記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
化学メーカーで品質保証をしている40代の会社員です。長く同じ仕事をしてきたので、社内の手順やルールにはかなり詳しくなりました。ただ、それは全部うちの会社のやり方であって、社外に一歩出たら通用しない知識だと思っています。
こういう社内でしか通じない専門知識でも、いつか外で売り物になるものなのでしょうか?

● 回答
「私には特技なんてない」と前置きした事務職の方が、話を聞くうちにはっきりした強みを持っていた。そんな場面を、私はこれまで何度も見てきました。技術専門職の方の相談は、たいていここから始まります。
社内でしか通じないと感じている知識ほど、外に出したときに値段がつくことがあります。ご質問の品質保証の経験も、そのまま眠らせておくにはもったいない中身です。
ただし、社内知識のすべてが同じように売れるわけではありません。中身によって、外で通用するものと、本当に社内限定で終わるものに分かれます。ここを見分けないまま「どうせ通用しない」と決めつけてしまうのが、いちばんもったいない。順番に見ていきましょう。
「経験を生かしたい」で始める人はとても多い
まず、あなたの感覚は特別なものではありません。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査でも、開業の動機として「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」は41.1%と大きな柱になっています。
つまり、開業した人のおよそ半分が、今ある経験や知識を土台にして外へ出ています。ゼロから新しいことを覚えて起業する人のほうが、むしろ少数派なのです。あなたが「社内でしか通じない」と思っている経験こそ、多くの人が独立の足場にしている資産と同じ種類のものです。
社内知識は3つのタイプに分かれる
では、どんな社内知識が外で通用するのか。私は相談の場で、社内知識をおおまかに3つのタイプに分けて考えてもらっています。自分の知識がどれに近いかで、外での売れ方が変わってきます。
- ①手続き・ルール型:
自社の申請フローや社内システムの使い方など、その会社の中だけで完結する知識 - ②判断・目利き型:
「この状態は危ない」「この数字はおかしい」と気づける、経験からくる判断の勘どころ - ③翻訳・橋渡し型:
専門的な内容を、詳しくない人にもわかる言葉に置き換えて伝えられる力
このうち、本当に社内でしか通じないのは①だけです。②と③は、会社が変わっても業界が近ければそのまま通用します。むしろ外に出たほうが値打ちが出るタイプです。
品質保証の経験を3タイプで分けてみる
ご質問の品質保証を例に、この3タイプを当てはめてみます。自分の頭の中を整理する感覚で読んでみてください。
「うちの検査記録システムへの入力手順」は①です。これは残念ながら、その会社を出た瞬間に使えなくなります。一方で「このデータのばらつき方を見ると、工程のどこかに異常が起きているとわかる」という感覚は②です。そして「なぜこの検査が必要なのかを、製造現場の人に納得してもらえるよう説明できる」なら③になります。
②と③は、化学メーカー品質保証という肩書きを外しても、検査体制を整えたい会社や、分析の見方を学びたい若手のいる現場でそのまま求められます。あなたが当たり前にやってきたことが、社内の外では希少な知恵になるのです。
「何に詳しい人」と呼ばれてきたかを思い出す
とはいえ、自分の②や③を自分で見つけるのは難しいものです。毎日やっていると、それが特別だという実感が湧かないからです。
そこで役立つ問いがあります。拙著『起業神100則』では、強みを見つける手がかりとして「あなたは『何に詳しい人』と呼ばれているか?」という問いを紹介しています。自分で「これが強みだ」と決めるのではなく、まわりからどう呼ばれ、何を頼まれてきたかをたどると、名もなき強みが浮かび上がってくる、という考え方です。
社内で「あの件は日野さんに聞けばいい」と言われてきたことは何か。他部署から相談を持ち込まれるのはどんなときか。その「呼ばれ方」の中に、あなたの②と③が隠れています。
- 頼まれごとを思い出す:
同僚や他部署から「これ見てほしい」と持ち込まれた相談の中身 - 呼び名を思い出す:
「○○に詳しい人」と社内で言われてきたテーマ - 説明した場面を思い出す:
専門外の人にかみくだいて教えて、感謝された経験
実際に社内知識を外に持ち出した会員さん
起業18フォーラムの会員さんに、日野さん(仮名・40代後半)という化学メーカーで品質保証を担当している方がいます。相談に来た当初は、まさにご質問と同じで「自分の知識は社内ローカルすぎて、外では一円にもならない」と思い込んでいました。
ご自身なりに転職サイトや資格の勉強も試したものの、どれもピンとこなかったそうです。転機は、フォーラムの勉強会で他の会員さんの話を聞いたことでした。同じように「専門が狭すぎる」と悩んでいた人が、その狭さを逆に武器にして仕事を得ていると知り、「狭いことは弱点じゃないのかもしれない」と見方が変わったといいます。
そこから日野さんは、自分が社内で何を頼まれてきたかを振り返りました。すると「検査手順書を整える」「分析データの読み方を若手に教える」という②と③の組み合わせが見えてきたのです。
まず知り合いの会社1社で、守秘義務に触れない一般的な範囲に限って手順書づくりを手伝うところから始め、少しずつ有料の仕事に変えていきました。今の仕事で「頼られた場面」を1週間だけ数えて記録してみてください。その記録が、あなたの商品の種になります。
いまでは本業を続けながら、休日に知人の食品会社や紹介先の現場で、検査手順書づくりや若手向けの勉強会を引き受けています。単発で終わらず同じ会社から次の依頼が続くようになり、毎月決まった収入の柱に育ちました。品質管理そのものの監査ではなく、現場に残る文書と人材を整える役回りが、日野さんならではの立ち位置になっています。
数えた記録の中で、自分が説明役や相談役になっていた場面に印をつけると、外で通用する②と③がはっきり見えてきます。

「自分には何もない」と感じている人ほど、会社の中で積み上げてきた経験という資産を見落としているものです。社内でしか通じないと思っていた知識は、外から見れば探されている知恵かもしれません。
よくある質問
Q.資格を持っていない専門知識でも、外で仕事になりますか?
なります。資格はあくまで信用の一部で、実際の現場が求めているのは「困りごとを解決できる経験」です。むしろ資格より、その分野で長く手を動かしてきた実感のほうが、相談相手として選ばれる決め手になります。
Q.業界が特殊で、同じ業種の相手が近くにいない場合はどうすればいいですか?
同じ業種にこだわらず、「同じ困りごとを持つ現場」まで視野を広げてみてください。品質管理でも在庫管理でも、業種が違っても悩みの構造は共通していることが多いものです。まずは近い困りごとを抱える相手を1社見つけるところからです。
Q.今すぐ会社を辞めないと試せませんか?
辞める必要はありません。勤めを続けながら、休日や空いた時間に知り合いの相談へ試しに乗るところから始められます。反応を確かめてから次を考えれば、生活を崩さずに試せます。
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