記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
育休をもらっている間に、いつかやりたかった自分の仕事の準備を少しずつ進めたいと思っています。子どもと過ごす時間を大事にしながら、空いた時間で動きたいだけなのですが、復帰してお世話になる職場のことを考えると、どこか後ろめたさがあります。
育休中に起業準備を進めても、職場に角が立たないでしょうか?

● 回答
その後ろめたさは、まじめに復帰を考えている方ほど強く感じるものです。まず申し上げたいのは、育休はあくまで子どもを育てるための休みなので、休業の目的を崩さない範囲で準備するなら、職場との関係はそうそう壊れません。問題になりやすいのは、準備そのものより「やり方」と「見え方」のほうです。
羽鳥(はとり)さんという会員さんも、まさに同じ迷いから相談に来られました。育休をいただいている立場で動くことへのためらいと、この時間を無駄にしたくない気持ちのあいだで、長く揺れていたそうです。順番に整理していきます。
後ろめたさは、休業の目的と自分の時間の線引きから来ている
育休は、子どもを育てるために仕事を休む制度です。だからこそ、その時間を別の仕事に丸ごと充てているように見えると、職場は「話が違う」と感じます。後ろめたさの正体は、たいていここにあります。子育てと準備、どちらを軸に置いているのかが、自分のなかでも曖昧になっているのです。
そこで線引きをはっきりさせます。子どもと過ごす時間を最優先に置いたうえで、寝かしつけのあとや昼寝の合間といった、もともと自分のものだった時間を準備に使う。この順番さえ守れていれば、休業の目的を崩したことにはなりません。育休中にやっているのは「起業」ではなく、復帰後にゆっくり育てていく芽を、いまのうちに小さく蒔いておくことだと考えてください。
就業規則の確認と、復帰の意思表示で角は立たなくなる
まず確認してほしいのは、勤め先の就業規則です。兼業や、会社の外で収入を得ることをどう扱っているかは会社ごとに違います。育休中であっても、復帰後の働き方に関わる以上、ここを知らないまま進めるのは避けたいところです。規定がはっきりしないときは、復帰のタイミングで人事に確認しておくと安心できます。
もう一つ大切なのが、復帰の意思をきちんと持っていることです。準備を進めながらも「戻って働くつもりです」という姿勢が伝わっていれば、職場は身構えません。逆に、休業中に黙って大きく動き、復帰直前になって退職を申し出る進め方は、信頼を傷つけます。角が立つかどうかを分けるのは、準備したという事実より、復帰を見据えて誠実に振る舞ったかどうかです。
継続可能ゾーンで、復帰後も回る規模に絞る
育休中はまとまった時間が取りやすいので、つい準備を広げすぎてしまいます。けれど本当の勝負は、復帰してからです。時短勤務と保育園のお迎え、家事と育児が重なる毎日のなかで、それでも回せる規模でなければ、せっかく蒔いた芽も続きません。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、継続可能ゾーンという考え方を紹介しています。やる気が満タンのときに立てた目標ではなく、無理なく続けられる範囲を先に見極めて、そこに収める発想です。育休明けの自分が週にどれだけ動けるかを基準に置くと、いま準備すべきことが驚くほど絞れます。
- 動ける時間:
復帰後に確保できるのは、平日の夜と週末の一部だけかもしれません。その時間で回ることだけに絞ります。 - 頼れる手:
家族や外部のサービスに、どこまで頼れるかを先に見ておきます。一人で全部抱える前提では続きません。 - やめても困らない形:
体調や子どもの事情で一度止めても、また再開できる軽さで始めます。重い設備や在庫は最初は持ちません。
羽鳥さんが、続く形にたどり着くまで
羽鳥さんは、育休に入ってすぐ、得意だった手芸の作品をネットで売る準備を一人で始めました。最初は時間のあるかぎり手を動かし、出品数を増やすことに夢中だったそうです。けれど復帰が近づくにつれ、この量を仕事しながら続けるのは無理だと気づき、手が止まってしまいました。
背中を押されたのは、起業18フォーラムの勉強会で、同じく子育て中の会員さんが話していた時間の設計でした。「全部やろうとすると、戻ったとたんに潰れる」という言葉が胸に残り、羽鳥さんはその後、会員さん向けの個別相談で自分の一日を見直しました。広げた間口を思いきって絞り、復帰後に確保できる時間でも回る商品だけを残す。そう決めたところから、流れが変わっていったといいます。
復帰して育休が明けたあとも、羽鳥さんの作品づくりは止まりませんでした。節目の12ヶ月目に振り返ると、毎月決まった数の注文が、無理のないペースで続くようになっていたそうです。一気にさばこうとするのではなく、自分が回せる量に注文の流れが落ち着いていきました。育児の合間でも続くのは、こういう形でした。「あのとき絞ってよかった」と、羽鳥さんは笑っていました。
もし規模に迷ったら、一度にさばいた数ではなく、毎月どれだけ無理なく注文を受け続けられたかを見てみてください。そのペースは、育児と両立できる規模かどうかを正直に映し出してくれます。
よくある質問

Q.育休中に開業届を出すと、すでに通っている上の子の保育園は退園になってしまいますか?
これは自治体ごとに運用が分かれるところで、一概には言えません。多くの自治体では、出産前にすでに事業を営んでいた実績があり、同じ事業に復帰する予定があれば、育休に準ずる扱いとして継続利用を認めています。
判断材料になるのは、開業届や確定申告書、就労を示す書類です。準備段階で収入がなくても、営業に向けた活動の実態があれば就労とみなされる場合もあります。まずはお住まいの役所に、自分の状況を伝えて確認するのが確実です。
Q.育児休業給付を受け取っている間に、収入のない準備を進めても大丈夫でしょうか?
育児休業給付は、育休開始から半年までは賃金の67パーセント、それ以降は50パーセントが目安です。2025年4月からは、両親がそれぞれ一定期間休業した場合などに上乗せされる出生後休業支援給付も始まりました。
給付は休業していることが前提なので、本格的に働いて収入を得ると調整の対象になります。準備の範囲にとどめ、実際の事業として稼ぎ始めるのは復帰後にすると、迷いが減ります。詳しい条件は、ハローワークか勤め先に確認してください。
Q.子育てをしながら起業している女性は、実際にどのくらいいるのでしょうか?
日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、開業した人に占める女性の割合が25.7パーセントと、調査開始以来もっとも高くなりました。育児や家庭の事情と両立しながら自分の仕事を持つ人は、年々増えています。育休という、まとまった時間が取りやすい期間に芽を蒔いておくのは、その流れに自然に乗る進め方だと言えます。

育休中だからこそ得られた時間の感覚は、復帰後の働き方を考えるうえで大きな財産になります。子育て中だから動けないのではなく、子育て中に身につけた時間のやりくりが、そのままあなたの武器になります。
そのうえで、今日できることは一つだけで十分です。役所の保育担当に電話をして、「自営でも保育の継続は可能か」とひとつだけ確認してみてください。制度の入口がはっきりすると、後ろめたさのかなりの部分は消えていきます。

育休は、ゴールではなく途中の一区切りです。戻って働く自分も、いつか自分の仕事を持つ自分も、どちらも切り捨てずに、いまの時間を一歩ぶんだけ前に使ってみてください。
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