記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
小規模企業共済は、掛金を納めた月数が240か月に届かないうちに自分から解約すると、戻ってくるお金が掛けた総額を下回ります。それでも検討する価値があるのは、掛金の全額が所得から差し引ける制度だからです。ただし加入できるのは事業を営んでいる人だけで、勤め先から給与を受けている段階では申し込む資格そのものがありません。
この記事では、節税額の大きさより先に確かめておきたい「加入資格を満たすのはいつからか」と「自分からやめたときにいくら戻るのか」の2点を、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が公表している内容にそって整理します。
経営者と個人事業主のための積み立て制度

小規模企業共済は、従業員の少ない会社の役員や個人事業主が、事業をやめたり役員を退いたりしたときに受け取るお金を、自分で積み立てておく制度です。運営しているのは独立行政法人中小企業基盤整備機構、いわゆる中小機構になります。勤めている人でいえば退職金にあたる部分を、自分の掛金でつくっておく仕組みだと考えると輪郭がつかみやすいはずです。
掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で自由に決められます。上限まで掛けられる人ばかりではありませんから、まずは下限の1,000円でも制度としては成り立つ、と考えておくほうが現実的です(中小機構「制度のしおり」・2026年7月28日時点)。
税金の扱いも押さえておきたいところです。国税庁のタックスアンサーNo.1135「小規模企業共済等掛金控除」では、控除できる金額はその年に支払った掛金の全額と案内されています。死亡によるものを除き、共済金または準共済金の一括受取りは退職所得、共済金の分割受取りは公的年金等の雑所得として扱われます。
契約者の死亡により遺族が受け取る共済金は、相続税法上のみなし相続財産です。
一方、任意解約の解約手当金は分割受取りができず、請求事由が生じた日に65歳以上なら退職所得、65歳未満なら一時所得です。掛金の範囲内で事業資金を借りられる貸付制度も用意されています。
加入資格を満たすのは事業を始めたあと

中小機構が示している加入資格は、業種ごとに従業員数のラインが違います。建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業・サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)などは、常時使用する従業員が20人以下の個人事業主または会社等の役員です。商業(卸売業・小売業)とサービス業(宿泊業、娯楽業を除く)は、常時使用する従業員が5人以下という条件になります。
多くの人がつまずくのは、むしろ対象から外れる立場のほうです。中小機構は加入できない方として、事業を兼業している給与所得者、つまり法人や個人事業主と常時雇用関係にある方を明記しています。勤め先から給与を受けている間は、事業のほうで利益が出ていても申し込む資格がありません。
- 事業を兼業している給与所得者:
法人または個人事業主と常時雇用関係にある方(例:アパート経営をしながら勤めている方) - 配偶者などの専従者・従業員:
事業主本人ではないため対象外 - 中小企業退職金共済制度の被共済者:
別の退職金の仕組みに入っている立場 - 生命保険外務員:
制度上あらかじめ除かれている職種 - 登記されていない実質的な経営者:
相談役や顧問など商業登記簿に役員登記がない立場
この一覧を見ると、開業より先に入っておくという順番は制度上とれないことが分かります(中小機構の加入資格の案内・2026年7月28日時点)。共済の検討は、実際に事業を始めてからが出発点です。個人事業主は開業届を提出しているだけでは足りず、事業所得で確定申告を行う事業実態があり、雇用関係にもとづく給与を受けていないなど、中小機構が示す要件を満たす必要があります。
廃業と任意解約で変わる受け取り方

積み立てたお金は、共済金A・共済金B・準共済金・解約手当金のいずれかとして受け取ります。個人事業主なら、廃業したとき、契約者が亡くなったとき、配偶者や子へ事業の全部を譲ったときが共済金Aにあたります。65歳以上で180か月以上掛金を納めた場合が共済金Bです。
法人成り後は、設立した法人の規模や役員に就任するかによって準共済金と解約手当金のどちらになるかが変わります。そして自分の意思で解約したときが解約手当金になります。
掛金納付月数の下限も区分ごとに違います。共済金A・Bは6か月未満だと受け取れず、準共済金と解約手当金は12か月未満だと受け取れません。同じ積み立てでも、廃業して受け取る共済金と、自分から解約して受け取る解約手当金では計算がまったく違います。
| 受け取りの区分 | 主な請求事由(個人事業主) | 掛金月額1万円を5年納めた場合 |
|---|---|---|
| 共済金A | 個人事業の廃業、契約者の死亡 | 621,400円 |
| 準共済金 | 法人成り後、法人の規模や役員就任の状況から準共済事由に当たる場合 | 600,000円 |
| 解約手当金 | 自分の意思で解約した場合 | 480,000円(掛金合計額の80%) |
掛金合計は600,000円ですから、廃業して受け取る共済金Aは掛けた額を上回ります。制度そのものが「事業をやめるとき」を前提に設計されている、ということです。
元本割れが起きるのは任意解約のとき

