記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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会社の外で働くことを認める企業が年々増えるなか、会社の外で稼ぐ準備から起業へ、という道筋が、以前よりずっと現実的になっています。それでも、いざ準備を始めようとすると、最初に手が止まる場所があります。「これ、会社に黙って進めていいんだろうか」という、あの引っかかりです。
会社にいながら起業の準備をするとき、多くの人が「こっそり隠す」方向で考え始めます。けれど私のこれまでの起業支援の経験では、隠そうとするほど不安が大きくなり、肝心の準備が進まなくなる人が少なくありません。本当に必要なのは、隠す技術ではなく、堂々と段取りを踏むための制度の理解です。
この記事では、起業準備の入口で確認しておきたい就業規則と住民税の話を、辞典のように一つずつ整理していきます。やましく動く必要はありません。確認すべき場所さえ分かれば、会社にいながらの準備は、後ろめたさのない正面の段取りに変わります。
就業規則の「届出か許可か」をまず確認する

会社にいながら準備を進めるとき、最初に開くべきは就業規則です。多くの会社では、勤務時間外の活動について何らかの定めがあります。ここを読まずに進めると、後から「聞いていない」という形でトラブルになりやすいのです。
厚生労働省は、平成30年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定しました(令和2年9月・令和4年7月に改定)。同じ時期にモデル就業規則も見直され、労働者の遵守事項から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除されました。これにより、会社の外での活動を原則として認める方向へと、国の示す標準が変わっています。
ガイドラインでは、会社が外の活動を把握する方法として、許可制と届出制の二つが示されています。届出制は、所定の書類を出せば外の活動を進められる、手続きの簡便な仕組みです。一方の許可制は、会社が長時間労働や情報漏えいのリスクを管理しやすい仕組みになります。厚生労働省のモデル就業規則では、この二つのうち届出制を採用しています。あなたの勤め先がどちらを採っているかで、最初の一歩は変わってきます。
就業規則で見ておきたい3つの場所
- 外部活動の可否:
勤務時間外に会社の外で働くことについての定めがあるかどうか - 手続きの種類:
許可申請が要るのか、届出を出せばよいのか、その様式があるか - 競業の範囲:
同業他社や取引先に関わる活動が制限されていないか
この3点を探すだけで、自分が何を会社に伝えればよいかの輪郭が見えてきます。就業規則のうち、まずは「許可申請という制度があるか、あるいは届出で足りるか」の一文を探すところから始めてください。条文の全体を理解しようとしなくて大丈夫です。該当する一文に行き当たれば、それで十分に前進です。
住民税の普通徴収と特別徴収のちがいを知る

就業規則の次に確認しておきたいのが、住民税の納め方です。会社の外で得た収入があると、その分の住民税をどう納めるかという論点が出てきます。ここを知らないまま進めると、会社の経理を通して外の収入が見える形になり、想定外のタイミングで話が広がることがあります。
住民税の徴収方法は、地方税法にもとづいて大きく二つに分かれます。総務省の地方税制度の解説では、それぞれ次のように説明されています。
2つの徴収方法の比較
| 項目 | 特別徴収 | 普通徴収 |
|---|---|---|
| 納める人 | 会社が給与から天引きして納入 | 本人が納付書で直接納付 |
| 対象 | 給与所得(原則こちら) | 給与・年金以外の所得など |
| 回数の目安 | 毎月(年12回) | 年4回 |
給与所得の住民税は、原則として特別徴収によって会社が納めることになっています。これは会社員であれば自動的にそうなっている仕組みで、自分で選び直すものではありません。一方で、給与や年金以外の所得(事業所得・雑所得など)については、本人が自分で納める普通徴収を選べる余地があります。起業準備の文脈で生まれる収入は、この普通徴収の対象になり得るというわけです。
- 会社の給与分:
特別徴収で会社が納めるのが原則。ここは動かせない - 会社の外の収入分(事業所得・雑所得):
確定申告の際に普通徴収を選べる - 【重要】令和8年度以降の制度変更:
別の会社から受け取る給与(給与所得)の場合は、確定申告で「自分で納付」を選択しても普通徴収にできなくなりました。地方税法の規定に則り、全国の自治体で順次この取り扱いに統一されています。ただし、事業所得・雑所得など給与・年金以外の所得については、令和8年度以降も引き続き普通徴収を選ぶことが可能です - 判断の前提:
扱いは所得の種類や自治体の運用によって異なる
この区分を頭に入れておくと、「会社の経理に外の収入が伝わってしまうのでは」という漠然とした不安が、具体的な手続きの話に変わります。不安を消す一番の近道は、収入の種類ごとに納め方の選択肢を正しく知っておくことです。
確定申告で「自分で納付」を選ぶ流れ

