値段をいつも安くしてしまうのはなぜ? フリーランス2年目が経験した打開策

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

フリーランスになって2年が経ちます。デザインを頼まれるたびに「この金額で大丈夫かな」と不安になり、気づけばいつも相場より安めの数字を出してしまっています。

怖くて強気の値段が言えないのですが、これって直るものなのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

直ります。ただし、「勇気を出して高くする」という精神論では直りません。値段を安くしてしまう根本は、価格が何で決まるかを知らないことにあります。構造を理解した瞬間に、「怖い」という感覚の正体も変わっていきます。

値段を下げてしまう本当の理由

「自分の腕に自信がないから安くしている」と思っている人が多いのですが、実は違います。私がこれまで起業相談を受けてきた中で気づいたのは、安値をつけてしまう人の多くが「値段は自分の実力で決まる」という思い込みを持っている、ということです。

実力が低いから安くする。実力がついたら高くする。一見まともに聞こえますが、この考え方が罠です。実力は数値化できません。そのため「まだ足りない気がする」という感覚が永遠に続き、値段を上げるタイミングが一生来なくなります。

拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』の中で、価格が変動する要因として6つを挙げています。タイミング・季節・場所・目的・非日常・信用です。実力はこの中に入っていません。

たとえば同じチラシのデザインでも、「急ぎで明日必要」なら価格は上がります(タイミング)。「週末のイベント用」なら季節感・非日常感が加わります。「銀座の高級店向け」なら場所と目的が変わります。どれも実力は同じなのに、価格の根拠が変わります。

値段は実力だけでなく、状況・文脈・相手が求めているものの組み合わせで決まります。この構造を知らないと、唯一手元にある「自分の技術」だけを根拠にしようとして、そのたびに「まだ足りない」と感じ、値段を下げることになります。

総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」は、フリーランスを含む就業状態を把握する基幹統計です。ただ、統計だけでは個別の価格設定までは教えてくれません。だからこそ、自分のサービスの価格を「実力」ではなく、条件・信用・相手の目的から説明できるようにする必要があります。

「信用」が積み上がると値段が変わる理由

6要因の中で、フリーランス2年目が最も変化を実感できるのが「信用」です。

Q. 信用があると値段が上げられる、というのはどういう意味ですか?

お客さんが初めてあなたに頼む場合と、3回目に頼む場合とでは、そのお客さんが感じるリスクがまったく違います。初回は「仕上がりが想像通りにならないかもしれない」という不確実性があります。3回目になると、その不確実性がほぼなくなります。

お客さんがリスクを感じているうちは、高い値段への抵抗が大きくなります。逆に、「この人に頼めばちゃんとしたものが来る」という安心感が積み上がると、値段よりも信頼を優先して発注するようになります。信用が育つほど、価格への感度が下がり、あなたが提示した数字を受け取りやすくなります。

つまり、値段を上げるために必要なのは技術の向上より先に、信用の蓄積です。新しい人を取り続けるよりも、既存のお客さんが「またこの人に」と戻ってくる状態をつくることが、値段を変えられる最短ルートです。

水野さんが12ヶ月目に経験したこと

起業18フォーラムの勉強会で出会った水野さん(44歳・フリーランスのグラフィックデザイナー2年目)は、まさに同じ悩みを持っていました。毎回「怖くて安めに出してしまう」と話してくれたのが、フォーラムに来はじめた頃のことでした。

当時の水野さんは、チラシのデザインで1万2千円前後を提示することが多かったと言います。周囲のデザイナーの相場よりかなり低く、本人も「安いとわかっていながら下げてしまう」という状態でした。

そこで個別相談の中で、値段の話よりも先に「誰が何度リピートしているか」を実際に書き出してもらいました。洗い出してみると、同じお客さんが複数回依頼しているケースが思いのほか多かった。リピートしているということは、その人にとっての信用が積み上がっている証拠です。

見えてきたのは、水野さんの仕事は「信用」が着実に育っているのに、価格だけが止まったままだという事実でした。

そこから水野さんは、初めてのお客さんには従来通りの価格を維持しながら、リピートのお客さんに対してだけ少しずつ価格を変えていくことにしました。「断られたらどうしよう」という不安はありましたが、ほとんどのリピート客は値段を変えても依頼を続けてくれました。

それを半年続けた12ヶ月目、リピート率が上がっていることに気づきました。単価は最初の頃の1.4倍になっていましたが、依頼が途切れることはありませんでした。「高くしたから逃げられる」ではなく、「信用があるから依頼が続く」という体験を、水野さんは数字で確認することができました。

今日からできること

まず、同業のデザイナーのサービスページを上位の人を中心に5件だけ見てみてください。金額だけでなく、どんな実績や特徴を出しているかも確認します。「相場より安い」という感覚が思い込みか事実かを確認するだけで、次の提案価格への向き合い方が変わります。

調べることのポイントは、金額だけを拾うのではなく、その金額に何が含まれているかを読むことです。修正回数・対応速度・ヒアリングの丁寧さ。これらが価格の差を説明している場合、あなたが同じことをやっているなら、同じ価格を提示できる根拠になります。

起業したいけど何から始めればいいですか?
● 質問 起業したいという気持ちはあるのですが、何から始めればいいのかわかりません。最初の1ヶ月でやるべきこと

値段を下げるのは、自分を守るためではなく、自分への信用がまだ見えていないからです。同業の上位5件を観察することは、自分の現在地を確認する作業です。怖さを消すための精神論より、根拠を持つための情報収集を先に始めてください。フリーランスとして積み上げてきた信用は、すでに価格を変える力を持っています。

よくある質問

Q.値段を相場通りにすると、他のデザイナーと比べられて負けてしまいませんか?

相場通りにしたから負ける、ということはほぼありません。相場を大きく下回ると「安いから頼む」という層が集まり、信用よりも価格で判断するお客さんが増えます。相場を維持することで、価格以外の理由で選んでくれる人と出会いやすくなります。

Q.値段を上げると、今のお客さんが離れないか心配です。

一度に大幅に上げる場合は慎重な対応が必要ですが、リピートのお客さんに少しずつ変えていくなら、離れるケースは思ったより少ないです。信用が積み上がっているお客さんは、値段の変化より関係を優先することが多いためです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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