記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
都市部に住んでいて、会社まで片道1時間半かかります。残業も多く、家に帰れば夜の9時、10時という日がほとんどです。いつか自分で何か始めたいのですが、毎日へとへとで、まとまった準備の時間がまったく取れません。
「通勤の往復3時間を使えばいい」とよく言われますが、満員電車で手も動かせず、現実には何も進みません。こんな多忙な状況で、起業準備の時間はどう作ればいいのでしょうか?

● 回答
まず、「通勤時間を準備時間として数える」という発想を、いったん手放してください。長時間通勤の会社員が準備でつまずく原因は時間の絶対量ではなく、性質の違う時間を一緒くたに数えてしまう設計のほうにあります。満員電車の往復は、手を動かす作業には向きません。そこを準備時間に組み込むと、計画は最初から狂います。
これまで多くの都市部勤めの会社員から相談を受けてきましたが、忙しい方ほど「空いている時間を全部かき集めれば足りるはず」と考えがちです。けれど実際に前へ進んだ人は、時間を量ではなく役割で分けていました。
「通勤を使えば足りる」という思い込みを外す
総務省の「令和3年社会生活基本調査」によると、通勤・通学にかける時間が最も長いのは神奈川県で、1日あたり往復1時間40分でした。千葉県や東京都も往復1時間35分前後で続きます。全国平均の1時間19分と比べても、都市部の通勤は明らかに長いことが分かります。
この数字を見ると、「往復1時間半も使えるなら準備は進むはず」と思えてきます。けれど、移動時間の長さと、手を動かして準備できる時間の長さは、まったく別のものです。立ったままの満員電車では、読むことはできても、書いたり試したりはできません。だからこそ、時間を「何ができる時間か」で仕分ける必要があります。
- 通勤の往復をそのまま作業時間として計画に入れる
- 帰宅後のへとへとな夜に、頭を使う作業を回そうとする
- 休日にまとめてやろうと先送りし、結局動けない
この3つは、多忙な都市部の会社員によく見られるつまずき方です。どれも、時間の中身を見ずに「空いている枠」だけを数えている点が共通しています。視点を「その時間に何ができるか」へ移すと、組み方が変わります。
時間を役割で分けると準備が動き出す
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』に、案ずるより産むがやすしという言葉があります。準備が完璧に整う瞬間は来ないので、調べ続けるより小さく試すほうが早い、という考え方です。これを多忙な人の時間設計に当てはめると、「リサーチ」「検証」「定着」の3つに時間の役割を分けるのが効きます。
リサーチは情報を入れる時間で、通勤や昼休みのスキマで十分に進みます。検証は実際に手を動かして小さく試す時間で、ここだけは机に向かえる短い枠を別に確保します。定着は試した結果を振り返って次につなげる時間です。通勤は「リサーチ専用」と割り切り、検証用の机に向かう30分を週に何回取れるか、まずそこだけを決めてみてください。
望月さんが時間の役割を分けて前に進むまで
起業18フォーラム会員の望月さん(仮名・30代後半・都市部在住の通信系企業勤務)は、片道1時間20分の通勤と多い残業に追われる方でした。準備を始めた当初は、独学で「通勤の往復を全部勉強に充てる」という計画を立てたものの、満員電車では集中できず、帰宅後は疲れて何も手につかなかったといいます。「自分には時間がない」と、半年ほど足踏みが続きました。
転機は、勉強会で「時間は量より役割で分ける」と聞いたことでした。望月さんは、通勤は同業者の発信を読むリサーチ専用と決め、検証は土曜の朝の30分だけに絞りました。その30分で、勤務先で培った業務マニュアルづくりの経験を、小さな相談サービスとして試し始めたのです。
往復3時間を作業に充てようとしていたときは何も残りませんでしたが、役割を分けた瞬間、毎週確実に小さな前進が積み上がるようになりました。現在は会社員を続けながら、月4万円ほどの収入を1年近く安定して得ています。時間が足りないという感覚が、時間の使い分けができていなかっただけだと分かったのです。
- 通勤と昼休みは情報を入れるリサーチ専用と決める
- 手を動かす検証は、机に向かえる短い枠を週単位で確保する
- 試した結果を振り返る定着の時間を、検証の直後に少しだけ置く
望月さんがたどった順番を整理すると、この3段階になります。まとまった時間がなくても、性質の違う時間にそれぞれの役割を割り振れば、多忙な日々のなかでも準備は前へ進みます。へとへとな夜に頭を使う作業を回そうとするから、続かなくなるのです。
長時間通勤の会社員が本当にやるべきは、空き時間をかき集めて量を増やすことではなく、いま持っている時間に役割を与えて使い分けることです。今日できることは、自分の1週間の時間を「読むだけならできる時間」と「手を動かせる時間」の2種類に色分けして書き出すだけで十分です。

足りないのは時間そのものではなく、時間に役割を与える設計のほうかもしれません。
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