開業前に知りたい飲食店の生存率はどのくらい? 白書と公庫資料の読み方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

開業資金を貯めながら、いずれは自分の定食屋を開きたいと考えています。ところが知人に相談すると「飲食は3年で7割が潰れる世界だよ」と止められました。

ネットでも似た数字を何度も見かけて、不安で物件探しが進みません。この数字は本当なのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

「3年で7割潰れる」を裏づける公的統計は、私の知る限り見当たりません。飲食業がほかの業種より厳しいのは事実ですが、出どころの分からない数字で計画を止めてしまうのはもったいない判断です。

この「7割」は、店舗物件サイトなどが自社の取扱データから推計した数字が、元の条件を確かめられないまま転載され続けてきたものです。一方で、出どころのはっきりした統計もあります。

公的なデータは何を示しているか

中小企業白書の2017年版に、起業後の企業生存率をまとめた資料があります。起業から1年後の生存率は95.3%、3年後で88.1%、5年後でも81.7%です。

ただし、この数字は帝国データバンクのデータベースに収録された企業だけの集計で、実際より高めに出る可能性があると白書自身が注記しています。個人経営の店の閉店までは拾い切れていません。数字は「誰をどう数えたか」とセットで読む必要があります。

飲食にしぼった追跡調査もあります。日本政策金融公庫総合研究所の「新規開業パネル調査」は、2016年に開業した3,517社を2020年末まで追いかけました。5年間の廃業率は全体で8.9%、飲食店・宿泊業は14.7%と業種別で最も高い水準でした。

たしかに飲食は、廃業率がいちばん高い分野です。それでも、融資審査を通った店が対象という偏りを差し引いて読んでも、「3年で7割」との開きはあまりに大きいと分かります。

では「7割」はどこから来たのか

手がかりはあります。飲食店ドットコムを運営するシンクロ・フードが2025年1月に発表した集計では、2016年から2024年までに閉店した4,121店のうち、営業3年以内で閉店した店の割合が、ラーメン店やカフェでは6割を超えていました。

ここに読み違いの種があります。「閉店した店のうち3年以内が6割」と「開業した店の7割が3年で消える」は、母数の違うまったく別の計算です。閉店した店だけを集めれば、短命だった店の割合は自然と大きく出ます。

倒産件数の報道も同じ目で読めます。東京商工リサーチの集計では、2025年の飲食業倒産は1,002件と、1996年以降の30年間で初めて1,000件を超えました。ただしこの「倒産」は負債1,000万円以上の法的整理などに限られ、自主的な閉店は含まれません。件数の多さと、あなたの店が続く確率は、別の話です。

報道や記事の数字に出会ったときは、判断の前に確かめることがあります。

怖い数字を見たときに確かめる3点

  • 母数:
    開業した店全体か、閉店した店だけを集めた数字か
  • 言葉の定義:
    倒産・廃業・閉店のどれを数えているか
  • 出どころ:
    誰がどの範囲を数えたか。元の資料までさかのぼれるか
数字は怖がる材料ではなく、備える材料です

拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、「本当のリスクは、『危険な状態』を知らないことにあるのです」という考え方を紹介しています。飲食店・宿泊業の廃業率14.7%は、開業をやめる理由ではなく、家賃や仕入れの重さにどう備えるかを教えてくれる数字です。

会員の早乙女さん(48歳・ホテルの調理部門勤務)も、定食屋の開業を考えながら、「7割」の記事を読んで1年近く物件探しを止めていました。

数字の見え方が変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で廃業データの読み解きを扱った回に出てからです。中小企業庁が公表する白書と日本政策金融公庫の資料に目を通し、恐れていた数字の出どころを自分で確かめたことで、何に備えるかが具体的になりました。その後の会員どうしの個別相談では、家賃の上限と撤退ラインを先に決める形へ計画を組み直しています。

休日の間借り営業で原価と客数を10ヶ月分記録し、見通しを数字で確かめてから10席の店を構えました。開業から20ヶ月目のいまは、客単価と原価率を毎週見直す習慣が続き、利益の出る定食が注文の6割を超えるまでになりました。間借り営業で集めた記録が、店の規模を決める根拠になりました。

あなたの判断材料は、要約記事ではなく元の統計で確かめることをおすすめします。開業を迷っている今のうちに、中小企業白書の生存率の資料と公庫の新規開業パネル調査を、原典で最後まで読んでみてください。

読み終えるころには、「7割」がどの公的資料にも載っていないことを自分の目で確かめられます。数字の正体が分かれば、止まっていた物件探しを再開する判断もしやすくなります。

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怖い数字をそのまま信じず、出どころまで確かめようとするその慎重さは、開業後の資金繰りや値付けの場面でそのまま生きてきます。データの読み方を身につけた人にとって、飲食の開業は賭けではなく、備えられる挑戦に変わります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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