記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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メモを取り続けて半年、誰にも商品を提案できていない。そう感じている人にこそ、最初に必要なのは情報量ではなく、相手を1人だけ決める覚悟です。
私はこれまで26年で延べ60,000人を超える会社員の起業準備に立ち会ってきましたが、半年で詰まる人と進む人の差は、知識量でも資格でもありません。「自分の経験を、誰の困りごとに使うか」を1行で書けるかどうか、その一点でした。
日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によれば、開業時の年齢は40歳代が36.9%で最多、平均年齢は43.9歳と過去最高水準を更新しています。さらに勤務経験ありが97.6%、関連業務経験ありが81.1%。つまり、ほとんどの開業者が会社員時代の経験を持ち込んでいるのです。在職中の準備は遠回りではなく、むしろ王道です。
本稿では、会社で働きながら半年で「最初の1円」に届くための4つの順序を、起業18フォーラム会員の事例とあわせてお伝えします。
6カ月で詰まる人と進む人を分ける、たった1つの問い

在職中に起業準備を始めた人の多くが、まず情報収集から入ります。書籍を読み、セミナーに通い、ノートを取る。半年ほど経った頃に、「結局、何から手をつければよいかわからないままだ」と気づくのです。この段階で詰まっている人に共通するのは、自分の商品を考えすぎていることでした。
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』にも書いたのですが、最初に決めるのは商品ではなく、商品を届ける相手です。それも、不特定多数ではなく「困っている人を1人」具体的に思い浮かべられるかどうか。半年で進む人は、この1人をノートの最初のページに名前付きで書いていました。
6カ月で「最初の1円」に届く4つの順序

ここから本題です。半年で最初の有料案件に届くまでには、おおむね4つの段階があります。順序を入れ替えると、どこかで必ず行き詰まります。「相手を決める」「困りごとを聞く」「1本に絞る」「無料で届けてから値段をつける」の順に進めるのが、在職のまま動ける唯一の道筋です。
段階1:0〜1カ月目/指名された経験を30件書き出す
最初の1カ月は、自分の中の素材を棚卸しする期間です。会社員生活の中で「あなたに頼みたい」「お前なら任せられる」と言われた具体的な場面を、紙に30件書き出します。雑談で褒められたことも、社内資料の作り直しを頼まれたことも入ります。この30件のうち、繰り返し出てくるテーマがあなたの「名もなき強み」です。
段階2:1〜2カ月目/困りごとを10人に聞く
強みが見えてきたら、その強みが解決できそうな相手10人に話を聞きにいきます。新規開拓ではなく、職場の先輩、取引先の担当者、学生時代の友人など、すでに連絡が取れる範囲で構いません。聞き方は「最近、仕事で一番煩わしいことは何ですか」の1問だけで十分です。
- 最近の仕事で一番煩わしい作業
- その作業に毎月かけている時間
- 解決のために試したことと、結果
- もし解決したら、月いくらまで払う価値があるか
10人聞き終えると、似た困りごとが3つほど浮かび上がります。最も困っている人が言葉にした表現を、そのまま自分のサービス名に使うのが、初動で失敗しないコツです。
段階3:3〜4カ月目/商品を1本に絞ってモニターへ
困りごとが見えたら、商品の形を1本に絞ります。教える系、やってあげる系、場を提供する系、モノを売る系の4つから、いま動ける形を選ぶだけで十分です。複数を同時に走らせると、半年後には全てが中途半端な状態で残ります。
絞り込んだら、ヒアリングで一番困っていた人に「モニターになってもらえないか」と打診します。初回は無料、ただし1週間以内に感想を文章でもらう約束をします。この感想が、後の値段を決めるときの根拠になります。
段階4:5〜6カ月目/継続2社+スポット1社で開業届
モニターからの感想が手元に集まったら、いよいよ有料での提案に入ります。最初の値段は欲を出さず、相手が「これなら払える」と即答できる金額です。月額数千円から月額3万円程度の範囲で、継続契約を2社、単発を1社の合計3件を目指します。
合計が月5万円を超える兆しが見えたら、開業届を出すタイミングです。半年で最初の1円に届くのは、計算上の話ではなく、相手を1人決めた人だけに起こる現実の話です。
起業18フォーラム会員Kさんが半年で月3万円に届くまで

起業18フォーラム会員のKさん(仮名・47歳・男性・大手電機メーカー営業企画15年・共働き・中学生の子1人)は、半年前まで「経営コンサルタント」を名乗っていました。ホームページもSNSも整え、知り合いに名刺も配ったのですが、半年で問い合わせはゼロ。本人は「準備に半年もかけたのに何も起きない」と焦っていました。
転機は起業18フォーラムの勉強会で「指名された経験を書き出す」課題に取り組んだ夜でした。社内外から繰り返し頼まれていたのは、量販店バイヤーへの商談トーク作りだったのです。Kさんは翌週、過去5年分の商談メモを引っ張り出し、過去に頼られた具体的な場面を30件書き出しました。
- 1カ月目:指名30件書き出し、共通項は「商談トーク作り」
- 2カ月目:知人10人に困りごとヒアリング、中堅食品メーカーで需要を確認
- 4カ月目:サービス名「量販店バイヤー商談トーク作成代行」1本に絞り込み
- 5カ月目:旧知の知人経由でモニター1社(無料)
- 6カ月目:有料1件・税込3万円で最初の1円を獲得
- 13カ月目:継続2社で月18万円、本業との両立で安定
Kさんが半年で動けたのは、何かを増やしたからではありません。名刺、ホームページ、肩書きを一旦脇に置き、「過去に頼られた経験」を1行に絞り込んだだけです。準備の量より、絞る勇気のほうが先に必要だったのです。
在職中だからこそ守れる3つの線引き

在職のまま起業準備するもう1つの強みは、本業の給料という生活の土台が崩れないことです。日本政策金融公庫の同調査では、創業時の最大の不安として「売上の見通し」を挙げた人が42.1%にのぼっています。逆に言えば、本業収入を維持できる在職期間は、売上の見通しを丁寧に作れる、ほかにない時期です。
ただし、在職中だからこそ守るべき線引きが3つあります。この線を踏み越えると、本業の信用も健康も同時に崩れていきます。
- 就業時間中は起業準備の作業をしない(休憩中の打ち合わせ電話も含めない)
- 本業の取引先・顧客名簿には触れない(競業に近い案件は断る)
- 毎月の収支を家計と分けて記録する(住民税の普通徴収も忘れずに)
この3つを守れるかどうかが、退職後も信用と健康が残せる人とそうでない人の分かれ目になります。線引きを毎週末に見直す15分の時間を、家族のカレンダーに固定で書き込んでおくのがおすすめです。
最初の1円は、相手のノートに残る言葉から始まる

半年で最初の1円に届いた人を見ていると、共通するのは「自分が褒められた言葉」を商品の中心に置いていることでした。Kさんの場合は、過去の上司が雑談の中で「あなたの商談トーク、新人にそのまま渡せる」と言った一言が、サービス名の原型になっています。
準備期間は、商品を作る時間ではなく、自分が誰かのノートに残してきた言葉を拾い直す時間でもあります。情報の量を増やすのではなく、過去の言葉を1つ取り戻すこと。それが、在職中の半年を意味あるものに変える最後のひと押しになります。

最初の1円に届いた瞬間、人は「自分にも届いた」と気づきます。準備の正解は、誰かのノートに自分の言葉を残せた日から逆算して見えてくるものです。
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