記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
会社の人間関係に疲れてしまい、辞めて一人でやる起業を考えています。もともと大勢でわいわいするのが苦手で、一人で黙々と進めるほうが性に合っているのですが、こういう内向的な性格でも一人の起業は向いているのでしょうか?
それとも、ただ人付き合いから逃げたいだけで起業を選ぶのは甘い考えなのか、自分でも判断がつきません。

● 回答
人付き合いから離れたいという気持ちを、自分への引け目として抱えていらっしゃるのですね。まずその気持ちを否定するところからは始めません。大勢の輪が苦手で、一人で深く考えるほうが力が出る人は、一人の起業にむしろ向いていることが多いからです。ただ、いま立てておられる問いには、一つだけ前提のずれがあります。そこを直すと、適性の見え方が変わってきます。
「一人でやる」は「誰とも関わらない」ではありません
一人の起業を「全部を一人で完結させ、誰とも関わらない働き方」と思い描くと、内向的な人ほど「自分に務まるのか」と怖くなります。けれど実際は少し違います。商品を届ける相手はいますし、頼んでくれる人とのやり取りも残ります。減るのは、組織の中で避けられなかった種類の人間関係です。
毎朝の雑談、立場を気にした根回し、合わない上司との長い時間。あなたが疲れていたのは、おそらく人そのものではなく、こうした自分で相手も距離も選べない関係のほうだったのではないでしょうか。一人で起業すると、誰とどれくらいの距離で付き合うかを、自分で決められるようになります。
そのぶん、関わる相手の数は会社員時代よりぐっと減ります。実際、独立した方の動機を見ても、ここに本音が表れています。日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査(2024年11月公表)では、開業動機で最も多いのが「自由に仕事がしたかった」で56.9%でした。
働く相手や進め方を自分で選びたい、という願いが一番の入口になっているわけです。あなたの「人間関係に疲れた」も、この自由を求める気持ちと地続きにあります。
内向型がつまずきやすいのは「広げ方」のところだけ
私はこれまで延べ6万人の起業準備をお手伝いしてきましたが、内向的な方が一人の起業で行き詰まる場所は、ほぼ一か所に集まります。仕事の質ではありません。お客さまを「広げる」ところです。交流会で名刺をたくさん配る、SNSで声を張り上げる。こうした広く浅い広げ方は、内向型の人にとって消耗が激しく、続きにくいのです。
ここで多くの方が「やっぱり自分は営業に向いていない」と落ち込みます。けれど、見るべき方向が違います。内向型の強みは、一人ひとりと深く向き合えることにあります。広く薄くではなく、狭く深く関係を育てて、その人からの紹介や指名で次がつながっていく形は、内向的な人ととても相性がいいのです。苦手な広げ方を無理に真似る必要はありません。
一人の起業で、内向型が活かせる場面
- 一人ひとりへの対応:
相手の話をじっくり聞き、細かな要望まで汲み取る丁寧さ - 準備と段取り:
一人でじっくり考え、抜けのない手順を組み立てる集中力 - 関係を続ける力:
一度引き受けた相手と長く付き合い、信頼を積み重ねる粘り強さ
逃げたいだけなのか、を一人で問い詰めなくていい
「人付き合いから逃げたいだけでは」という引っかかりについても、お答えします。逃げの気持ちが入っていても、それ自体は問題ではありません。今の働き方がつらいという事実は、別の働き方を探す立派な理由になります。大事なのは、逃げた先に「自分のやりたいこと」があるかどうかです。そこが空っぽのまま辞めると、場所を変えても同じしんどさが追いかけてきます。
この見極めは、頭の中だけで一人で結論を出そうとすると、たいてい堂々巡りになります。あなたが起業18フォーラムの会員さんなら、まず個別相談で、その不安を一つずつ分けて言葉にしてみることをおすすめします。「人間関係がつらい」と「一人でやっていけるか不安」と「やりたいことがまだない」は、本当は別々の悩みです。混ざったまま抱えていると、全部が大きな塊に見えてしまいます。
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、起業までの180日を、心の準備から商品づくり、知ってもらう工夫、信頼を得る段階へと、四つのまとまりに分けて進める考え方を紹介しています。最初のまとまりが心の整理にあてられているのは、まさにこの「逃げか、選択か」を腰を据えて見つめる時間が要るからです。一足飛びに商売の話へ進まないことが、内向型の方にはとくに大切だと感じています。
人付き合いが苦手だった芦田さんが、指名で回り始めるまで
起業18フォーラムの会員さんに、芦田さん(40代)という方がいました。会社では人間関係に気を張り続け、毎日へとへとになって帰る生活が長く続いていたそうです。一人で進められる仕事に魅力を感じてはいたものの、「人と関わるのが苦手な自分に、お客さま相手の商売なんて無理だ」と、最初は半ばあきらめておられました。
転機は、起業18フォーラムの個別相談でした。一人で抱えていた不安を、担当者と一緒にほどいていったのです。「苦手なのは初対面で大勢に売り込むことで、一度引き受けた相手と丁寧に付き合うのはむしろ得意ではないか」。話すうちに、芦田さんの中でそこがはっきりしてきました。さらに、似た事情で動き出した他の会員さんの事例を知り、自分のやり方でも形になるのだと実感が持てたといいます。
そこからは、広く集めることをいったん脇に置き、最初の数人に深く向き合うことだけに絞りました。8ヶ月目には、丁寧な対応を気に入ってくれた一人目のお客さまが二人目を紹介してくれて、その二人目がまた次の人を連れてくる流れが生まれていました。派手な集客はしていません。それでも、指名で頼まれる仕事が少しずつ重なり、会社員のころに毎日感じていた人疲れとは、種類の違う手応えが芽生えていったそうです。
芦田さんの歩みが教えてくれるのは、内向型かどうかが向き不向きを決めるのではない、ということです。自分の付き合い方に合った形を選べたかどうかが、続くかどうかを分けます。苦手な売り方を捨て、得意な関わり方に賭けたことが、芦田さんの場合は指名という形で返ってきました。
あなたの場合も、いきなり会社を辞めて広い世界に飛び込む必要はありません。今日の一歩としておすすめしたいのは、たとえば無料で構わないので、困っている知り合い一人の相談に乗ってみることです。一対一でじっくり向き合う時間が、苦痛ではなく心地よく感じられるなら、それがあなたの適性を映す一番正直な手がかりになります。大勢を相手にする練習ではなく、一人と深く向き合う感覚を確かめるところから始めれば十分です。

不安を感じているのは、それだけ真剣に自分の人生を考えている証拠です。その慎重さは、一人の起業ではむしろ味方になります。
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