資金が固定されるのが怖い、という声の正体は、たいていこの解約手当金の話です。掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約した場合、解約手当金は掛金合計額を下回ります。支給率は小規模企業共済法施行令の別表で定められていて、納付した掛金の80%から120%の範囲です(中小機構・2026年7月28日時点)。
もう一段細かい条件もあります。加入期間が240か月以上あっても、途中で掛金を増やしたり減らしたりすると、掛金区分ごとに納付月数が数えられます。掛金区分ごとの納付月数が240か月を下回ると、解約手当金が掛金合計額を下回ることがあります。
- 掛金納付月数が12か月未満:
解約手当金は受け取れず掛金は掛け捨て - 掛金納付月数が240か月未満の任意解約:
解約手当金が掛金合計額を下回る水準 - 途中で掛金を増減額した場合:
掛金区分ごとの納付月数で240か月を判定する仕組み
逆にいえば、20年という数字が効いてくるのは自分から解約したときだけです。事業をやめる、つまり廃業して受け取る場合は共済金Aの扱いになりますから、同じ「やめる」でも意味がまったく違います。
掛金は固定費として無理のない額から

拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、長く続く事業の特徴として固定費の小ささを紹介しています。掛金は毎月出ていくお金ですから、事業の固定費と同じ場所に置いて考えるのが自然です。節税額から逆算して上限近くに設定すると、売上が落ちた月にそのまま効いてきます。
掛金は固定費とみなして、売上が読める前は下限に近い額から始めておくほうが、あとの身動きが取りやすくなります。増額は最高70,000円まで、減額は最低1,000円まで、どちらも500円単位で手続きできます。ただし同じ月のうちの再変更はできません。
- 始めるときの金額:
売上が読める前は下限に近い1,000円から - 増やすタイミング:
所得が安定して固定費に耐えられるようになってから - 減らすときの見方:
掛金区分ごとに納付月数が数えられる仕組み
まとめ払いの前納という選択肢もあり、前納をすると前納減額金を受け取れます。ただし前納も、毎月いくらなら無理なく続くのかが決まってからの話になります。
事務代行で独立した柊さんが掛金を決めるまで

柊さん(仮名・40代前半・女性)は、建材メーカーの総務で請求書の処理と備品の管理を担当していました。勤めながら中小企業の請求書まわりの事務を引き受ける仕事を始め、2年目に開業届を出して個人事業主になっています。
元同僚のひとことで制度を知る
きっかけは、先に独立していた元同僚との立ち話でした。「共済はもう入った?」と何気なく聞かれて、柊さんは制度の名前すら知らず、その場で答えられなかったそうです。
調べてみると節税になると書いてあり、いきなり上限に近い掛金で申し込もうとしました。ところが「20年引き出せないなら生活費が回らないのでは」と怖くなり、申込書を半年ほどそのままにしていました。
勉強会で聞いた掛金の決め方
起業18フォーラムの勉強会で、独立して間もない会員さんが自分の掛金額をどう決めたかを話していました。節税額から逆算するのではなく、毎月出せる固定費の枠から先に決めたそうです。柊さんは帰り道で、自分が金額の大きさばかり見ていたことに気づいたと言います。
翌月、柊さんは月5,000円で申し込みました。取引先が増えて売上が読めるようになった3年目に、月2万円へ増額しています。継続して依頼が来る取引先は1社から4社になり、掛金を増やしても資金繰りに響かなくなりました。
柊さんの進み方で効いたのは、節税額を先に計算しなかったことでした。加入資格と解約時の条件を確かめてから、金額はあとで動かせばいい、という順番です。
まず確かめてほしいのは、掛金の額ではなく加入資格のほうです。中小機構のサイトで加入資格のページを開き、「加入できない方」の一覧といまの自分の働き方を照らし合わせてみてください。
加入資格は、事業を営む立場になってからでないと満たせません。共済をいつ検討するかは、開業の手続きをいつ動かすかと地続きの話になります。

小規模企業共済についてよくある質問

Q.勤めながら小規模企業共済に入れますか?
中小機構は、事業を兼業している給与所得者を加入できない方として示しています。勤め先と常時雇用関係がある間は申し込めません。開業届を出して事業を営む立場になり、業種ごとの従業員数の条件を満たしてからが入口になります。
Q.途中でやめたら掛けたお金はどうなりますか?
掛金納付月数が12か月未満だと解約手当金は受け取れず、掛金は掛け捨てになります。12か月以上あれば納付月数に応じた支給率で戻りますが、240か月(20年)未満で自分から解約した場合は掛金合計額を下回ります。
Q.掛金は途中で変えられますか?
月額1,000円から70,000円までの間で、500円単位の増額も減額もできます。ただし同じ月のうちの再変更はできません。増減額をすると掛金区分ごとに納付月数が数えられるため、240か月の判定が区分ごとになる点には注意が要ります。
Q.事業をやめたときも元本割れしますか?
個人事業を廃業した場合は共済金Aにあたり、自分から解約したときの解約手当金とは扱いが違います。掛金月額1万円を5年納めた例では、掛金合計600,000円に対して共済金Aが621,400円と公表されています。
制度選びで迷ったときの起業18フォーラム

起業18フォーラムは、起業したい会社員のための会員制コミュニティです。ゼロから小さく起業するために必要な「強みの発掘」「売れる商品」「正しいビジネスモデル」を作るための支援を行っています。共済や税金のように調べるほど迷いが増える論点も、勉強会で同じ段階の会員さんの決め方を聞くと輪郭がはっきりします。
今すぐ申し込むのも、事業の形が固まるまで待つのも、どちらも筋の通った選択です。制度が先になくなるわけではありませんし、条件を満たす日はこれから何度でも来ます。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