では、会社の外の収入分(事業所得・雑所得など)を自分で納めたいとき、具体的にどこで意思表示をするのでしょうか。鍵になるのが、確定申告です。
国税庁の案内によれば、確定申告書の第二表に「住民税に関する事項」という欄があります。そこに「給与・公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」という項目があり、「自分で納付」の欄に〇をつけることで、給与・年金以外の所得分について普通徴収を希望できます。この一手間が、会社の給与と外の収入を別の経路で納めるための入口になります。
ここで一点だけ、正確にお伝えしておきたいことがあります。令和8年度(2026年度)以降、会社の外の収入が「給与所得」にあたる場合(別の会社でアルバイト・パートをするなど)は、確定申告で「自分で納付」を選んでも、その給与分の住民税は主たる勤め先からの特別徴収に統一されることになりました。これは地方税法の規定に則った全国的な取り扱いの変更です。
一方で、起業・フリーランス準備によって生じる事業所得や雑所得については、引き続き「自分で納付」の選択が有効です。確実なところは、お住まいの市区町村の住民税の窓口に確認するのが安心です。ネット上の断片的な情報だけで「必ずこうなる」と思い込むのは避けてください。
大切なのは、これらが隠すための裏技ではなく、もともと制度として用意されている正規の選択肢だということです。拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』でも、住民税の納め方を含めた在職スタート時の手続きを紹介しています。やましさからではなく、段取りとして押さえておく。その姿勢が、準備を長く続ける土台になります。
制度に振り回された経験が、商品の種になることもある

制度の話が続いたので、ここで一人の会員さんの歩みを紹介します。メーカーで総務を担当していた相沢さん(仮名・44歳)は、入社して18年目に会社にいながら起業の準備を始めた頃、まさにこの就業規則と住民税の扱いで立ち止まっていました。
当初は自己流で、ネット記事を読み漁っては「普通徴収にすれば大丈夫」「いや所得の種類による」と情報が食い違い、何が正しいのか分からないまま数か月が過ぎました。確定申告の書き方も毎年自分で調べ直す状態で、そのたびに時間を取られていたといいます。
転機になったのは、自分が制度対応で右往左往したその経験そのものが、同じ立場の人にとっての価値になると気づいたことでした。総務の実務で培った手続きの読み解き方を活かし、相沢さんは「会社にいながら準備を始める人向けの、就業規則と税のチェックの伴走」を小さなサービスとして組み立て始めました。
すると、社内の同僚や知人から「自分の会社の規程はどう読めばいい?」という相談が、半年を過ぎた頃には月に4件ほど寄せられるようになりました。12ヶ月目を迎えた今では、会社の外で得る収入が、本業の月収の3割ほどを占めるところまで育っています。
かつて自分を悩ませた制度の戸惑いが、そのまま誰かの不安を解く商品に変わったのです。相沢さんの出発点は、特別な才能ではなく、最初に就業規則と住民税をきちんと確認したという、地味な一歩でした。

会社にいながら起業の準備を進めることは、後ろめたい行為ではありません。就業規則で手続きの種類を確かめ、住民税の納め方を知り、起業による事業所得・雑所得については確定申告で自分で納付を選ぶ。一つずつ正面から段取りを踏めば、隠す必要のない準備になります。
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