林業の経験で起業するには|間伐・特用林産・森林ガイドから始める手順

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「山の仕事しかしてこなかった自分に、起業なんてできるのか」。森林組合や林業会社で現場に立ってきた方なら、ふとそう考えた夜があるかもしれません。チェーンソーや高性能林業機械を扱う技能はある。でも独立となると、何千万円もする機械を買い、山を確保し、人を雇う話に聞こえて、現実味がわかない。そこで気持ちが止まってしまう人を、私は何人も見てきました。

ただ、林業で起業する入口は「大きな機械をそろえて事業体を立ち上げる」一択ではありません。間伐の受託、きのこや山菜といった特用林産、森林体験のガイド。手持ちの技能と山への土地勘を、小さく収入に変えていく道があります。この記事では、現場の経験を起業準備につなげる具体的な手順を、当事者として見てきた例とともに整理します。

ポイント 山仕事の経験が、そのまま事業の元手になる理由

担い手が減るほど現場技能の希少価値が上がる構図

林業

林業で独立しようとすると、まず設備の話が頭に浮かびます。けれど本当の元手は、機械ではなく、あなたが現場で積み上げてきた技能と山への土地勘のほうです。木を見て間伐の順番を判断できる、安全に伐倒できる、地形と作業道の関係が読める。これは一朝一夕には身につかないものです。

総務省統計局の国勢調査によると、林業従事者数は令和2年(2020年)時点で約4万4千人です。昭和30年には50万人を超えていましたから、65年ほどで10分の1以下にまで減ったことになります。担い手が細っていくということは、山を扱える人の価値がそのぶん上がっていくということでもあります。

林野庁の「森林・林業白書」では、林業の高齢化率(65歳以上の割合)は約25%で、全産業平均の15%を上回ると示されています。一方で35歳未満の若年者率は17%まで持ち直しているのも特徴です。人手が足りない現場ほど、技能を持った人に「手伝ってほしい」という声がかかりやすくなります。

ポイント 大きな投資をせずに始める「小さな林業」の選び方

間伐受託・特用林産・森林体験という小さな入口

林業

巨額の設備投資から逆算すると、林業の起業は遠い話になります。そこで発想を変えて、いまある技能で始められる小さな入口から考えます。共通しているのは、立派な機械よりも「あなたが山にどう関われるか」が価値の中心になる点です。

間伐・伐採の受託という形

所有者が手入れできずに放置された人工林は各地にあります。庭木の伐採、危険木の処理、小面積の間伐。森林組合や同業の手が回らない仕事を、受託というかたちで引き受ける道があります。自伐型林業の考え方では、兼業なら一人あたり10〜20ヘクタールほどの中小規模で十分に成り立つとされています。全体の2割以下の間伐を繰り返す長伐期択伐なら、山を傷めずに続けられます。

特用林産という形

木を伐るだけが林業ではありません。しいたけなどのきのこ、たけのこ、山菜、薪や炭。こうした特用林産物は、林野庁の統計で令和4年の生産額が約2,658億円にのぼり、うち8割超をきのこ類が占めます。原木しいたけや薪のように、山にある資源を小さく商品化する取り組みは、初期費用を抑えながら始めやすい入口です。

森林体験ガイドという形

間伐体験、森林浴の案内、子ども向けの自然教室。山の知識と安全管理の経験は、そのまま人を案内するサービスになります。伐る技術ではなく「森を読む目」を売る領域で、設備をほとんど持たずに始められます。

  • 間伐・伐採の受託:
    放置林や危険木の手入れを引き受け、中小面積から成り立つ
  • 特用林産:
    きのこ・山菜・薪など山の資源を小さく商品化する入口
  • 森林体験ガイド:
    森を読む目と安全管理の経験を案内サービスに変える

ポイント 勤めながら準備する具体的な手順

就業規則の確認から最初の受託までの道のり

林業

独立を退職とすぐに結びつける必要はありません。現場の勤めを続けたまま、休みの日に動かせる範囲から準備するほうが、生活を崩さずに済みます。順序を間違えなければ、最初の一歩は思ったより軽く踏み出せます。

手順1:勤め先のルールと資格を確認する

まず就業規則を確認します。勤務先の森林組合や会社と競合しない範囲はどこか、休日に個人で受託してよいか。あわせて、チェーンソーや刈払機の特別教育、伐木等の技能講習など、自分が持っている資格を棚卸ししておきます。安全に関わる手続きを先に押さえておくと、あとで慌てずに済みます。

