30代後半で今後10年の先が見えないとき、何から始められる?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

IT企業で営業を7年目、38歳です。年収は上がっているのに、任される提案の裁量は逆に狭くなってきました。転職も少し覗いてはみましたが、この先10年をどう組み立てるかがはっきりしません。

仕事は回せているのに、この先が見えないという感覚のとき、起業準備という入口はあり得るのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

「気づいたら、任される仕事の幅が、狭くなっていました」。起業18フォーラムの勉強会に来ていた、38歳のIさんの言葉です。30代後半のキャリア停滞感は、転職か社内残留かの二択では答えが出づらい種類の悩みです。選択肢を1本増やす、という第三の入口があります。

転職派の言い分と、その限界

「動けるうちに動いたほうがいい」という判断は、理にかなっています。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査でも、年齢階級ごとに賃金水準の差が示されており、30代後半は社内で得られる情報だけでは市場価値の位置が見えにくくなります。だからこそ社外の数字(求人票や面接での提示額)で確認する意味があります。

ただし、転職しても、任される裁量の広さそのものは、会社の設計に依存します。役職や工程を変えても、この先10年の「自分の価値の作り方」の主導権は、依然として組織側にあります。

「このまま社内」派の言い分と、その限界

一方で、社内で続ける判断も、決して怠惰ではありません。7年で身に付けた提案フローや顧客理解は、社外で見れば十分な資産です。ただしそのぶん、「回せてしまう」ことが、次の10年の輪郭を、曖昧にします。同じ地図を歩き続けているかぎり、地図の外側は見えないままです。

二択ではない、第三の入口としての起業準備

ここに、もう1本の選択肢があります。今の勤め先を辞めずに、週末に手のひらサイズの受注を1件だけ持つ、という入口です。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査では、起業家の平均年齢が43.9歳と、開始年齢は年々上がっています。30代後半は、経験と体力の両方が使える、最後の助走区間だといえます。

  • 転職:
    役職や工程は変わるが、裁量の設計者は組織側のまま
  • 社内残留:
    既存資産は守れるが、地図の外側が見えない
  • 起業準備:
    週末の受注を1件持つと、自分の値付けと商品を持つ側に回る
舵を切った、東海林さん(仮名)の場合

舵を切ったのは、自分と同じ30代後半の会員さんの事例を聞いた夜でした。東海林さん(仮名・38歳・IT企業営業7年目)は、自宅の書斎で週末に、オンラインでの営業伴走を1件1.5万円で受けていました。件数は月に3件ほど、月額にして4.5万円ほどの、控えめな入口でした。少し前から起業18フォーラムの勉強会に通い始めていたそうです。

変化のきっかけは、フォーラムの勉強会で紹介された、同じ30代後半の会員さんの事例です。単価を倍にしても、依頼側の満足度は落ちなかった、という話でした。東海林さんは、これまで頭の中にしまい込んでいた伴走の手順を、紙1枚に書き出しました。「どこまでやる」「どこはやらない」「納品物は何か」を明文化するだけで、次の見積もりから、単価が変わりました。

17ヶ月後、単価は1件3万円、件数は月7件、月額にして21万円まで積み上がりました。単価が2倍になっても、件数のほうも倍増しています。増えたのは「言い値で受けてくれる人」ではなく、仕様書を読んで納得したうえで頼んでくれる人でした。別の月の実践報告会では、同じ手順を他の伴走案件にも再現したという話を聞きました。

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』の3つの力で整理する

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』の”3つの力”の考え方(商品・発信・信用の各面を整えていく)を紹介しています。東海林さんが動かしたのは、この中でも商品力の輪郭でした。値段を上げる交渉術ではなく、商品の中身を1枚に整えたことが、単価を運んでくる導線になりました。

  • 商品力:
    紙1枚の商品仕様書で「やる/やらない」を明文化する
  • 発信力:
    社内で頼られてきた提案フローを、外向けの言葉で言い直す
  • 信用力:
    納品物と対価の関係を、書面で先に握る

30代後半の停滞感は、能力の問題ではなく、能力が組織の中で「回せてしまう形」に収まっているだけです。輪郭を書き出す作業は、退職を決めなくても今日から始められます。

今日できる一歩を決める

いきなり大きな決断をしなくても、大丈夫です。今日は、勤め先の就業規則の中で、会社の外での仕事について書かれた項目を1か所だけ、目で見て確かめてください。多くの会社では、届出制か許可制か、どちらの形式なのかが、そこに書いてあります。許可制か届出制かを確認するだけで、次にできることの範囲が、1段はっきりします。

読み終えたら、今週末の90分だけ、これまで社内外で頼まれてきた仕事を紙1枚に書き出してみてください。転職の求人票を眺めるより、次の10年の輪郭が、ずっと具体的に立ち上がります。

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同じ場所で悩んでいる30代後半の方を何人も見てきましたが、こうして質問できる時点で、あなたはもう前に進み始めています。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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