住宅ローン返済中に起業準備を始めても家計は大丈夫? 30代の考え方は?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

数か月前に住宅ローンを組んで、これから30年近く返済が続きます。子どもも生まれたばかりで、正直、失敗できない状況です。ただ、今の会社の先行きにも不安があり、いずれは自分で何か始めたいという気持ちも消えません。

この状態で起業の準備に手をつけるのは、やはりリスクが高すぎるのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

これから30年近く続く返済を抱えていても、本業を土台に残し、費用と時間に上限を設ければ、小さく準備することはできます。ただし、有料の仕事には税金、社会保険、契約責任が伴い、自宅の使い方によっては住宅ローンや住宅ローン控除にも影響します。準備にもリスクはあるため、先に範囲を決めましょう。

退職して収入の柱を外す段階と、仕事を続けながら検証する段階では、家計への影響が違います。準備費の上限、使える時間、勤務先のルール、自宅利用の条件を決めれば、負える範囲を見通しやすくなります。

住宅ローンを組んだ直後の30代の方が、こうした不安を抱えるのは珍しくありません。共通しているのは、リスクの中身を分けないまま、ひとかたまりの大きな不安として抱えていることです。だから、まずは分けるところから始めましょう。

まず不安の正体を3つに分ける

「リスクが高い」と感じるとき、その中身はたいてい漠然としています。漠然としたままだと実際より大きく見えて、身動きが取れません。住宅ローンを抱えた方の不安をほどいていくと、多くは次の3つに整理できます。

  • お金の不安:
    毎月の返済があるのに収入が減ったら、家計が回らなくなるのではという心配
  • 時間の不安:
    仕事と子育てで手一杯なのに、準備の時間なんて取れないという焦り
  • 周囲の目の不安:
    家族やまわりに、無謀なことを始めたと思われたくないという気がかり

この3つは、性質がまったく違います。分けてみると、いま対処できるものと、すぐには動かせないものが見えてきます。対処できるものから順に手をつければ、不安の総量は確実に減っていきます。

お金の不安は家計の最低ラインで小さくできる

3つのうち、いちばん重いのはお金の不安でしょう。ここは、意外なほどはっきり対処できます。

日本政策金融公庫が2025年12月に公表した新規開業実態調査では、調査対象者の97.6%に勤務経験がありました。ただし、これは公庫の融資先を対象とした数字で、働きながら事業を試した割合や、勤務経験が開業成功を保証することを示すものではありません。

日本政策金融公庫の同じ調査では、開業時の平均年齢は43.9歳と、調査開始以来もっとも高くなりました。30代で準備を始めるのは、遅いどころか早いほうに入ります。いま本業で積んでいる経験は、そのまま起業準備の元手になります。

そのうえで、起業準備で最初に決めたいのは、事業のアイデアよりも家計の最低ラインです。毎月の返済と生活費を合わせて、いくらあれば家族の暮らしを守れるのか。この金額が出れば、自分で稼ぐお金がそこに届くまでは会社を辞めない、という線を先に引けます

「今すぐ辞める」と「勤めを続けて準備する」は別物

同じ起業でも、入り方でリスクはまるで変わります。会社を今すぐ辞めて始めるのか、勤めを続けたまま準備するのか。並べてみると、その差がよく見えます。

  • 収入:
    給料が途切れた状態で続く返済
  • 心理:
    早く稼ぐ焦りによる値付けや相手選びの判断低下
  • 引き返し:
    戻る場所を失った場合の家計への直撃

一方、勤めを続けたまま準備すると、同じ挑戦でも景色が変わります。

  • 収入:
    給料を残した状態で織り込む準備費・税金・社会保険への影響
  • 心理:
    焦らない相手選びと納得できる値付けの検証
  • 引き返し:
    投資上限による損失の限定と、残る契約責任・税務記録

費用を抑えても、売れ残り、返金、損害賠償、税金などの負担は起こり得ます。生活費と返済資金に手をつけない予算を決め、家族と共有してください。

週末に試作品を見てもらう。平日の夜に会社と無関係の見込み客へ話を聞く。勤務先の許可を得て小さな契約を試す。こうした検証にも、秘密保持、競業、労働時間、確定申告の確認が必要です。

収入の蛇口は太くするより数を増やす

ここで、拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』で紹介している考え方が役に立ちます。お金の不安は、貯金の残高を眺めているうちは消えません。大事なのは、お金が入ってくる流れを何本持っているかです。

給料以外の収入源を検討する考え方はありますが、追加収入は安定するとは限りません。初期費用、税引後の手残り、使った時間まで記録し、本業や返済を圧迫しないかを毎月見直してください。

自宅を事務所、教室、レンタルスペースなどに使う場合は、住宅ローン契約、金融機関の承諾要否、火災保険、管理規約、用途地域を確認します。住宅ローン控除は原則として居住部分が対象で、床面積の2分の1以上を自己の居住用に使う要件もあります。事業利用部分があると控除額の計算が変わることがあるため、税務署にも確認してください。

住宅ローンを抱えて準備を始めた神保さんの話

起業18フォーラムにいた神保さん(仮名・30代後半・男性・建設会社勤務)は、下の子が生まれた年に住宅ローンを組んだばかりでした。将来の不安から自己流で情報を集めたものの、何から手をつければいいか分からず、返済への焦りばかりが募っていたそうです。

風向きが変わったのは、起業18フォーラムの実践報告会で、同じ立場の先輩会員の話を聞いてからでした。まず家計の最低ラインを書き出し、勤務先の許可を得て、公開情報だけを使った一般向けの図面講座を週末に1回試したといいます。会社の図面、顧客、端末は使いませんでした。

最初の参加者が知り合いを紹介し、10ヶ月目には一般向け講座の相談が入るようになりました。月の売上が7万円ほどになった時期もありますが、経費と税金の見込みを分けて管理し、返済計画には固定収入として織り込んでいません。家族とも活動時間と予算を共有しています。

この記事の要点

  • 在職中の準備に伴う費用・契約・税務リスクの上限設定
  • 家計の最低ラインと自宅利用条件の確認
  • 給料を残したまま増やすもう1本の収入経路

大きな一歩は要りません。まずはこの1ヶ月の通帳とレシートを並べて眺め、毎月いくらあれば家族の暮らしを守れるのか、その最低ラインを一度だけ見積もってみてください。金額が見えれば、目指す売上の目安もそこから決まります。

住宅ローンは、家族を守るために選んだものです。それを守りながら次の準備を進めることは、両立できます。焦って会社を手放す必要はありません。

完璧に準備が整う日は、たぶん来ません。不安を抱えたままで構わないので、半歩だけ、動けるところから踏み出してみてください。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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