記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
私はかなりの人見知りで、初対面の人と話すと気疲れしてしまいます。起業の本を読むと「人脈が大事」「営業力で決まる」と書いてあって、社交的な人でないと無理なんだろうなと感じます。
内向的で対面営業が苦手な性格でも、起業の準備は進められるものでしょうか? それとも、まず性格を直すほうが先でしょうか。

● 回答
進められます。むしろ、人見知りや内向的な性格は、起業準備において不利な条件ではありません。問題は性格そのものではなく、「対面営業や大人数の人脈づくりが必要な土俵」を、わざわざ自分で選んでしまうことのほうにあります。
「人と話すのが苦手だから向いていない」と感じている方は、本当に多くいらっしゃいます。ですが、苦手なやり方を頑張って克服するより先に、その苦手が出てこない場所を選ぶほうが、ずっと現実的です。
「社交的な人が成功する」という思い込みを、まず外す
起業というと、異業種交流会で名刺を配り、初対面の相手に物おじせず売り込む人の姿を思い浮かべるかもしれません。その像があるから、人見知りの自分には縁遠いものに見えてしまうのです。
けれど、実際に起業する人の動機を見ると、そのイメージとはずいぶん違います。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、開業動機の最も多い回答が「自由に仕事がしたかった」で59.7%、次いで「収入を増やしたかった」が44.9%、「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」が41.1%でした。いずれも、派手な営業力より、自分の働き方や経験をどう使うかに近い動機です。
ここから読み取れるのは、多くの人を起業へ向かわせているのが「自由に仕事がしたい」という願いと、「自分のこれまでの経験や知識を生かしたい」という実感だということです。つまり起業の出発点になっているのは、人当たりの良さや営業力ではなく、自分の中にすでにあるものを活かしたいという動機です。だからこそ、対面営業が主役でなくても、内向的な人が自分の経験を元手に始められる道は、思っているよりずっと広いのです。
闘争力ではなく「逃走力」で土俵を選ぶ
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』に、「闘争力より逃走力」という考え方を紹介しています。みんなが殺到する対面営業の激戦地で正面から戦うのではなく、対面が要らない、自分の得意な小さな池を選んで逃げ込む。そのほうが消耗せずに勝てる、という発想です。
人見知りの人が、社交的な人と同じ土俵で名刺交換の数を競っても、勝ち目は薄くなります。そこは相手の得意分野だからです。勝負するのは「対面の量」ではなく、対面が要らない形で価値を届けられる場所であるべきです。
たとえば、文章で説明することや、黙々と手を動かして仕上げること、一対一でじっくり話を聞くことが苦にならないなら、それはもう立派な土俵です。大人数の場が苦手でも、その場を避けて成り立つ仕事は数多くあります。
- 対面が要らない仕事の例:
依頼を受けて文章や資料を仕上げる、データ整理や事務代行、オンラインでの個別相談など - 大人数の交流が要らない集客の例:
ブログやSNSに役立つ内容を書きためて、読んだ人から声がかかるのを待つ形 - 一対一が活きる場面:
初対面の雑談は苦手でも、深く聞く力がある人は個別対応で信頼を得やすい
こうして並べてみると、内向的な性格はむしろ、落ち着いて作業し、相手の話を丁寧に聞ける強みとして働きます。弱みだと思っていたものが、土俵を変えた瞬間に持ち味へと変わります。
文章で完結する小さな依頼から始めた神保さんの話
起業18フォーラムの会員さんで、30代の神保さんという方がいました。本業はメーカーの管理部門で、人前で話すのが本当に苦手な方です。最初は「営業ができないと起業は無理だ」と思い込み、苦手な交流会に何度か足を運んでは、ぐったりして帰ってくることを繰り返していました。
転機は、ちょっとした単発の頼まれごとでした。知人から「社内で配る案内文を整えてほしい」と頼まれ、文章で完結する小さな仕事を引き受けたのです。会って話す必要はなく、やりとりはすべてメッセージで済みました。仕上げて渡したところ、相手から「打ち合わせで何度も会わずに、文章だけで進められて本当に助かった」という言葉が返ってきたそうです。
そこで神保さんは気づきました。自分が消耗していたのは「人と関わること」ではなく、「大人数の場で売り込むこと」だけだったのです。一対一で、文章を介してなら、むしろ落ち着いて力を出せました。
それからは交流会に通うのをやめ、得意な文章まわりの作業に絞りました。受けた相手に丁寧に対応していると、「会わずに進められて楽だった」という評判が口づてに伝わり、その人が別の人を紹介してくれるようになりました。土日に無理して動くのではなく、平日の夜に少しずつ進める形で、対面の場を一度も増やさないまま、紹介だけで仕事が続いていく流れができあがっています。
派手な人脈づくりも、飛び込み営業もしていません。苦手な土俵から降りて、得意な池に移っただけです。

人見知りであることや、対面営業が苦手であることは、起業準備をあきらめる理由にはなりません。変えるべきは性格ではなく、戦う場所のほうです。
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