記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
50代に入り、勤めてきた会社を早期退職して自分の仕事を始めようか迷っています。ただ、辞めた直後に収入がゼロになるのが怖くて、なかなか踏み切れません。
会社を辞めて起業する場合でも失業保険はもらえるのか、開業届を出すタイミングとどう関わるのか、どの順番で動けばいいのでしょうか?

● 回答
辞めた直後に収入が途切れ、もし失敗したらもう元の勤め先には戻れないのではないか。早期退職を前にすると、この不安が先に立って動けない方が本当に多いのです。基本手当の判断では、開業届の有無だけでなく、実際に事業を始めたか、事業の準備に専念しているかが見られます。求職活動と並行できる範囲の準備、再就職手当、事業を始めた人向けの受給期間の特例(2022年7月新設、最大3年間)もあるため、着手前に管轄のハローワークへ相談することが大切です。
順番を取り違えると、受け取れるはずのお金を自分で手放すことになります。逆に制度を知って動けば、辞めてからの空白期間はかなり設計できます。
失業保険がもらえるのは働く意思がある人
ハローワークの基本手当は、就職しようとする積極的な意思と、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず職に就けない「失業の状態」の人が対象です。原則として、離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12ヶ月以上必要です。倒産・解雇などによる特定受給資格者や、正当な理由のある自己都合退職などの特定理由離職者には、離職前1年間に通算6ヶ月以上という特例があります。
裏を返すと、退職してすぐ事業だけに専念するつもりの人は、この失業の状態に当てはまりません。定年後にしばらく休もうという人や、家事に専念する人が対象外なのと同じ考え方です。辞めたら自動的に失業保険がもらえる、というイメージはここで一度崩しておいてください。
開業届だけで線引きしない
税務署への開業届は事業開始を示す資料の一つですが、提出日だけで基本手当が自動的に止まるわけではありません。実際の活動内容、事業への専念状況、収入や就職意思などをハローワークが個別に確認します。反対に、届出前でも事業を始めたり準備に専念したりすれば、失業の状態に当たらない場合があります。仕事、報酬、準備活動は隠さず申告してください。
- 求職と準備を並行する時期:
就職の意思と能力の維持、認定日での活動内容の申告、受給中に可能な準備の事前確認 - 事業を始める・準備に専念する時期:
失業の状態ではなくなる可能性、実際の開始日と活動の正確な申告
焦らないことが大切です。退職後はまず受給手続きを行い、事業の準備に着手する前に、予定する活動が基本手当や再就職手当の扱いにどう影響するかを確認してください。
無収入が怖いなら再就職手当を知る
辞めた後の空白がどうしても不安なら、再就職手当という制度も確認しましょう。一定の要件を満たす就職が中心ですが、事業を開始した場合も、継続性などについてハローワークの判断を受け、対象になることがあります。個人で開業すれば一律に支給される制度ではありません。
主な条件には、受給手続き後の待期7日を満了していること、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること、1年を超えて事業を継続できると認められること、過去3年以内に再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないことなどがあります。支給率は残日数に応じて60%または70%ですが、ほかにも離職前の事業主との関係や開始時期などの要件があります。必要書類と対象可否は、事業を始める前にハローワークで確認してください。
自己都合退職の給付制限は、2025年4月以降の離職では原則1ヶ月です(ただし、5年間で3回以上の自己都合離職に該当する場合は3ヶ月となります)。待期中に事業を始めた場合は再就職手当の対象になりません。さらに給付制限を受ける人が事業開始により再就職手当を申請する場合は、待期満了後の最初の1ヶ月を経過してから事業を始める必要があります。予定日と実態を示し、開始前にハローワークへ確認しましょう。
- まず求職の申し込み:
退職後の求職申し込みと基本手当の受給資格の確定 - 計画を事前相談:
予定する準備、事業開始日、収入見込みの共有と適用制度の確認 - 活動を正確に申告:
待期、給付制限、認定期間中の仕事や準備の申告と期限内の手続き
大切なのは、開業届の提出日を損得で動かすことではありません。実際の事業開始や準備への専念を基準に、ハローワークへ事前相談し、活動を正確に申告してください。
『お金がない』『今じゃない』の正体
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、起業に踏み出せない人がつい口にする「7つの口ぐせ」を紹介しています。「時間がない」「お金がない」「今じゃない」も、その中に並びます。
この三つに共通するのは、辞めた後の空白を「まるごと無収入の期間」だと思い込んでいることです。基本手当、再就職手当、事業開始後の受給期間の特例(2022年7月新設。事業を行っている期間を最大3年間受給期間に算入しない制度で、廃業後の再就職活動にも備えられます。申請は事業開始日の翌日から2か月以内にハローワークへ。なお、同じ事業で再就職手当を受給した場合はこの特例を申請できません)を使える場合はありますが、いずれも要件と個別判断があります。制度を資金計画に入れるなら、見込み額ではなく窓口で確認した内容を使いましょう。
起業に年齢の上限はありません。ただ、動き出す気力は年々細くなるのも事実です。50代で体力が、60代で気力が追いつかなくなる方を、これまで現場で数多く見てきました。だからこそ、迷っているうちに制度だけでも押さえておく価値があります。
起業18フォーラムに、早期退職を考えていた溝口さん(仮名・50代前半・男性)がいました。辞めた後の無収入が怖い一方で、勢いだけは先走り、「まず開業届を出して事業に専念しよう」と考えていました。ところが自己流のその段取りだと、基本手当をまるごと取り逃すところだったのです。
きっかけは、起業18フォーラムの勉強会でした。求職中の準備と事業への専念では扱いが異なること、再就職手当や受給期間の特例にも要件があることを、そこで初めて知ったそうです。溝口さんは自己判断で届出日を動かさず、ハローワークへ計画を伝え、待期・給付制限中の活動も申告しながら段取りを組み直しました。
動き出してからは早かったようです。初めての受注は開業の2ヶ月後、そこから紹介が続き、開業9ヶ月目には月20万円台に届きました。会社員時代の手取りには届きませんが、無収入の谷を作らずにここまで来られたことが大きい、と溝口さんは言います。
溝口さんの分かれ道は、才能でも資金でもなく、制度を知っていたかどうかでした。ここが、多くの人がつまずく最後のポイントになります。
溝口さんのように動くために、特別な準備は要りません。退職前はハローワークで加入期間や手続きの見込みを相談し、ねんきんネットで老後の見込み額を確認してください。基本手当の正式な受給資格決定は、離職後に求職を申し込み、離職票を提出してから行われます。

開業届は、勢いで今日出す必要はありません。仕組みを理解してから決めても、十分に間に合います。焦って順番を飛ばすことだけ、避けておきましょう。
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