記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
有名な芸能人をモチーフにしたぬいぐるみや抱き枕を作って、販売したいと思っています。肖像権や著作権が気になるのですが、そっくりに作らず似ているだけなら問題ないのでしょうか?
お金を払えば作れるとしたら、相場はどのくらいなのでしょうか?

● 回答
最初に結論をお伝えします。本人の顔や名前を商品の魅力そのものにして売ると、パブリシティ権という権利に引っかかり、原則として無断ではできません。「似ているだけ」「名前を少し変えた」で逃げ切れると考えるのは危ういところがあります。

ただ、ここで話を終わらせると「では何もできない」で止まってしまいます。私が起業の相談を受けてきた中でも、好きな対象をきっかけにグッズを作りたいという入口は珍しくありません。だからこそ、権利のどこからがアウトなのかを正しく押さえたうえで、自分の作品で起業へつなげる道筋まで一緒に見ていきます。
肖像権・パブリシティ権・著作権の違いを1分で
まず、混同されやすい3つの権利を切り分けておきます。ここを曖昧にしたまま進めると、判断を誤りやすくなります。
- 肖像権:
本人の許可なく顔などを撮影されたり、その姿を公表・利用されたりしない権利です。芸能人かどうかに関係なく、誰もが持っています。 - パブリシティ権:
氏名や肖像が持つ「お客さんを引き寄せる力(顧客吸引力)」を、経済的に利用する権利です。有名人の名前や顔をグッズの売りにする場面で、特に問題になります。 - 著作権:
写真やイラスト、キャラクターといった創作的な表現を守る権利です。芸能人本人ではなく、その写真を撮った人やキャラクターを生んだ人に発生します。
抱き枕やぬいぐるみで芸能人を表現したいという話の中心は、3つ目の著作権というより、2つ目のパブリシティ権にあたることがほとんどです。有名であること自体が商品の魅力になっているからです。
最高裁が示したパブリシティ権侵害の3つの型
パブリシティ権の線引きは、感覚論ではなく判例で示されています。最高裁判所は平成24年(2012年)2月2日のピンク・レディー事件の判決で、氏名や肖像が持つ顧客吸引力の利用を目的とする使い方を、次の3つの型に整理しました。自分の企画がどれかに当てはまるなら、原則として本人や事務所の許諾が要ると考えてください。
- 独立して鑑賞の対象にする:
本人の名前や姿そのものを商品にする型です。ブロマイドやポスター、本人を再現したぬいぐるみがここに入ります。 - 商品の差別化に使う:
本人の名前や顔をあしらって、他の商品と差をつける型です。Tシャツやマグカップへのプリントが典型です。 - 広告に使う:
本人の名前や姿を、商品やお店の宣伝に使う型です。チラシやSNS広告がこれにあたります。
芸能人をイメージできるぬいぐるみは、まさに1つ目の「本人を鑑賞の対象として再現する」型に近づきます。実際、タレントやアーティストの権利を守るために、肖像パブリシティ権擁護監視機構(JAPRPO)のような団体が無断利用を監視しています。気軽に作って売れる領域ではない、というのが出発点です。
「似ているだけ」「名前を変えれば」で逃げられるのか
相談でよく出てくるのが、「そっくりに作らず、似ている程度ならセーフでは」「名前を少しもじれば別物では」という逃げ道の発想です。気持ちはわかりますが、ここには落とし穴があります。
パブリシティ権で問われるのは、見た目がどれだけ精密かではありません。買う人が「あの有名人だ」と感じ取り、それが売れる理由になっているかどうかが本質です。フルネームを出さなくても、髪型・衣装・決めポーズ・キャッチフレーズの組み合わせで「あの人だ」と伝わるなら、顧客吸引力を借りていると判断されることがあります。

