リストラされる前に起業の準備を始めるなら、まず何をすべき?ばいい?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

勤めている会社の業績が、ここ数年じわじわ悪くなっている気がします。先日、同業他社が早期退職を募ったというニュースを見て、うちもいつそうなるか分からないと急に怖くなりました。

まだ何も起きていませんが、リストラされてから慌てるのは避けたいです。辞める前の今のうちに、起業の準備として何から手をつけておけばいいのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

その不安は、決して大げさなものではありません。実は近年、業績が悪い会社よりも、むしろ黒字の会社が先回りして人員に手をつけるケースが増えています。だからこそ、給料が入ってくる今のあいだに動いておくことには、はっきりした意味があります。

東京商工リサーチの集計では、2025年度に「早期・希望退職」を募集した上場企業は46社、募集人数は2万781人にのぼりました。前年度の8,326人から約2.5倍に増えています。注目したいのは、このうち直近決算が黒字だった企業が約7割を占めていた点です。業績が堅調なうちに人員構成を見直す「黒字リストラ」が、すでに主流になっています。

会社が赤字になってから動き出すのではなく、好調なうちに将来を見越して手を打つ。これは会社側の論理ですが、働く側の備え方にもそのまま当てはまります。今の会社が黒字だから安心、とは言い切れない時代になったということです。

リストラされてから動く人と、勤めているうちに仕込んだ人の差

私はこれまで6万人以上の会社員の起業準備に関わってきましたが、退職という事態に直面したとき、その後の歩みが大きく分かれるのを何度も見てきました。差がつくのは、能力よりも「いつ動き始めたか」でした。

退職が決まってから準備を始めた人は、収入が止まる不安に追われながら、商品づくりも人脈づくりも資金繰りも同時に進めることになります。一方、まだ給料が入っている時期に少しずつ仕込んでいた人は、焦らずに試行錯誤ができます。同じ退職でも、立っている地面の固さがまるで違うのです。

つまり、今あなたが感じている不安は、動き出すには早すぎる合図ではありません。むしろ、いちばん落ち着いて準備できる時期に立っている証拠だと受け取ってください。

給料があるうちに仕込む「知・人・金」の3つのチカラ

では、具体的に何から手をつければいいのか。拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』に「知・人・金」という考え方が出てきます。会社の外で生きていくときに支えになる3つのチカラを、給料という安全網があるうちにバランスよく育てておく、という整理です。

この3つは、退職してからゼロで集めようとすると一気に重くのしかかります。逆に、勤めているうちなら、日々の仕事の延長線上で少しずつ蓄えられます。

  • 知:
    今の仕事で身についた専門知識や段取りの工夫。社外の人が対価を払う「強み」になり得るもの
  • 人:
    取引先や同業の知り合いなど、いざというとき仕事を紹介し合える濃い関係
  • 金:
    生活費とは別に、小さく試すための数万円規模の元手。給料があるうちに無理なく貯められる

いきなり3つを完璧にそろえる必要はありません。まずは「知」から、今の仕事で人に頼られた場面を一つ思い出すところから始めてみてください。それがあなたの最初の商品の種になります。

蛭田さんが、不安を備えに変えるまで

起業18フォーラムの会員に、蛭田さん(仮名・50代・電機メーカー勤務)という方がいました。同業他社が早期退職を募ったというニュースに明日は我が身だと感じ、最初はとにかく焦って、休日に手当たり次第セミナーを渡り歩いていました。けれど知識ばかりが増えて、何も形にならない時期が半年ほど続いたそうです。

転機は、先に転職していった元同僚からの一本の連絡でした。「うちの工場、現場のムダがひどくてさ。前にやってた改善の進め方、ちょっと相談に乗ってくれない?」と持ちかけられたのです。長年やってきた生産現場の改善ノウハウを、軽い気持ちで一度だけ手伝ってみました。すると、その元同僚が「あの人、現場が分かってる」と別の知り合いの工場主に話し、似た相談が後から後から舞い込むようになっていったのです。

気づけば、月に一度は誰かの工場に呼ばれて改善の相談に乗るのが、蛭田さんの定番の予定になっていました。退職に追われてからではなく、給料があるうちに元同僚の一言から小さく始められたことが、蛭田さんの足場を支えました。大きく稼ぐより先に、勤めながら「呼ばれて相談に応じる」型が回り始めたことのほうに、本人は手応えを感じていたそうです。

もし蛭田さんがニュースを見たあの日に何もせず、実際の退職勧奨を受けてから動いていたら、この相談の輪は生まれなかったはずです。不安を感じた時点で半歩動いたことが、後の余裕を生みました。

動き出す前に確かめておきたい一点

ただし、勤めながら準備を進めるなら、最初に一つだけ確認しておきたいことがあります。勤め先の就業規則です。会社によっては、外で報酬を得る活動の届け出や、同業での活動を制限する競業避止の条項が定められている場合があります。

ここを知らないまま動くと、せっかくの準備が思わぬトラブルの種になりかねません。逆に、確認さえしておけば「どこまでなら今やっていいか」の線引きがはっきりし、安心して一歩を踏み出せます。準備の中身を考える前に、自社の規程で兼業や競業避止がどう書かれているかを一度だけ目で追っておいてください。

国は『副業・兼業の促進に関するガイドライン』で会社の外で働くことを後押しする方向を示しており、容認する企業も少しずつ増えています。それでも個々の規程は会社ごとに違うので、世間の流れではなく、自分の勤め先の文面で確かめるのが確実です。

会社にばれずに起業準備を進める順番|就業規則と住民税の確認から
会社の給料以外に自分の収入の柱がほしい。そう考えて動き出そうとした瞬間、多くの方が同じところで足を止めます。「

リストラの不安を感じている今は、つらい時期かもしれません。けれど、それだけ真剣に自分の働き方の先を考えている証拠でもあります。その慎重さは、勢いだけで飛び出す人にはない、あなたの準備力の土台になります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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