記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
40代で、食品卸の会社で営業をしています。取引先の飲食店を回るうちに、自分の店を持ちたいという気持ちが抑えられなくなりました。ただ、開業資金の額や「飲食は廃業が多い」という話を聞くたびに怖くなり、足が止まります。
会社を辞める前に、何から確かめればいいのでしょうか?

● 回答
私のこれまでの起業支援の経験では、飲食の夢が途中で折れる原因は、味や接客の腕より「確かめる順番」にあることがほとんどでした。腕のある方でも、順番を間違えると続けられなくなります。
「辞めてから確かめる」順番で起きる失敗
- 退職と物件契約が先で、お客さんの反応を知るのは開店日
- 家賃と内装費が先に確定し、味と価格の検証はいちばん最後
- 貯金の大半が初期費用に消え、やり直す余力が残らない構図
この進み方の何が危ないのか。手元のお金が減っていく一方で、肝心の「知らない人がお金を払ってくれるか」を開店日まで確かめられない点です。
だからこそ、倒産の中身を見ておく意味があります。東京商工リサーチの集計では、2025年の飲食業の倒産は1,002件と、1996年以降の30年間で初めて1,000件を超えました。資本金1,000万円未満の店が約9割を占め、食材費の上昇分を値上げに反映できなかった「物価高」型の倒産も136件と前年の2倍を超えています。原価と価格の感覚を開店後に身につける順番では、間に合わないことがあるのです。
週末の間借りから定期出店までの8ヶ月
同じ場所で足踏みしていた方がいます。起業18フォーラム会員の岸本さん(仮名・40代・食品卸の営業職)は、物件サイトを眺めては閉じる日々を3年続けていました。
重なったのは、配達先で15年続いた定食屋の閉店と、迷った末に申し込んだ勉強会への初参加でした。会員どうしの事例共有で、店を借りる前に週末の間借りで試した先輩の話を聞き、岸本さんは確かめる順番を入れ替えたのです。
知人の店の定休日を借りた最初の営業日、来てくれたのは友人5人だけでした。それでも1食ごとの原価を記録し、イベント出店を重ねるうちに、名前を知らないお客さんが列に並ぶようになりました。
8ヶ月目には主催者から声がかかり、月1回の定期出店の枠を持つまでになっています。店舗契約はまだ先と決めていますが、原価率と客単価を、感覚ではなく数字で語れるようになりました。
売る料理より先に埋める設計図の残り8項目
この順番の入れ替えには、下敷きがあります。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、起業の設計図を9項目で紹介しています。売る商材はそのうちの1項目にすぎません。誰の困りごとを、いくらで、なぜ自分が選ばれる形で解決するのか。残りの8項目こそが設計の本体です。
飲食に置き換えるなら、メニューを磨き込むことより、店舗契約をいちばん最後に回し、辞める前に埋められる設計項目から確かめていく順番が安全装置になります。具体的には次の3点です。
- 味の再現性:
同じ料理を20食続けて、同じ味と提供時間で出せるかの確認 - 原価と価格:
1食ごとの材料費の記録と、いくらで売れば利益が残るかの試算 - 客の反応:
間借りやイベント出店での、知人以外がお金を払うかどうかの検証
開業資金の数字も、この順番で見ると意味が変わります。店を一軒開けるには、一般に数百万円単位の資金がかかるといわれます。
その数百万円は「店を開ける日」に要る金額であって、「夢を確かめ始める日」に要る金額ではありません。間借りの1日なら、会場代と仕入れを合わせても桁が2つ違います。
店舗の内見より先に、間借りできそうな店やイベント出店の空き枠を申し込んでみてください。味・原価・客の反応という設計図の核になる部分を、辞める前に数字で埋められます。
そしてもう1つ、机の上では手に入らない情報があります。営業中の店の裏側です。仕入れ値の変動も、雨の日の客足も、経験した人にしか語れません。
次の休みに、通い慣れた店の店主さんへ「開業前に何を確かめましたか」と聞きに行ってみてください。食品卸の営業として店を回ってきたあなたなら、話の糸口には困らないはずです。

数字と順番をここまで気にかけてから始めようとしている人は、勢いだけで店を開ける人と出発点が違います。
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