記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
「ちゅらさん」を見返した夜、エンドロールに流れる小浜島の海をぼんやり眺めながら、「こういう場所で、家族と暮らしながら自分の仕事ができたら」と、つい声に出してしまう。そんな思いを抱く会社員は、決して少なくありません。
けれど、その次にすぐ出てくるのが「島へ行って、いったい何で食べていくのか」という問いです。観光で名前の知られた島ほど、暮らしの風景は思い浮かんでも、収入の絵がうまく描けません。この記事では、小浜島で起業を考えはじめた方に向けて、勤めを続けたまま準備を進め、関係人口として島に関わりながら事業を育てていく順番を、ひとつずつ見ていきます。
小浜島で起業を考える前に知っておきたい島の土台

小浜島は、沖縄県八重山郡竹富町に属する島です。面積はおよそ7.86平方キロメートル、周囲は16.6キロほど。石垣島の石垣港から高速船に乗れば、25分から30分ほどで小浜港に着きます。安栄観光と八重山観光フェリーの2社が運航していて、朝から夕方まで便があり、日帰りで通うことも難しくありません。
2001年度上半期に放送されたNHK連続テレビ小説「ちゅらさん」の舞台になったことで、小浜島の名前は全国に知られるようになりました。起業を考えるうえで、この「名前を知られている」という事実は、地味に見えて大きな土台になります。知らない島より、聞いたことのある島のほうが、人は関心を向けやすいからです。
総務省の国勢調査によると、小浜島の人口は2020年時点でおよそ621人です。数百人規模の小さな島で、その暮らしと経済を支えている柱は観光業です。
島の経済はリゾートと観光が回している
小浜島の特徴は、島の面積のおよそ5分の1を、はいむるぶしや星野リゾート リゾナーレ小浜島といったリゾート施設が占めていることです。サトウキビ畑が広がり、肉用牛の畜産も行われていますが、島を訪れる人の流れと、そこで動くお金の多くは観光に結びついています。
これは、起業を考える会社員にとって見落とせない点です。島でゼロから新しい市場を作ろうとするより、すでにお金が動いている観光やリゾートの流れに、自分のこれまでの経験をどう差し込めるかを考える。その視点が、小浜島での現実的な一歩につながります。くわしくは、このあとの章で見ていきます。
竹富町の支援制度を知っておく

小浜島で起業を考えるなら、知っておきたい支援制度がいくつかあります。ただし、先に順番をお伝えしておきます。これらは「使えば起業できる道具」ではなく、何をやるかが見えてきた人にとって力を発揮する道具です。
小浜島は、内閣府の特定有人国境離島地域には含まれていません。そのため、特定有人国境離島地域向けの雇用機会拡充事業を前提に資金計画を組むのは避けてください。
一方で竹富町には、町内在住の個人や団体等を対象にした「頑張る地域応援プロジェクト地域創造推進交付金」や、地域金融機関からの融資・地元雇用などを条件にする「地域経済循環創造事業補助金(ローカル10,000プロジェクト)」があります。
令和8年度の竹富町「頑張る地域応援プロジェクト」は、個人上限10万円、公民館・団体等上限50万円です。地域経済循環創造事業補助金は融資額との関係で上限が変わり、町の審査や総務省の採択が前提になります。年度ごとに内容や募集時期が変わるため、利用を考えるときは竹富町の最新の公募情報を確認してください。
補助金は「何をやるか」が見えてから
こうした交付金や補助金は、金額だけを見るとたいへん心強く映ります。けれど、何を売るのか、誰に届けるのかが固まっていない段階で窓口へ相談に行っても、担当の方も答えようがありません。
補助金は、事業の方向性が固まったあとに使う道具だと考えてください。先に制度ありきで動くと、制度の条件に自分の事業を無理に合わせることになり、本当はやりたかった形から離れてしまいます。
移住支援金の対象外という前提を押さえる
もうひとつ、押さえておきたい現実があります。国の移住支援金について、沖縄県内で令和8年度の対象になっているのは石垣市・国頭村・東村・本部町・伊江村で、竹富町は対象に含まれていません。「移住すれば支援金がもらえる」と当てにして資金計画を立てると、あとで予定が狂います。
裏を返せば、小浜島での起業準備は「島の外からの補助を当てにせず、自分の力で収入を立てる設計」が前提になるということです。これは不利な条件に見えて、実は事業を長続きさせるうえで健全な出発点でもあります。
小浜島で会社員が現実に始めやすい事業

