記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「定年してからでは遅い」。そう思って焦っている方こそ、実は準備にいちばん向いた時間を手にしています。役職定年で現場の第一線から一歩引き、これまでより手元の時間が増えた50代の方からの相談が、ここ数年で目に見えて増えました。
給料は下がる、会社での出番も減る。けれど時間だけは戻ってきた。この時期に何から手をつけるかで、定年後の景色はずいぶん変わります。順番を取り違えると、せっかくの数年を「情報を集めただけ」で使い切ってしまいます。逆に順番さえ合っていれば、定年を迎えるころには収入の柱が一本立っている、ということも十分に起こります。
役職定年は「終わり」ではなく準備のスタート地点

役職定年は、多くの会社で55歳前後に設定されています。部長や課長といったラインから外れ、給与も2〜3割ほど下がるのが一般的です。立場が変わったことに気持ちが追いつかず、しばらく宙ぶらりんになる方も少なくありません。
ただ、ここで視点をひとつ変えてみてください。役職が外れて空いた時間は、定年後の自分への投資に回せる数少ないまとまった時間です。現役で忙しかった40代には、なかなか取れなかった余白です。この余白を「暇」と受け取るか「準備期間」と受け取るかで、その後が分かれていきます。
数字で見ると、55歳から定年までは案外短い
仮に55歳で役職定年を迎え、65歳が定年だとすると、残りはちょうど10年です。週に5日働くとして、1年で約240日。10年で2,400日ほどになります。長いようでいて、何かを一から育てるには、決して余裕のある日数ではありません。
だからこそ、順番が大切になります。残りの年数を先に数えておくと、「いつまでに何を終えておくか」の感覚が生まれます。漠然と「定年後はのんびり」と考えているうちは、この感覚が働きません。
なぜ「お金の計算」より先に「時間の計算」なのか

50代から起業準備を考える方の多くが、最初に「資金はいくら必要か」を調べ始めます。気持ちはよく分かります。お金の不安がいちばん大きいからです。けれど私のこれまでの起業支援の経験では、お金の計算から入った方ほど、途中で手が止まりやすいのです。
理由はこうです。金額だけ見ると「やっぱり足りない」「リスクが大きい」と腰が引けてしまう。一方で、残りの勤務年数と、定年後に毎月いくら不足するかを先に出しておくと、目標がぐっと現実的になります。「月にあと5万円あれば暮らしが回る」と分かれば、用意すべき収入の柱の大きさが具体的に見えてきます。
「不足額」が分かれば、目指す規模が下がる
老後の収入は、公的年金が土台になります。ねんきん定期便で見込み額を一度確認し、希望する暮らしに毎月いくら足りないかを引き算してみてください。多くの場合、必要なのは「一発逆転の大きな事業」ではなく、月に数万円から十数万円の、無理なく続く収入だと気づきます。
目標が下がると、準備のハードルも下がります。月10万円規模であれば、会社に勤めながら、空いた時間で十分に育てられる射程に入ります。
- 残りの勤務年数を数える:
役職定年から定年までの年数を書き出す。準備に充てられる期間が見える - 年金見込み額を確認する:
ねんきん定期便かねんきんネットで、もらえる種類と金額を一度押さえる - 毎月の不足額を引き算する:
希望する暮らしに足りない額を出す。それが目指す収入の規模になる
50代の準備に追い風が吹いている理由

「この年齢から始めて、定年後も働くなんて」とためらう方もいます。けれど世の中の流れは、その不安とは逆を向いています。
総務省の労働力調査によると、2024年の65歳以上の就業者数は930万人で、2004年以降21年連続で増え続け、過去最多となりました。就業者全体に占める割合も13.7%で、働く人のおよそ7人に1人が65歳以上という時代です。内閣府の令和7年版高齢社会白書でも、60歳以上のおよそ8割が高齢期にも働きたいと答えています。
そのぶん、年齢を理由に始めをためらう必要は薄れています。むしろ、勤め先で積み上げてきた段取りや判断の経験こそが、定年後に最も活きる元手です。現場で培ったものは、若い人にはまだない厚みを持っています。
「自分には特別な才能がない」と感じている方へ

準備の相談で、いちばん多く聞く言葉があります。「自分には人に売れるような特別な才能はない」というものです。役職定年で立場が変わると、その思いはなおさら強くなりがちです。起業18フォーラムでこれまで26年、のべ6万人の会社員と向き合ってきましたが、この言葉ほど当てにならない自己評価はありません。
けれど、拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、才能のない人は一人もいない、という考え方を紹介しています。人が「当たり前にやってきたこと」ほど、本人には見えにくく、他人にとっては価値になります。長年の勤めで身についた段取りや判断の力は、その典型です。
月5万円は「手を動かす範囲」で届く規模
同じ本では、月5万円と月10万円の境い目には意味があるとも書いています。月5万円までは、自分ひとりで手を動かす範囲で十分に届く規模です。仕組みづくりや外注を考えるのは、その先で構いません。だから最初の目標は、背伸びをしない小さな額に置くのが続けるコツになります。
たとえば、長く工程管理を担当してきた方なら、中小企業の現場改善を手伝う。経理畑が長い方なら、地元の会社の月次のしめを請け負う。特別な資格や新しい勉強がなくても、これまでの仕事そのものが商品の種になります。
役職定年から準備を始めた葛西さんの歩み

