記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「起業してみたいけれど、失敗したらどうしよう」。そう思って一歩を踏み出せないまま何年も過ぎてしまう。起業準備の相談を受けていると、こうした声を本当によく聞きます。リスクという言葉が漠然と大きく見えて、その正体がわからないまま立ちすくんでいる方が多いのです。
けれど、リスクは正体さえつかめば怖さの大半は小さくなります。起業のリスクは「人」「お金」「もの」「無形のもの」という4つの領域に分けられ、さらに具体的に並べると大きく8つの注意点に整理できます。一つずつ見える形にして、どれだけ起こりやすく、起きたらどれだけ痛いのかを評価すれば、対策の打ちようは必ずあります。
この記事では、起業に潜む8つのリスクを具体的に挙げ、それぞれの評価のしかたと現実的な対策をお伝えします。読み終えるころには「自分にとってどのリスクが重く、どれは軽いのか」が見え、踏み出すかどうかを落ち着いて判断できるようになるはずです。
リスクは消せないが小さくできる

最初にお伝えしたいのは、起業のリスクをゼロにすることはできないという事実です。会社員でいることにも、健康を損なうリスクや会社が傾くリスクがあります。リスクがあるかどうかではなく、リスクをどれだけ小さく管理できるかが本当の論点です。
リスクを管理するには、まず2つの軸で測ります。一つは「発生確率」、つまりそれがどれくらい起こりやすいか。もう一つは「影響度」、つまり起きたときにどれだけ痛いかです。この2軸でリスクを4つに仕分けると、優先順位がはっきりします。
- 確率が高く影響も大きい:最優先で対策する(例:開業資金の枯渇)
- 確率は低いが影響が大きい:保険や移転で備える(例:けがや病気で働けない)
- 確率は高いが影響は小さい:その都度対応する(例:小さな注文トラブル)
- 確率も影響も小さい:基本は様子を見る(例:軽微な備品の故障)
そのうえで対策は4つの引き出しから選びます。リスクの芽を断つ「予防」、痛みを和らげる「軽減」、保険などで他者に肩代わりしてもらう「移転」、そして許容範囲として受け入れる「容認」です。すべてのリスクに完璧な対策を打とうとせず、影響度の大きいものから順に手を打ってください。これだけで、漠然とした怖さはかなり輪郭のはっきりした課題に変わります。
人にまつわるリスクと対策

8つの注意点のうち、最初の領域は「人」です。具体的には、自分自身の健康というリスク、家族や周囲との関係というリスク、そして人を雇うときの採用のリスクの3つが含まれます。
個人で起業する場合、事業の中心はあなた自身です。あなたが倒れれば事業はそのまま止まります。会社員なら傷病手当金などの仕組みがありますが、独立後は自分で備えるしかありません。家族の理解が得られないまま走り出すと、肝心なときに足元から崩れることもあります。
- 健康を後回しにし、無理を重ねて体調を崩す
- 家族に相談せず進め、途中で強い反対にあう
- 準備不足のまま人を雇い、人件費に経営が圧迫される
- 就業不能に備える保険や貯蓄で、働けない期間の生活費を確保する
- 起業の意図と計画を家族に共有し、応援してもらえる関係をつくる
- 当面は外注や業務委託で対応し、固定費としての雇用は慎重に判断する
人のリスクは、起きると影響度が非常に大きい一方で、事前の準備でかなり下げられます。健康診断を欠かさない、家族と早めに対話する、雇用は最後の選択肢として考える。この3つを準備段階で決めておいてください。
お金にまつわるリスクと対策

多くの方がいちばん怖いと感じるのが、お金のリスクです。ここには「開業資金が足りなくなるリスク」と「借り入れが返せなくなるリスク」の2つが含まれます。ただ、お金は数字で測れる分、対策も立てやすい領域です。
実際のデータを見てみましょう。日本政策金融公庫『2024年度新規開業実態調査』によると、開業時の資金調達額は平均1,197万円で、その内訳は自己資金が平均293万円、金融機関等からの借り入れが平均780万円でした。同調査では、開業費用は長期的に少額化する傾向にあることも示されています。つまり、必ずしも大きな元手がなければ始められないわけではなく、規模を選べば必要額は抑えられるということです。
大切なのは、生活費と事業資金を分けて考えることです。事業が軌道に乗るまでの数か月から1年、収入が不安定でも暮らしを支えられる生活防衛資金を別に持っておくと、判断が金銭的な焦りに引きずられにくくなります。
- 最初は在庫や設備の少ない小さな形で始め、必要資金そのものを抑える
- 生活費の半年分以上を生活防衛資金として事業資金と分けて確保する
- 借り入れは返済計画を数字で立て、無理のない範囲にとどめる
会社員のうちに毎月の支出を把握し、半年分の生活費を貯めておくだけでも、お金のリスクの体感的な重さは大きく変わります。起業前に家計の固定費を見直し、いつでも縮小できる暮らしの形をつくっておいてください。
もの・無形のリスクと対策