小浜島で「何をやるか」を考えるとき、つい「島に来た観光客向けに何か新しい店を」と発想しがちです。けれど、数百人の島で観光客の取り合いに加わるのは、会社員が勤めを続けながら準備するには重い選択です。
小浜島で会社員が現実に始めやすいのは、観光客と新しく勝負する事業ではなく、すでに島で回っている観光やリゾートの流れに、自分が会社で積んできた経験を差し込む形の事業です。
たとえば、宿やリゾート、島の事業者が手を回しきれていない仕事はたくさんあります。予約管理、ウェブサイトやSNSの更新、島の魅力を島の外へ届ける文章や写真、繁忙期だけの事務サポート。会社で当たり前にやってきた仕事の多くが、小浜島では足りていない部分と重なります。
まず朝晩30分、いまいる場所で動かせる準備
島へ移ってから準備を始めるのではなく、勤めを続けながら、今いる場所で動かせることから始めます。拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』にも書いたのですが、起業の準備は、朝の30分と夜の30分という小さな時間の積み重ねでも、着実に前へ進められます。
小浜島に関わる事業なら、その朝晩30分でできることがいくつもあります。島の情報を発信するブログやSNSを育てる。竹富町や八重山の観光の動きを調べる。島の事業者の困りごとを、知り合いをたどって聞いてみる。どれも、今の暮らしの場所で、勤めを続けたまま始められることです。
経験から逆算する、小浜島の事業の形
「何ができるか」は、これまで積んできた会社員の経験から逆算すると見つけやすくなります。代表的な方向を挙げてみます。
- 事務・管理が得意:宿やリゾートの予約管理や繁忙期の事務サポート
- ウェブ・広報が得意:島の事業者のサイト運営やSNS発信の代行
- 営業・企画が得意:島の特産品を島外の取引先につなぐ販路づくり
- 教育・研修が得意:移住者や島の若手向けの仕事の進め方の講座
- ものづくり・発信が好き:島の暮らしを伝える文章や写真や動画の制作
どれも、観光客と新しく競い合う事業ではありません。すでに島で動いている人や事業の、手の届いていないところを引き受ける形です。
いきなり移住しない。関係人口から二拠点へ
小浜島での起業で、いちばん大切なのが進め方の順番です。会社を辞めて移住し、それから事業を考える。この順番は、数百人の島ではとくに危うさが大きくなります。
おすすめしたいのは、まず「関係人口」として島に関わることです。年に数回通い、島の人と顔の見える関係を作り、朝晩30分の準備を続ける。島での仕事が月10万円ほどの収入の柱に育ってきたら、東京と小浜島を行き来する二拠点の暮らしに移る。
移住は最後の段階に置き、それまでは会社員という安定した足場を残したまま、島との関わりを太くしていってください。
島で起業準備をする会社員がつまずきやすいところ

離島での起業を考える会社員は、30代後半から50代まで幅広く、なかでも40代が中心です。これまでの起業支援の現場を振り返ると、その準備につまずく方には、いくつか共通したパターンがあります。よくあるものを挙げてみます。
- 移住してから「何屋になるか」を考え始め、収入が立たない
- 観光客向けの店や宿に絞り、繁忙期と閑散期の差に苦しむ
- 島内だけで集客しようとして、客数の上限にすぐ届いてしまう
- 補助金や支援金を当てにして、自前で稼ぐ設計が後回しになる
いちばん多いのが、最初のひとつです。移住という大きな決断を先にしてしまい、肝心の「何で食べていくか」をあとから考えるため、収入のない期間が長く続いてしまうのです。島の暮らしへの憧れが強いほど、この順番を逆にしがちです。
「移住してから考える」より「通いながら整える」
離島で宿やサービスを始める会社員によく起きるのは、こんな流れです。島の景色に惹かれて先に移住し、それから何屋になるかを考える。島の事業者に教わりながら自己流で動くものの、集客は島を訪れる観光客頼みで、自前でお客さんを呼ぶ仕組みは後回しになる。繁忙期は忙しく、閑散期は収入が細る。その波に、貯金が少しずつ削られていきます。
こうした方が立て直していくときに共通しているのが、いったん自己流をやめて学び直す段階です。起業18フォーラムの勉強会でも繰り返し出てくるのは、島の中だけで完結させず、島の外の人へ届ける媒体を、最初から自分の手で持っておくという考え方です。
島のブログやSNS、メールでつながる相手のリストは、思い立ってすぐ作れるものではありません。読んでくれる人との関係は、時間をかけて育つものだからです。だからこそ、通いながら少しずつ育てておく値打ちがあります。
小浜島の人口は数百人規模で、島内のお客さんだけを相手にすると、客数はすぐに上限へ届きます。島内のお客さんだけに頼らず、島の外にも収入の入り口を持つ設計を、移住より先に整えておいてください。
小浜島での起業を、勤めを続けながら動き出す

ここまで読んで、「島で気ままに暮らす話だと思ったら、ずいぶん地道だな」と感じた方もいるかもしれません。その通りで、小浜島での起業は、ある日きっぱり会社を辞めて始めるものではなく、勤めを続けながら準備の手を少しずつ動かしていくものです。
順番を整理しておきます。まずは起業18フォーラムの動画やセミナーで、「自分は何で食べていくか」「どんな事業が自分に合うか」という土台を整えます。方向性が見えてきたら、竹富町の移住相談の窓口や、町の交付金・補助金といった支援を、道具として使います。
そして関係人口として島に通うところから始め、二拠点の暮らしを経て、無理のない段階で移り住む。一気に移住せず、お試し移住や期間を区切った滞在から試す道もあります。
小浜島で暮らしながら働くという願いは、移住という一回の決断ではなく、会社員のうちに積み重ねる小さな準備の先に、形になっていきます。
朝晩30分、島の情報を集める。年に数回、小浜島へ通ってみる。島の事業者の困りごとを、ひとつ聞いてみる。どれも、明日から、勤めを続けたまま始められることばかりです。

「ちゅらさん」のあの海は、逃げていきません。だからこそ、焦って移住を急ぐ必要もないのです。会社員という足場を残したまま、小浜島との関わりを一年かけて太くしていく。その先に、島で働く暮らしは現実の形をとっていきます。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