名前についても同じ考え方になります。タイトルやキャッチフレーズそのものには著作権が及びにくく、同じ名称の歌が世の中にいくつもあるのは事実です。けれども、特定の人物を連想させる名前を商品に使い、その連想で売ろうとすれば、パブリシティ権の問題は残ります。「形式的にずらしたから安全」ではなく、「連想で売っていないか」で見るのが正しい物差しです。
では、お金を払えば解決するのかという疑問もよく届きます。許諾を取れば道は開けますが、版権・肖像の使用料は人気の度合いで大きく変わり、個人が気軽に支払える水準とは限りません。料金も条件も権利者ごとに違うため、最終的には権利を持つ事務所などに直接問い合わせて確認するしかありません。
作る・売るの選択肢は、ここまで広がっている
ここからが本題です。権利の話で止まると「やめておこう」で終わりますが、自分で生み出したものなら、誰にも気兼ねなく売れます。むしろ今は、個人がオリジナルグッズで起業しやすい環境が整ってきています。
作る側では、すべてを自作しなくても、1個から受注生産でぬいぐるみを起こしてくれる工場があります。プリントオンデマンド(注文が入ってから印刷・制作する仕組み)を使えば、在庫を抱えずにグッズを商品化することもできます。
売る側の土台も育っています。経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表)によると、2024年の国内の物販系ネット通販(BtoC-EC)市場は15兆2,194億円、買い物全体に占めるネット利用の割合(EC化率)は9.8%でした。作品をネットで売る土俵そのものが、年々大きくなっているということです。
個人向けでは、ハンドメイド作品を出品できるminneやCreemaがあります。販売手数料はminneが10.66%(税込)、Creemaが10.67%(税込、送料を含む決済総額に対して)という水準で(いずれも2025年11月改定後の料率)、元手をかけずに出店から始められます。
狙うのは、大手が来ない「小さな池」で一番になること
ここで一つ、考え方の軸をお渡しします。拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、起業を陣取りゲームになぞらえて紹介しています。すでにお金が流れている場所に、自分の商品を置いていく考え方です。これは遠回りに見えて、いちばん確実な始め方になります。
芸能人モチーフという人気の池は、大手も権利者も本気で守っている、競争の激しい場所です。個人がそこへ無断で入っても、勝てないどころか権利の壁にぶつかります。そうではなく、大手がわざわざ来ない小さな池を選び、そこで一番になる発想です。
たとえば、ある趣味の世界観だけを徹底して表現したぬいぐるみ。特定の職業や地域に深く刺さるモチーフのグッズ。対象を狭めるほど、その人たちにとって「これしかない」存在になりやすくなります。
借り物の人気に乗ると、土台ごと崩れやすい
かつてのマネーの虎には、有名人やキャラクターの人気を借りて一発を狙う企画が、何度も登場しました。その多くが続かなかった理由は、はっきりしています。商売の土台が他人の名前に乗っていると、その看板を貸してもらえなくなった瞬間に、事業ごと崩れてしまうからです。
権利の許諾が下りるかどうか、いつ打ち切られるか。すべて相手次第の商売は、自分では舵を取れません。これは、似せたグッズで一時的に売れたとしても変わらない弱点です。だからこそ、最初は地味に見えても、自分の名前と作品で売れる土俵を作っておく。その積み重ねが、誰にも止められない事業になっていきます。借り物の人気で大きく当てるより、小さくても自分のものを育てるほうが、結局は遠くまで行けます。
よくある質問

Q.自分や家族をモデルにしたぬいぐるみなら、自由に売れますか?
はい。自分が一から創り出したものであれば、他人の権利には触れません。ご自身や家族をモチーフにした作品は、誰の許可も要らずに販売できます。自分発のデザインこそ、安心して育てられる資産になります。
Q.フリー素材やモデルの写真を使えば、グッズにしても大丈夫ですか?
規約の確認が欠かせません。ネット上での掲載は許可されていても、グッズ化には別途のライセンスが必要なことが多いからです。著作権フリーをうたう素材でも、商品化の可否は提供元ごとに違うので、利用規約を読んでから使ってください。
Q.似顔絵を描いて、SNSに載せるだけなら問題ありませんか?
個人で楽しむ範囲なら、過度に心配する必要はありません。問題になりやすいのは、有名人の名前と結びつけて販売したり、広告に使ったりして、その人気で利益を得ようとする場合です。趣味としての発信と、商売としての利用は線を引いて考えてください。
Q.許諾を取れるかどうか、どこに聞けばいいですか?
権利を管理している所属事務所や、権利者本人への問い合わせが基本です。料金も条件も相手によって変わるため、企画書の段階で一度確認しておくと、後戻りを防げます。返答を待つ間に、自分発のデザイン案も並行して進めておくと安心です。
今日の一歩として、出品を考えているハンドメイドマーケットの「禁止商品」や「著作権・知的財産」のヘルプページを、1つだけ開いて読んでみてください。登録はまだ先で構いません。何がダメで何が大丈夫かの感覚が、ここでぐっとつかめます。

権利の壁は、夢を止めるためにあるのではありません。自分の作品で勝負する人を守るための線引きでもあります。借りた人気に頼らず、自分の手から生まれたものを小さく出すところから、グッズ起業の一歩を踏み出してみてください。
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