記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
会社で事務の仕事をしながら、いつか自分の仕事を持ちたくて情報を集めています。先日、起業スクールの説明会に行ったところ、受講料が数十万円する講座を勧められました。担当の方はとても熱心で、ここで学べば近道だと言われると心が動きます。
ただ、その金額を払って、もし何も形にならなかったらと思うと怖くて決められません。高額なスクールやセミナーには、思い切ってお金をかけるべきなのでしょうか?

● 回答
お金を払ったあとで「これは違った」と気づいたとき、受講料が戻るかどうかは契約内容や勧誘方法で変わります。電話勧誘販売など特定商取引法の対象ならクーリングオフ、不実告知などがあれば取消しが認められる場合もあります。ただし、いつでも返金されるわけではありません。網野さんが申し込みボタンの前で決めきれずにいるのは、この不確かさが怖いからだと思います。その怖さは、いい加減に扱っていいものではありません。
高いか安いかで決める前に、いまの自分に「増やせる中身」があるかどうかで、その投資が生きるか無駄になるかが分かれます。まだ売れる核が何も無いところに数十万円の講座を重ねても、道具の使い方が増えるだけで、売上が生まれるわけではありません。まずは無料で使えるよろず支援拠点などで足場を作り、足りない部分だけを後から有料で補う。この順番にするだけで、失敗の目はずっと小さくなります。
「高いほど本気になれる」の落とし穴
説明会では「高いお金を払うほど本気で取り組める」と背中を押されることがあります。その気持ちは分かりますが、金額の大きさと成果は比例しません。
国民生活センターには、もうけ話や情報商材をめぐる相談が今も数多く寄せられています。情報商材に関する相談は2024年度4,118件、2023年度6,256件でした(2025年5月31日までのPIO-NET登録分、経由相談を除く)。国民生活センターは若者向けにも注意を呼びかけています。金額の高さは、中身の確かさを保証してくれるわけではないのです。
分かれ目は金額ではなく「現在地」
これまで起業準備の相談を受けてきて感じるのは、学びへの支出が生きる人と、ただ消えてしまう人の差は、金額ではなく「現在地」にあるということです。
たとえば、受講料さえ払えば教材もノウハウも一式そろうのだから、あとは成果が付いてくるはずだと考える人がいます。ただ、講座で伸びていく受講生は、申し込む前から「これを届けたい」という中身を持っていて、その磨き方や広め方を教わっているだけです。中身が定まらないまま手法や型だけを買い足しても、お客様のほうから集まってくることはありません。手元に残るのが受講の記録だけ、ということも起こります。
反対に、あと一歩でうまくいくところまで来ているのに、わずかな支出を惜しんで足を止めてしまう人もいます。必要な投資をせずに元の場所へ戻ろうとするのは、それはそれでもったいない選び方です。大切なのは金額の大小ではなく、いまの自分がどの段階にいるのかを正しくつかむことです。
高額な契約を前にした網野さんには、サインの前に次の3点を確かめてほしいと伝えました。
- 売れる中身の有無:
講座に頼る前に、自分の手元で売れる材料があるかの棚卸し - 返金・解約の条件:
契約前に確かめる、中途解約や返金の可否とその条件 - 教える人の実像:
宣伝の実績だけでなく、その人が今も現場で稼いでいるかの見極め
高いスクールの契約書にサインする前に、この3点を自分の言葉で説明できるかどうか、一度立ち止まって確かめてください。一つでも曖昧なら、今日決める必要はありません。
まず無料・低額で足場をつくる
独学が不安なら、いきなり高額講座に飛ぶ前に、公的な無料・低額の学びから始める道があります。よろず支援拠点は、国が全国に置いた無料の経営相談所で、中小企業基盤整備機構が全国本部を務め、創業を考えている人でも何度でも無料で相談できます。ここで自分の現在地を確かめるだけでも、高いスクールが本当に要るのかが見えてきます。
無料や少ない元手で使える学びの場には、次のようなものがあります。
- よろず支援拠点:
国が全国に置く無料の経営相談所。何度でも使える窓口 - 公的な創業セミナー:
日本政策金融公庫や自治体が開く、無料から低額の講座 - 起業18フォーラム:
会社員のまま講師と仲間とスタートできるコミュニティ
まずこうした場で足場を作れば、有料の講座を選ぶときも「自分に足りないのはここだ」と分かったうえで、必要なところにだけお金を使えます。
1つに賭けず複数から学ぶ
拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』では、会社の外に尊敬できる人、目標にしたい人をメンターとして持つ大切さを紹介しています。しかもそれは1人ではなく、複数見つけてくださいとお願いしています。
高いスクールに申し込むと、その先生の教えだけが唯一の正解のように感じてしまいます。けれど、学ぶ相手を1人に絞るほど、その人の型に染まりすぎて視野が狭くなります。無料の相談員、少額の教材の著者、同じ時期に頑張る仲間。複数の人から少しずつ受け取るほうが、自分に合うやり方を選び取れます。
情報収集から動き出した網野さんの話
相談に来た当時の網野さんも、まさに高いスクールの申し込みボタンの前で止まっていました。事務の仕事を続けながら情報を集めるほど、あれもこれも学ばなければと不安が募っていたそうです。
起業18フォーラムの勉強会に通ううち、網野さんは他の会員さんたちの進み方の違いに気づいていきました。ある人は数十万円の講座から入り、別の人は無料の創業相談と数千円の教材だけで小さく試していました。人によって選ぶ道がまるで違うと分かったことが、網野さんにとっては自分を映す鏡になりました。一つの正解を高く買うのではなく、複数の人から少しずつ学べばいいと思えたのです。
そこから網野さんは、まず無料の相談で足場を作り、足りない部分だけを低額の教材で補いました。手を動かしながら学ぶうちに、同じように迷う人の相談にのるようになり、気づけば延べ30名ほどの知り合いから、学びの相談を持ちかけられるようになっていました。大きく賭けなくても、学びは着実に積み上がっていきます。
網野さんのように迷っているなら、高い契約を決める前に、日本政策金融公庫や自治体が開く無料の創業セミナー、または全国のよろず支援拠点の相談を、まず1つ申し込んでみてください。聞くだけの参加で構いません。有料の講座と比べる材料が手に入り、判断の軸ができます。
お金をかけるほど成果が出るわけでも、独学だけで十分なわけでもありません。無料や低額の学びで現在地を確かめ、足りない分を見極めてから必要なところにお金を使う。この順番を守れば、高いスクールが本当に必要かどうかも、自分の目で判断できるようになります。

お金を無駄にしたくないと慎重になれるのは、それだけ真剣に自分の将来を考えている証拠です。その慎重さは、情報商材にお金を溶かしてしまう人にはない、網野さんの確かな強みになります。
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