記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
役職定年で給料が下がりました。今から起業の準備を始めるのは、もう遅いでしょうか?

● 回答
「定年してからでは遅い」。そう思って焦る方こそ、実は準備にいちばん向いた時間を手にしています。役職定年で給料が下がったタイミングは、起業準備の出遅れではありません。むしろ、ここから動き出す人を私はたくさん見てきました。
役職が外れ、収入も少し減る。その変化を「下り坂の始まり」と受け取るか、「ここから別の道を試す合図」と受け取るかで、その後の数年はまったく違うものになります。役職定年は、起業準備を本気で始める人にとってはむしろ追い風になります。その理由を、順番に見ていきましょう。
役職定年で給料が下がるのは、あなただけではありません
まず、いまの状況を一人で抱え込まないために、数字をひとつ見ておきましょう。週刊ダイヤモンドが2022年に実施した独自調査(有効回答211件)では、役職定年で年収が下がった人のうち、「1割から3割減」が53%を占めました。さらに3割から5割減った人も2割近くいます。つまり、収入が下がるのは例外ではなく、役職定年を迎えた多くの人がたどる道です。
このダイヤモンドの調査では、従業員201人以上の企業の6割が役職定年の制度を持っていることも分かっています。あなたの給料が下がったのは、あなたの働きが足りなかったからではありません。多くの会社にもとから組み込まれた仕組みの結果です。だからこそ、自分を責める材料にする必要はありません。
ここで大事なのは、この変化を「終わり」ではなく「区切り」として扱うことです。区切りなら、その先に次の章を書けます。役職という肩書きが軽くなったぶん、これからは自分の名前で何ができるかを考える時間に充てられます。
「今からでは遅い」の正体は、年齢ではなく段取りの不安です
「遅い」と感じるとき、その不安の中身をほどいてみると、年齢そのものが問題なのではないことが多いものです。本当に引っかかっているのは、「何から手をつければいいか分からない」という段取りの不安です。やることが見えていれば、50代という年齢はむしろ強みに変わります。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、売上の段階を「最初の一人の顧客を獲得する段階」から順に整理して紹介しています。役職定年を迎えた方は、この最初の段階を進むうえで有利な材料を、すでにいくつも持っています。長年の仕事で培った専門知識、社内外の人脈、そして相手の事情をくみ取る判断力です。20代で起業する人が何年もかけて手に入れるものを、あなたは初めから握っています。
収入が下がったことにも、見方を変えれば意味があります。給料が満額のままだと、人はなかなか本気になれません。少し減ったからこそ、「自分の収入の柱をもう一本持ちたい」という気持ちが現実の行動に変わります。役職定年は、準備を先延ばしにしてきた人の背中を、ちょうどよく押してくれるタイミングでもあります。
同じ「あと数年で役職定年」から動き出した、富永さんの話
起業18フォーラムにいる富永さん(仮名・50代後半・男性・機械メーカーの管理職・子ども2人は大学生)は、役職定年で給料が下がったのをきっかけに、会社の外でも通用するのか確かめてみたいと考えるようになりました。動き出したのは、その年の春です。
とはいえ、最初は何をどう進めればいいのか分からず、休日に関連書籍を読んでは止まる、を繰り返していました。自分の経験が誰かの役に立つのか、確信が持てなかったのです。流れが変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で、同じ年代の会員が「あと2年で役職定年」という状況のまま月25万円の仕事を続けている話に触れたときでした。「年齢を理由にしていたのは自分のほうだった」と、富永さんは振り返ります。
そこからは、会員間の個別相談で段取りを一つずつ言葉にしていきました。自分の強みを「設備保全の現場改善を、中小企業の担当者に分かる言葉で伝えること」に絞り込んだそうです。
まずは知り合いの工場で相談に乗るところから始めて、半信半疑で動き出して10ヶ月目、初めて月の手取りが5万円を超えました。金額そのものより、「会社の肩書きがなくても、自分を頼ってくれる人がいた」という事実が、何よりの手応えだったと話してくれました。
富永さんが特別だったわけではありません。違いがあったとすれば、「遅い」と立ち止まる前に、同じ立場の人がもう動いている事実を知り、段取りを人に相談したこと。それだけです。
よくある質問

Q.役職定年後の起業は、何歳まで間に合いますか?
明確な年齢の上限はありません。帝国データバンクの2024年の調査では、新しく会社を設立した代表者のうち50代が25.2%を占め、20年ぶりの高い水準になりました。60代以上も2000年以降で最高です。多くの同世代がいま動き出しています。年齢より、今日から準備を始めるかどうかが分かれ目です。
Q.大きな元手がないと、起業はできませんか?
会社を辞めてすぐ店舗や設備を構えれば、たしかにお金がかかります。けれど、勤めながら自分の知識や経験を商品にする形なら、少ない元手でも始められます。役職定年後は本業の収入があるうちに試せるので、無理のない範囲から動けます。
Q.会社にばれずに準備を進められますか?
就業規則の確認が先決です。多くの会社では、まず本業に支障を出さないことが条件になります。準備段階で会社の備品や時間を使わず、休日や勤務時間外に進めれば、トラブルは避けやすくなります。心配なときは、人事や信頼できる窓口に確認しておくと安心です。
今日できることは、定年までの残り年数から逆算して、「準備に充てる年」を1つ決めておくだけで十分です。たとえば「来年の春までに、自分が誰の何を手伝えるかを固める」と決める。それだけで、時間の使い方が変わります。
役職定年は、これまで真面目に働いてきた人にだけ訪れる節目です。その経験と人脈は、肩書きが軽くなっても消えません。一人で抱え込まず、先に動き出した人の話に触れてみてください。

40代、50代でこの一歩を踏み出すか迷う気持ちは、よく分かります。けれど、迷えるだけの土台があるのは、ここまで真面目に働いてきた証拠です。
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