起業する前に使ったお金は経費にできますか? 領収書はいつから残す?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

自分の事業を持ちたくて、少しずつ起業の準備を進めています。これまで本を買ったり、セミナーに参加したり、名刺を作ったりと、準備のためにあれこれお金を使ってきました。ただ、まだ開業もしていませんし、経理の経験もありません。

開業する前に使ったこういうお金も、あとから経費にできるのでしょうか。領収書はいつの分から残せばよいのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

起業の準備で使ったお金は、開業前の支出でも事業との関係を説明できれば、税務上処理できる場合があります。広告宣伝費、名刺の作成費用、開業準備の打ち合わせ費用など、開業のために特別に支出した費用は、個人事業の開業費として扱えることがあります。ただし、すべてが開業費になるわけではありません。

これは2026年時点の国税庁の取り扱いにもとづきます。だからこそ、領収書は開業前に使った分から取っておく値打ちがあるのです。

開業前のお金は「開業費」にまとめられる

開業費とは、事業を始めるまでに開業準備のため特別に支出した費用です(所得税法施行令第137条)。事業に直接関係する情報収集、広告宣伝、名刺作成、打ち合わせ費用(接待交際費)などが候補になります。一方、販売用の商品在庫、取得価額が1点10万円以上の機械・パソコンなどの固定資産、敷金・保証金、借入金の元本(返済額)、私的支出は開業費にまとめず、それぞれの性質に沿って処理します。書籍代やセミナー参加費も、事業との具体的な関係を説明できることが前提です。

ここが見落とされがちなところです。個人事業の開業費は繰延資産にあたり、任意償却が認められています。開業後、未償却残高の範囲で必要経費にする額を選べ、60か月(5年)を過ぎたからといって残高が直ちに消える扱いでもありません(国税庁質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」)。計上内容と残高が追える帳簿を残してください。

黒字が出た年に多めに償却する選択はできますが、ほかの所得、青色申告、損失の繰越などで有利な処理は変わります。金額が大きい場合は税務署や税理士へ確認してください。

  • 開業費(繰延資産):
    開業前に準備のため特別に支出した費用を繰延資産として計上し、開業後に任意償却できる資産
  • 一般の経費:
    開業後に事業のために使い、原則として支出した年に計上する費用
  • 家事按分:
    自宅や車など生活と事業で共用する費用のうち、事業使用分の区分

この3つは、時期だけではなく支出の性質と目的で分けます。開業前でも固定資産や在庫になるものがあり、開業後でも資産計上が必要なものがあります。生活と共用する費用は、事業分を合理的に区分します。

領収書はいつから何年残すか

「開業日より前の分は関係ない」と思って、古い領収書を捨ててしまう方がいます。ですが、これは逆です。開業前に使った分こそ、開業費を裏づける大切な証拠になります。日付が古くても、準備のために使ったものは残してください。

では、いつまで残せばよいのでしょうか。保存する期間には目安があります。

白色申告では、領収書や請求書などの書類は原則5年、収入や経費を記載した法定帳簿は7年の保存が必要です。青色申告では帳簿・決算書類・領収書等が原則7年(一部の書類は5年)、消費税の課税事業者が保存すべき請求書等は申告方法を問わず7年となります。メールやウェブから受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、電子帳簿保存法の規定に沿って電子データのまま保存してください(2024年1月以降、電子取引データの電子保存は完全義務化されています)。

  • 開業前に準備で使った領収書の廃棄
  • 種類を分けないレシートの一括保管
  • 日付・支払先・目的を示すメモの欠落

やってはいけないのは、この3つです。あとで見返したときに何の支出か分からなくなると、せっかくの開業費を活かせません。

家事按分は「使った割合」で考える

自宅の一室を仕事場にする場合、家賃や電気代、通信費のうち事業に直接必要な部分を合理的に区分できれば、必要経費にできることがあります。これを家事按分といいます。開業前の支出をすべて開業費にするのではなく、事業開始日、契約内容、利用実態に沿って判断します。

割合は「なんとなく半分」ではなく、部屋の面積や使う時間など、取引の記録にもとづいてあとで人に説明できる根拠で決めてください。根拠を残しておけば、迷わず経費に反映できます。

今から記録を始めるとよいのはどんな人か

とはいえ、全員が今日から細かく記録する必要はありません。今どの段階にいるかで、やるべきことは変わります。

  • 準備で月に数千円以上を使っている人
  • 開業時期をおおよそ決めている人
  • 自宅や自分の車を仕事にも使う予定の人

この黄枠に当てはまる方は、今から記録を始める値打ちがあります。逆に、まだ何を始めるか探している入口の段階なら、お金の記録より先に、やりたいことを一つ試してみるほうが先です。

会員さんの例:月1枚の記録で不安がやわらいだ

起業18フォーラムにいた白鳥さん(仮名・40代・事務職)は、経理をやったことがなく、準備で使ったお金のレシートを引き出しに放り込んだままでした。何にいくら使ったのか自分でも分からず、「このお金、全部むだになるかもしれない」と気持ちが沈む日が続きました。

整理がつき始めたのは、起業18フォーラムの勉強会で、ある会員さんが月に1枚だけ記録用紙をつけている話を聞いてからでした。月末に一度、使ったお金を項目ごとに書き写し、開業費になりそうなものへ印をつける。白鳥さんもその日から、同じやり方をまねてみました。

続けて11ヶ月。気づけば月ごとの記録が積み上がり、開業費の全体像が1枚ずつたどれるようになりました。数字が見えると、あれほど重かった不安がやわらいでいったのです。

拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』で、「知・人・金」という3つのチカラを紹介しています。この「金」は、大きな元手をためることではなく、お金の流れを開業前から自分で育て、記録しておくことを指します。白鳥さんの月1枚の記録は、まさに準備段階から「金のチカラ」を育てる作業でした。

  • 開業前の支出を性質に応じて分ける開業費・資産・在庫の区分
  • 開業前からの領収書保管と、白色申告における書類の5年・法定帳簿の7年保存
  • 月に1枚から始める支出記録

今日できることは、表計算や会計ソフトに、日付・支払先・金額・目的・支払方法・証拠の保存先を1件ずつ記録することです。開業費か資産か判断に迷うものへ印をつけ、申告前に国税庁の案内、税務署、税理士へ確認しましょう。

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● 質問 数字が大の苦手で、家計簿は三日坊主で終わってばかりです。起業すれば帳簿や経理がついて回ると聞いて、そ

今日からいきなり開業届を出す必要はありません。気になる制度を一つ調べてみる。その一歩だけで、あなたの準備は確かに前へ進みます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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