残る領域は「もの」と「無形のもの」です。8つの注意点のうち、ものに関わるのは設備や仕入れのトラブル、無形のものに関わるのは信用と評判、そして契約や法律をめぐるリスクです。
ものの代表は、店舗や機材の故障、仕入れ先の都合による供給の停止です。これは在庫管理や代替先の確保で備えられます。一方、無形のリスクは見えにくく、対策が後回しになりがちです。納期の遅れやクレームへの対応の悪さが評判に響くと、回復には長い時間がかかります。
- 仕入れ先を一社に頼り切り、供給が止まったときに代替がない
- 契約書を交わさずに口約束で進め、後でトラブルになる
- クレーム対応を放置し、悪い評判が広がってしまう
- 仕入れ先や外注先は複数を確保し、一点集中を避ける
- 取引は書面で条件を残し、必要なら専門家に確認してもらう
- 火災保険やPL保険など、事業内容に合った保険でリスクを移転する
無形のリスクは、誠実な対応の積み重ねがそのまま予防になります。小さな約束を守り、トラブルには逃げずに向き合う。日々の対応の質を一定に保つことが、信用というもっとも壊れやすい資産を守る方法です。
ここまでで起業に潜む8つの注意点を一通り見てきました。さらに資金面の備えを詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

会社員のうちに小さく検証して潰す

8つのリスクを一つずつ見ると、対策にはある共通点があります。どのリスクも、起業準備の段階で小さく試して問題を先に見つけておけば、影響を大きく減らせるということです。これが最大のリスクヘッジになります。
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』に、会社を続けながら小さく起業準備を進めるという考え方が出てきます。会社員という安定した収入を土台に持ったまま、休日や朝晩の時間でサービスを試し、お金を払ってくれる人がいるかを確かめる。収入が途切れない状態で検証できることこそ、会社員から起業する人の最大の強みです。
起業準備の相談を26年、のべ60,000人ほど受けてきて、はっきり見えてきたことがあります。リスクが怖くて動けない会社員と、踏み出せた会社員を分けるのは、度胸ではありません。動き出せた方は、大きな不安を「お金」「人」「もの」「信用」と小さな課題に分割し、一つずつ検証して潰していました。漠然とした怖さを、対処できる具体的な課題に変えた人から動き出せるのです。
ここで、起業18フォーラムの会員である西村さんの例を紹介します。西村さんは40代の会社員で、業務で培った資料作成のスキルを生かしたいと考えていました。最初は独学で進めましたが、価格設定も集客もわからないまま見切り発車し、半年ほど受注はほぼゼロという状態が続きました。失敗を重ねたあと起業18フォーラムに参加し、勉強会で「まず小さく試して反応を確かめる」という順序を学んだことが転機になりました。
そこから西村さんは、いきなり独立するのではなく、会社員を続けながら知人向けに低価格でサービスを提供し、反応と改善点を一つずつ確かめていきました。検証で手応えをつかんだあとに本格的に動き出し、現在は月20万円ほどの売上を安定して得られるところまで来ています。いきなり大きく賭けるのではなく、会社員のうちに小さく検証してリスクを潰すという順序を、ぜひ自分の計画に組み込んでください。
よくある質問

Q.起業のリスクをゼロにする方法はありますか?
リスクをゼロにすることはできません。会社員でいることにもリスクはあるからです。目指すべきはゼロにすることではなく、発生確率と影響度の大きいものから順に対策を打ち、許容できる範囲まで小さくすることです。怖さの正体を具体的な課題に分けてしまえば、十分に管理できます。
Q.貯金が少なくても起業はできますか?
規模を選べば可能です。日本政策金融公庫『2024年度新規開業実態調査』でも、開業費用は長期的に少額化する傾向が示されています。在庫や設備の少ない形から始め、生活費とは別に半年分以上の生活防衛資金を確保しておけば、お金のリスクはかなり抑えられます。
Q.会社員を辞めてから準備したほうが集中できますか?
多くの場合、辞めてからではなく勤めながら準備するほうが安全です。会社の安定した収入を持ったまま起業準備を進めれば、検証に失敗しても生活が崩れません。お金の焦りに判断を引きずられず、落ち着いて見直せることが大きな利点になります。
Q.どのリスクから対策すればよいですか?
発生確率が高く、起きたときの影響度も大きいものから対策してください。多くの場合、それは開業資金の枯渇です。次に、起きる確率は低くても影響が大きい健康のリスクに、保険や貯蓄で備えます。すべてに完璧を求めず、優先順位をつけて一つずつ手を打つことが現実的です。
起業のリスクは、漠然と眺めているうちは果てしなく大きく見えます。けれど8つの注意点に分け、発生確率と影響度で測り、会社員のうちに小さく検証していけば、その多くは対処できる課題に変わります。怖さで止まらないために、まずは自分にとって重いリスクを一つ書き出し、その対策から始めてみてください。
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