- ゲーム=差分・ガイドラインまで含めた一式納品
- SNS=受託と素材販売を二本柱に
- 教育=講座型で描く時間に依存しない収入
公的なデータで言うと、厚生労働省の職業情報提供サイト job tag では、イラストレーターが属する主な職業分類の統計として、令和6年賃金構造基本統計調査をもとにした全国の賃金(年収)が453万円と示されています。この統計は必ずしもイラストレーター職だけを表すものではありませんが、受託一本足から抜けておくと、年齢や案件単価に振り回されにくくなります。
拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』に「ストック思考とフロー思考」という整理が出てきます。受託案件は描いた瞬間に終わるフロー、素材集や講座は積み上がるストック。早い段階でフローの脇にストックを1本置いておくのが、長く描き続ける土台になります。
イラストレーターが踏みやすい3つの失敗パターン

会員さんに見られる典型例があります。どれも「絵が下手だから稼げない」のではなく、設計をまちがえているだけです。
SNSのフォロワー数を仕事の指標にする
フォロワー1万人を目指す前に、有料で発注してくれる10人を見つけたほうが現実的です。フォロワーが増えても発注が増えない時期は普通にあります。フォロワー数は通過点であって商品ではないからです。発信は続けるとしても、収入の判断基準には使いません。
クラウドソーシングの低単価競争で消耗する
1枚3,000円のキャラクターアイコンに何時間も使うサイクルに入ると、単価交渉も実績の積み上げも進まなくなります。低単価の案件は実績になりにくいです。相場の半額で何件こなしたかは、相場で発注したい相手から見えない数字なのです。プラットフォームを使うなら、最初の3件に限定し、ポートフォリオに載せられた時点で離れるのが安全です。
受託一本足のままフリーランスに飛び込む
クライアントワーク一本で独立すると、繁忙期と閑散期の収入差が大きく振れます。会社員のまま月5万円から受託を始め、半年後に素材販売、1年後に講座を足す、という順序のほうが続きます。
起業18フォーラム会員のTさん(仮名・34歳・既婚・広告制作会社で8年バナー制作)は、自己流で「何でも描きます」と打ち出してしまい、独立直後の半年間でクライアントワーク月収ゼロという状態が続きました。起業18フォーラム参加後、過去案件30件を書き出す勉強会で「中小製造業向けの採用LPバナー」を連続で頼まれていたと気づき、商品を「月10本の採用LPバナーパッケージ」1本に絞り直しました。13ヶ月目で月5万円、18ヶ月目で月18万円、現在は月30万円の継続収入になっています。
イラストレーターが起業を続けるための小さなリズム

イラストレーターさんが起業準備で消耗するのは、描く時間と仕事の設計時間が混ざってしまうときです。納品作業の合間に価格表を直そうとして、結局どちらも進まない。これは才能の問題ではなく時間設計の問題です。
朝の30分は描く時間、夜の30分は「商品設計、ヒアリング返信、請求書」と決めてしまうと、両方が前に進みます。朝晩30分は会社員のままでも確保できる時間枠です。1日1時間でも、半年で180時間積み上がります。

絵で食べていく、というかたちは一つではありません。受託で年収を上げる人もいれば、講座とストックを組み合わせて時間の余裕を取り戻す人もいます。自分の描いてきた現場のクセを、起業の通路に引き継ぐところから始めてみてください。
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