記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
起業して仕事を受け始めたところです。ここで迷っているのが、たくさんの件数をこなして経験を積むべきなのか、それとも一件一件をじっくり丁寧に仕上げて質を高めるべきなのか、という点です。
数を追うと雑になりそうで怖く、質を追うと数が増えません。件数と質、いったいどちらを優先すればいいのでしょうか?

● 回答
件数か、質か。とても真剣に考えている方ほど、この二択で立ち止まります。ただ、これは本来どちらかを選ぶ問題ではありません。順番の問題です。
「件数派」の言い分
まず、数をこなすべきという考えには、確かな理由があります。本当に怖いのは雑になることではなく、件数が少なすぎて自分の良し悪しを判断する材料が手に入らないことです。一件や二件では、自分の何が喜ばれ、何が外したのかが見えません。打席に立つ回数が少ないと、改善のしようがないのです。
「質派」の言い分
一方で、質を磨くべきという考えにも一理あります。雑な仕事を量産すれば、悪い評判が広がり、せっかくの縁を失います。一件を本気で仕上げれば、その満足が次の紹介を呼ぶ。これも事実です。
実は二択ではない、という第三の道
では、どちらが正しいのか。答えを言えば、初期は「件数を優先しつつ、一件ごとに質を学ぶ」のが正解です。最初は意図的に件数を増やし、そのすべてを次の一件を良くするための学びとして使うのです。件数と質は対立しません。数をこなすからこそ質が上がり、質が上がるからこそ次の依頼が増えます。
この土台になるのが、人とのつながりです。拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、いざというとき仕事を紹介してもらえる関係こそが本当に強い人脈であり、知・人・金の三つの力をバランスよく育てることが起業準備の要だと説いています。
件数を増やす相手は、遠くの他人ではなく、まずあなたを知っている近い人から声をかけるのが近道です。最初の数件は、見ず知らずの相手ではなく、気心の知れた人から引き受けるつもりで探してみてください。
では、この順番でつまずきを越えた方の話をご紹介します。
起業18フォーラム会員の黒田さん(仮名・30代前半・男性・建材メーカーの営業職・独身)は、資料作成の代行を始めた当初、一件を完璧に仕上げることにこだわりすぎていました。一件に何週間もかけてしまい、収入も実績もほとんど増えないまま時間だけが過ぎていたそうです。
転機は、自分の進め方を人前で発表したことでした。起業18フォーラムの勉強会で一件あたりの作り込みを誇らしげに語ったところ、「その完璧さは、お客さんが本当に求めている水準ですか」と問い返されたのです。胸を張っていたはずの丁寧さが、ただの自己満足だったかもしれない。そう突きつけられました。
発表を聞いていた会員仲間と、その後「合格ラインで早く出して、反応を見て直す」やり方を一緒に試し、進め方を入れ替えていきました。
準備開始から12ヶ月目には、引き受ける案件が月1件から月10件ほどに増え、件数を重ねるうちに一件あたりの完成度もむしろ上がっていきました。「数を避けていた頃より、質が上がったのが自分でも意外だった」と黒田さんは話してくれました。
件数と質は、どちらかを選ぶものではなく、件数の中で質が育つものです。今日できることは、いま抱えている一件を完璧に仕上げることより先に、この一か月で自分が実際に何件こなしたかを数え、来月はそれを何件上回るかという小さな目標を一つ立ててみることです。

件数か質か。その問いに時間を使うより、まず一件を出してみたとき、あなたは何を学べるでしょうか。答えは、考えている場所ではなく、動いた先にだけ落ちています。
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