手順2:頼まれてきたことを書き出す

これまでに「うちの裏山を見てくれないか」「あの木が倒れそうで困っている」と相談された場面を思い出して、紙に書き出してみてください。頼まれた経験は、あなたが提供できる価値がすでに地元で求められている証拠です。新しいサービスを発明するより、過去に頼られたことを起点にするほうが確実に進みます。

手順3:地域の小さな仕事から試す

近所の山主、知人の紹介から始めます。最初から広く集客する必要はありません。一件ずつ丁寧に仕上げ、その評判が次の依頼を呼ぶ流れをつくります。地域の創業支援窓口や森林組合の制度を調べておくと、補助の選択肢も見えてきます。手応えを確かめてから、扱う範囲を少しずつ広げれば十分です。

  • 就業規則と資格の確認:
    勤務先と競合しない範囲と、保有資格・必要な講習を先に把握
  • 頼まれた経験の棚卸し:
    過去に相談された場面を起点にサービスを設計
  • 地元で小さく試行:
    広告ではなく一件ずつの評判から受託を広げる

ポイント 起業18フォーラム会員・三浦さんの歩み

月3.5万円から始まった間伐受託の現実的な一歩

林業

起業18フォーラムの会員に、森林組合の作業班で十数年働いてきた40代の三浦さんがいます。組合の仕事に不満があったわけではありません。ただ、決められた現場を割り当てられて伐っていく日々のなかで、自分の判断で山に関わりたいという思いが少しずつ強くなっていきました。体を使う仕事しかしてこなかった自分に何ができるのか、最初は見当もつかなかったといいます。

転機になったのは、組合の先輩から「あの集落の裏山、休みの日に見てやってくれないか」と声をかけられたことでした。所有者が高齢で手が回らない小さな間伐です。引き受けてみると、終わったあとに「明るくなった」と喜ばれ、その家から別の山主を紹介してもらえました。頼まれごとが次の頼まれごとを連れてきたのです。

勤めを続けながら休日の間伐を重ねて、最初の収入は月3.5万円ほどでした。大きな額ではありません。けれど、自分で段取りを組み、自分の判断で木を選んで伐れた手応えは、金額以上のものだったと三浦さんは振り返ります。1年ほどかけて受託の輪が広がり、いまでは薪づくりや地域の森林体験の手伝いにも声がかかるようになりました。

三浦さんの歩みで確かなのは、最初から完璧な事業計画があったわけではないということです。先輩の一声に応えるうちに、進む先が見えてきました。入口になったのは、立派な機械ではなく「やってくれてよかった」と言われた一件の間伐だったのです。

ポイント 小さな流れをいくつも持ち、流れ同士を結びつける

間伐・特用林産・ガイドが互いに依頼を呼ぶ仕組み

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「一本の事業で食べていけるのか」。そう不安に感じて足踏みしている方は、林業に限らず少なくありません。けれど、収入のかたちは太い一本に賭けることだけではありません。

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、お金の流れを枯れさせないために、いくつもの小さな流れを持つという考え方を紹介しています。本のなかでは、小さな流れをつかんでいくと流れと流れが結びつき、片方のお客様がもう片方に流れてくることがある、と書きました。林業に置き換えると、間伐・特用林産・森林体験という細い流れを、互いに行き来させるイメージです。

たとえば間伐で入った山主が、伐った木で薪を頼んでくれる。薪を買った家族が、子ども向けの森林体験に申し込む。体験に来た人が、自分の山の手入れを相談してくる。それぞれは小さな流れでも、つながると季節や景気の波に左右されにくくなり、互いがお客様を運び合う関係になります。

一人で手を動かす範囲なら無理なく続けられますし、依頼が重なって手が回らなくなってきたら、そのとき人に頼む工夫を考えれば十分です。まず一つの流れをつくる。そこに別の流れを足していく。順番はそれでかまいません。

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● 質問 メーカーで品質管理やデータ分析の仕事をしてきましたが、特別な資格もなく、社外で通用する強みが自分にあ

あなたが独立に惹かれる理由は、たぶん収入の額だけではないはずです。誰かに割り当てられるのではなく、自分の裁量で森に関わり続けたい。その願いに近づくために、今日できることは、これまでに頼まれてきた山の仕事を一つ書き出すだけで十分です。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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