起業18フォーラムの会員さんで、製造業で長く生産管理をしてきた葛西さん(仮名・50代後半・男性・妻と大学生の子)の話を紹介します。葛西さんは55歳で役職定年を迎え、給与が下がったのと引き換えに、平日の時間に少しゆとりが生まれました。
最初の半年ほどは、独学で起業の本を読みあさり、求人サイトで顧問のような仕事を探しては応募していました。けれど反応はほとんどなく、「自分の経歴は社外では通用しないのか」と気持ちが沈んでいったそうです。
流れが変わったのは、起業18フォーラムの勉強会でした。同じ年代で「あと2年で役職定年」という別の会員さんが、本業以外で月25万円ほどの収入を続けていると知ったのです。年齢を言い訳にしていたのは自分のほうだった、と気づいた瞬間でした。そのまま勉強会で自分の棚卸しメモを見せたところ、講師から「経歴を並べても伝わりません。あなたに頼みたい人が、どんな場面で困っているかが抜けています」と指摘を受けました。
そこから葛西さんは、フォーラムの個別相談で売り方を組み直しました。「生産管理25年」という肩書きを前に出すのをやめ、「納期遅れに悩む町工場の、現場の段取りを立て直す」という一点に絞ったのです。伝える相手と困りごとを具体的にしてから、ようやく問い合わせが届くようになりました。
始めて14ヶ月目には、地元の製造業2社と月ぎめの相談契約が結べ、本業以外の収入が月10万円を超えました。給与のおよそ3割にあたる額を、空いた時間だけで外に持てたことになります。葛西さんは「定年が、終わりではなく次の入口に見えてきた」と話してくれました。
- つまずき:
経歴や肩書きを前面に出して売り込み、反応が得られなかった - 転機:
勉強会で同年代の会員の実例に触れ、個別相談で売り方を組み直した - 到達:
困りごとを一点に絞り、14ヶ月目に本業以外で月10万円を達成
役職定年からの準備、最初の一手

順番を整理しておきます。50代の準備は、いきなり「何で稼ぐか」を探すのではなく、まず自分の足元の数字を押さえるところから始めると、迷いが減ります。残りの勤務年数と、定年後に毎月いくら不足するか。この2つが見えると、目指す収入の規模がはっきりし、やることが具体的になります。
今日できることは、役職定年から定年までの残り年数を数え、ねんきん定期便で見込み額を確かめて、毎月の不足額をざっと見積もるところまでで十分です。金額は正確でなくて構いません。桁が見えれば、次の一歩は自然と決まります。
その不足額をどう埋めるかは、これまでの仕事の中に種があります。起業18フォーラムでは、勤めの中で培った経験を、無理のない収入の柱に変えていく道筋を、一人ひとりの状況に合わせて一緒に組み立てています。

定年という区切りを、働く日々の終わりにするか、次の事業の始まりに変えるか。その分かれ目は、時間が戻ってきた今、足元の数字を一度ながめてみるかどうかにあります。
よくある質問

Q.役職定年で給料が下がりました。今から起業準備を始めても遅くないですか?
遅くありません。残りの勤務年数を数えてみると、定年まで5年から10年あるケースがほとんどです。月に数万円から十数万円の収入であれば、会社に勤めながら空いた時間で育てられる規模です。給与が下がって時間が戻ってきた今は、準備にむしろ向いた時期だといえます。
Q.特別な資格も実績もありません。それでも定年後の収入の柱は作れますか?
作れます。長年の勤めで身につけた段取りや判断の力は、本人には当たり前でも、他人にとっては価値になります。新しい資格を取るより、これまでの仕事を一点に絞って「誰のどんな困りごとを解けるか」を言葉にするほうが近道です。経理、生産管理、営業事務といった日常業務こそ、中小の会社が必要としている力です。
Q.まず何から手をつければいいか分かりません。最初の行動を教えてください。
お金の計算より先に、時間の計算から始めてください。役職定年から定年までの残り年数を数え、ねんきん定期便で年金の見込み額を確認し、希望する暮らしに毎月いくら足りないかを引き算します。この不足額が、目指す収入の規模になります。目標の大きさが決まってから、何で埋めるかを考えると、迷わずに進めます。
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