記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
本業のかたわら、趣味で手描きのチラシやPOPを作っています。知人のお店に何度か無料で作ってあげたら、いつのまにか「次もお願い」「友達だからタダで」が当たり前になってしまいました。かといって、今さら「お金をもらいます」と言い出すのは、ケチだと思われそうで怖いです。
友人や知人から「無料でやってよ」と頼まれたとき、関係を壊さずに線を引くには、どう伝えればいいのでしょうか?

● 回答
「友達なのに、お金を取るなんて冷たいだろうか」。そう感じて言い出せずにいる方は、驚くほど多くいます。答えは、断るか無料で受けるかの二択から降りることです。いちばん小さな有料メニューを一つだけ先に用意しておき、「これならこの値段でできます」と差し出す。断りでもタダ働きでもない、三つめの道がここにあります。
断り方を上手にしようとするより、いちばん手軽な有料メニューを先に決めておくほうが、友人との関係はずっと長続きします。お金の話を切り出せないのは、あなたが冷たいからではありません。渡せる形が手元にないから、その場で「タダか、断るか」の二択に追い込まれてしまうだけです。
「無料か拒絶か」の二択が関係をこじらせる
頼まれたときの反応は、大きく三つに分かれます。一つめは、頼まれるまま全部を無料で引き受ける形。二つめは、はっきり断る形。三つめが、いちばん手軽な有料メニューを差し出す形です。多くの方が一つめと二つめのあいだで揺れて、疲れてしまいます。
- 全部を無料で引き受ける:
最初は喜ばれても、頼む側は「これはタダで頼めるもの」と覚えます。回数が増えるほど断りにくくなり、こちらの負担だけがふくらみます。 - その場できっぱり断る:
角が立ちやすく、相手も気まずくなります。「頼んだこちらが悪かったかな」と、かえって距離ができてしまうことがあります。
仕事の世界でも、もめごとの入口はたいてい「最初に条件を決めなかったこと」にあります。
内閣官房が2020年に公表したフリーランス実態調査では、トラブルを経験した1,220人のうち、最も多かったのは「発注の時点で報酬や業務の内容が明示されなかった」で、37.0%でした。
また、2024年11月施行のフリーランス法では、事業者間の対象取引について、発注事業者は業務内容や報酬額などの取引条件を直ちに書面または電磁的方法で明示する必要があります。
友人・知人からの個人的なお願いに同法が当然に適用されるわけではありませんが、「無料でやって」も条件を最初に決めないと、あとになって気まずくなる点は同じです。
最小の有料メニューを先に用意する
ではどう用意するか。ここで役に立つのが、商品を役割で分ける考え方です。拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、商品をフロント・バック・サイド・ストックの4つに分けて考えると紹介しています。このうちフロントは「お試し」にあたる、いちばん手軽な入り口の商品です。友人・知人への答えは、このフロントを一つ持っておくこと。無料と本格依頼のあいだに、お試しの一段を用意しておくイメージです。
- いちばん手軽な一品に絞る:
フルの制作ではなく「チラシ一枚だけ」「POP三点まで」など、範囲を区切った一番軽いメニューを決めます。 - 迷わない値段をつける:
自分が「これならありがたい」と感じる金額をそのまま出します。相場探しより、続けられる値段が先です。 - 頼まれる前に一言添える:
「最近こういう形で受けているんだ」と会話のなかで先に伝えておくと、次に頼むときの前提が変わります。
この一品があれば、頼まれた瞬間に迷わずにすみます。断るのではなく、メニューを見せて選んでもらう。相手も「タダでとは言いにくいな」と自然に気づいてくれます。
神崎さんが「言い値」をやめられた理由
本業を持ちながらチラシ制作を頼まれていた神崎さん(仮名・40代後半)も、最初は言い値、というより「気持ちで」受けていました。断れずに無料で作り、お礼のランチだけが続く。作るほど本業を削っていることに、うすうす気づいていたそうです。
言い値をやめられたのは、起業18フォーラムの勉強会に毎月通うようになってからでした。同じように趣味の延長で頼まれていた会員が、手軽な有料メニューを一つ決めて線を引いている様子を見て、「自分にもできそうだ」と思えたと言います。
神崎さんが用意したのは、「チラシ一枚・データ渡しで三千円」というお試しメニューでした。頼まれたら、まずこれを見せる。それだけで「タダで」という空気は消えていきました。制作の依頼は月に5件ほどで落ち着き、半年後には、この趣味からの月収がおよそ5万円になりました。無料で頼まれることも、ほとんどなくなったそうです。
神崎さんが変えたのは、値段そのものではなく「先に見せる形を持ったこと」でした。同じ腕でも、渡し方が変わるだけで、相手との関係の空気は変わります。
まずは、いちばん手軽なお試しメニューを一つだけ決めて、次に頼まれたときに『これならこの値段でできるよ』と提示してみてください。
値段は、完璧な相場を調べてからでなくてかまいません。あとからいくらでも直せます。
迷ったら、あなたが一度でも「これはありがたい」と感じた金額を、そのまま最初のメニューの値づけにしてみてください。

友人からの「無料で」に、気の利いた断り文句はいりません。渡せる一品を一つ用意しておくだけで、あなたは今日から、断らずに線を引けます。
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