記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
勤め先の仕事とは別に、資料づくりの代行を受け始めて半年ほどになります。声をかけてもらえるのはありがたいのですが、最近は予算が想定の半分だったり、着手までの猶予が2日しかなかったりする依頼が続いています。
実績の少ない自分に選ぶ資格はない気がして、結局は全部引き受けてしまいます。断ったらもう次は来ないのではと思うと怖いのですが、どこで線を引けばいいのでしょうか?

● 回答
受けたあとで「これは割に合わなかった」と気づくのに、断ったら次が来ない気がして、また同じ条件で引き受けてしまいます。その往復で消耗している方は、相談の場でもかなり多いです。断れないのは性格の問題ではなく、受ける条件を自分で決めていないからです。金額と時間と範囲を先に決めておけば、依頼が届いたその場で判断でき、断り方も1つの型で足ります。
「断ると次が来ない」という感覚の正体
まず、その感覚が的外れだとは思いません。予算の合わない依頼を毎回そのまま突き返していれば、声はかからなくなります。相手も限られた予算の中で発注先を探しているからです。
ただ、これまで見てきた限り、取引が切れる原因の多くは断ったことではありません。目立つのは、条件を確かめないまま受けて、途中で手が回らなくなり、納期が遅れたり仕上がりが雑になったりして終わる形です。条件を出して見送られた相手より、条件をあいまいにしたまま受けて信用を落とした相手のほうが戻ってこないのが実際のところです。
条件を先に確かめるのは取引の前提
そもそも、条件を先に確かめるのはこちらのわがままではありません。2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、従業員を使用しない個人や一定の一人法人が受ける対象業務委託について、発注側に、業務の内容と報酬の額、支払期日などを書面か電磁的な方法で明示する義務が定められました。
報酬の支払期日についても、従業員を雇っている発注者であれば、給付を受けた日から数えて60日以内のできる限り短い期間で定めることが義務づけられています。見積もりを出す前に、報酬の額と支払期日、作業に含める範囲を先方の言葉で確認しておくと、受けるか断るか以前に、判断する材料がそろいます。
- 業務の内容:
どこまでが作業に含まれ、どこから追加になるかの区切り - 報酬の額:
一式でいくらか、時間や本数あたりでいくらかという単位 - 支払期日:
納品や検収からいつ入金されるかという期日
受ける条件を金額と時間と範囲に分けて決める
決めておくのは、次の線です。全部を一度に決めようとすると、かえって動けなくなります。
- 金額の線:
これ以下では受けないという最低額と、時間あたりに直したときの下限 - 時間の線:
依頼から着手までにほしい猶予と、平日の夜や週末で確保できる作業時間の上限 - 範囲の線:
修正の回数、打ち合わせの回数、資料の受け取り方までを含めた作業の範囲
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、「『1人でできるサイズ』にすればスムーズにいく」という考え方を紹介しています。条件を決めるのは、値段を吊り上げるためではありません。ひとりで無理なく回せるサイズに、仕事の側を合わせるためです。
断り方は1つの型で足りる
言い回しを何通りも用意する必要はありません。順番だけ決めておけば、どの相手にも同じ型で返せます。
まず、声をかけてもらった礼を1行。次に、受けられない条件を事情ではなく事実として書きます。「今回のご予算だと修正は1回までになります」のように、こちらの都合ではなく作業量の話にするのがこつです。
最後に、出せる案を1つ添えます。範囲を削る、納期を延ばす、来月なら枠がある、のどれかで構いません。断りの返信は、依頼を受け取った当日か翌日までに送ると決めておくと、相手の段取りを止めずに済みます。
- 忙しいのでとだけ伝える:
理由が読めず、次に声をかける判断がつかない断り方 - 相手の予算そのものを否定する:
金額の妥当性を論じても関係が痛むだけの返し - 返事を保留したまま先延ばす:
相手の段取りを止めてしまう、いちばん角が立つ対応
条件を決めてから単価が変わった大城さんの話
機械部品メーカーで生産管理をしている大城さん(仮名・30代前半・男性)は、勤め先とは別に、作業手順書づくりの代行を引き受けていました。始めた頃は届いた依頼をすべて受けており、1件8,000円で修正が5回、打ち合わせが3回という仕事もありました。時間で割ると700円台です。半年で疲れきって、一度は止めようかと考えたと話していました。
ちょうどその時期に、大城さんは起業18フォーラムの勉強会へ自分から足を運ぶようになりました。3回続けて出るうちに、同じようにひとりで受けている会員さんが、金額と範囲の話を依頼の入口で済ませていることに気づきました。自分だけが、聞かれてから慌てて金額を答えていたわけです。
勉強会のあとの雑談で、見積書に何を書いているかを会員さんに聞いて回りました。修正の回数と打ち合わせの回数を、金額と並べて先に書いておくやり方を、そこで知ったといいます。大城さんが決めたのは、修正は2回まで、打ち合わせは1回、着手までに5営業日をもらう、という線でした。見積書の下にこの3行を足しただけです。
条件の合わない依頼には、範囲を削った代案を添えて見送るようになりました。見送った依頼が10件を超えたころには1件22,000円が標準の額になり、修正の回数でもめることもなくなりました。断った相手から二度と連絡が来なかったかというと、そうでもありません。2社は半年後、条件をこちらに合わせて戻ってきました。
- 断れない理由:
性格ではなく、受ける条件が言葉になっていない状態 - 決める順番:
金額・時間・範囲のうち、いま困っているもの1つから - 伝える順番:
礼を1行、受けられない条件を事実として、出せる案を1つ
条件を出すのは、相手を選ぶ行為に見えて、実は相手に判断材料を渡す行為です。条件をはっきり示す人には頼みやすく、そこが見えない人には頼みにくくなります。発注する側に立ってみると、その感覚はすぐに分かります。
次に依頼が届いたら、返事を書く前に報酬の額と支払期日を先方に聞き返してみてください。そこで返ってきた答えを見れば、受けるか見送るかはその場で決まります。
値段のついた依頼は、ここまでの線で判断できます。友人や知人から「無料でやって」と頼まれる場面は、お金の話というより関係の話になります。そちらの線引きは別の記事にまとめています。

次に条件の合わない依頼が届いたとき、あなたが最初に確かめたいのは、金額と時間と範囲のどれでしょうか?
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