55歳、年下上司の下で働く今は起業の始めどきですか? 肩書に頼らない準備の進め方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

電機メーカーに勤める55歳です。今年の異動で、ひと回り以上年下の上司の下につくことになりました。仕事そのものへの不満というより、肩書が外れていく自分に何が残るのかと考えるようになり、起業という言葉が頭をよぎります。

定年まであと5年、この年齢から準備を始めるのは現実的でしょうか?

起業前質問集

● 回答

「年下の上司に頭を下げた年が、いちばんの仕込み時でした」。57歳で準備を始めた、ある会員さんの言葉です。私もこの見方に賛成で、55歳は遅いどころか、肩書と自尊心の置き場所を会社の外へ組み替えるのに、ちょうどよい始めどきだと考えています

とはいえ、頭で分かっても引っかかりは残りますよね。もう遅いのではないか。年下上司の下では気力が湧かない。肩書がなくなったら、自分には何も残らないのではないか。この3つの引っかかりを、相談の現場で実際にお答えしてきた順にほどいていきます。

「もう遅いのでは」への答え

まず、残り時間を正確に見ておきましょう。あと5年という感覚は、定年で仕事人生が終わる前提の数え方です。実際には、その前提のほうが先に崩れています。

厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」では、70歳までの就業確保措置を実施する企業が増えていることが示されています。また、高年齢者雇用安定法により、企業には65歳までの雇用確保措置も義務づけられています。社会の側はすでに、55歳を「終わりの5年前」ではなく「あと10年から15年働く人」として扱い始めています

時間は足りています。足りていないのは時間ではなく、その時間を何に使うかの決定だけです。だからこそ、遅いかどうかを悩む段階は今日で終わりにして構いません。

「年下上司の下では気力が湧かない」への答え

この気持ちは、怠けでも嫉妬でもありません。長年、社内の肩書という1本の物差しに自尊心を預けてきた方ほど、その物差しが逆向きに動いたときの揺れは大きくなります。預け先が1つしかないことが問題なのであって、あなた自身の価値が下がったわけではありません。

処方箋は、気合いの入れ直しではなく、評価の物差しを会社の外にもう1本持つことです。外の物差しの候補は、特別なものでなくて構いません。

肩書に代わる「外の物差し」の例

  • 教える物差し:
    後輩に伝えてきた段取りや勘どころを、社外の誰かに教えて喜ばれる
  • 相談される物差し:
    社内では当たり前だった判断の経験で、外の困りごとの相談に乗る
  • 仕組みの物差し:
    現場を回すために作ってきた手順や型を、小さな商品の形に整える

外の物差しが1本でも立つと、社内の上下関係は人生の一部分に縮みます。年下上司との関係を楽にする一番の近道は、社内で戦うことではなく、社外に評価の置き場所を作ることです。起業準備とは、この置き場所づくりの別名だと考えてください。

「肩書がなくなったら何も残らない」への答え

ここが、55歳のあなたが一番損をしている思い込みです。拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、自分が直接動く仕事を2割以下に抑え、残りの8割を仕組みや人に任せて回す「80%ルール」という考え方を紹介しています。事業を続けるうえで最後に効いてくるのは、自分が動く力ではなく、任せて回す力です。

振り返ってみてください。部下に仕事を割り振り、手順を整え、自分がいなくても現場が回る形を作ってきたはずです。それはまさに、80%ルールを会社の中で長年実践してきたということです。肩書は会社に返すものですが、任せ方と仕組みづくりの腕は、返さなくていい持ち物です。むしろ若い起業家の多くが、何年もかけてこの腕を後から身につけています。

小笠原さんに残っていたもの

起業18フォーラムの会員さんに、電機メーカーで生産管理を長く務めた55歳の小笠原さん(仮名)がいます。動き出しのきっかけは、起業18フォーラムの集まりで同年代の会員さんが社外で小さな講座を続けていると聞いたことでした。「自分より特別な経歴ではないのに」と感じた驚きが、年齢を言い訳にしていた自分への気づきになったそうです。

ただ、最初の半年は空回りしました。元管理職の構えのまま「製造業全般の経営改善コンサルタント」という大きな看板を掲げ、問い合わせはゼロ。経歴書を立派にするほど、誰の役に立つのかが見えなくなっていきました。

起業18フォーラムの個別相談で受けた問いは、「肩書ではなく、あなたに教わりたい人は誰ですか」というものでした。小笠原さんはそこで看板を畳み、中小工場の若手リーダー向けに、段取り改善だけを扱う少人数の勉強会へと絞り込みます。1回数人の小さな会です。それでも2年続けた今、受講者は気づけば延べ30名になり、修了者からの紹介だけで次の回が埋まるようになりました。会社は辞めず、講座の収入は月5万円前後です。

小笠原さんが言うには、一番変わったのは収入よりも社内での心持ちでした。外に「教わりたい」と言ってくれる人がいるだけで、年下上司との打ち合わせが不思議と苦にならなくなったそうです。

よくある質問

同じ年代の方から、よくいただく質問にお答えします。

Q.定年まで待って、退職金を手にしてから始めるほうが安全ではありませんか?

順番が逆です。給料という土台がある今のうちに小さく試すほうが、失敗の値段がはるかに安く済みます。退職金を元手にした一発勝負は、検証を一度もしないまま本番を迎える進め方です。定年までの5年は、待つ期間ではなく、安く試せる最後の期間だと捉えてください。

Q.社内に居場所がない気がするのに、外の活動まで始めたら、ますます浮きませんか?

逆の報告のほうが圧倒的に多いです。外の物差しを持った方は社内の評価に過敏でなくなり、かえって若い上司とも淡々と組めるようになります。まずは週末に1時間だけ、これまで後輩に教えて喜ばれたことを思い出す時間を取ってみてください。外の物差しの種は、たいていそこに埋まっています。

あなたの頭の中にも、講座、相談役、経験を生かした小さな商いと、いくつかの構想が浮かんでは消えているはずです。全部を育てる必要はないので、今日はそのうちの1つに丸をつけるところまでで十分です。

5年後の定年に向けて50代でやっておきたい起業準備の現実的な順番
「あと5年で定年か。同期はもう動いているらしいけれど、自分は何から手を付ければいいのかわからない」。先日、起業

完璧な準備が整う日は来ません。丸をつけた1つを持って、不安は抱えたまま、半歩だけ外に出てみてください。肩書では測れない持ち物が、55歳のあなたにはもう十分にあります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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