記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
金融保険会社で12年働いている30代後半・女性です。中高生の子2人を持つ既婚で、家計には毎月の余裕がほぼありません。起業準備を始めて3ヶ月目ですが、日本政策金融公庫の創業実態調査で開業費用の中央値が600万円と聞き、退職金やNISAを取り崩しても届かない計算になりました。
資金を貯めてから始めるか、それとも別の道筋があるのか、判断ができません。どうすればいいでしょうか?

● 回答
日本政策金融公庫『2025年度新規開業実態調査』では、創業費用の平均値は975万円、中央値は600万円でした。開業時の資金調達額は平均1,219万円で、そのうち自己資金は平均279万円(22.9%)という数字も出ています。
この数字を見て止まる方が多いのですが、起業準備の現実的な順番は「資金を貯めてから動く」ではなく「売れる証拠を先に作ってから資金を考える」のほうが安全です。
起業18フォーラムで支援してきた経験でわかってきたのは、開業費用600万円という数字に止まる方の本当の問題が「資金の絶対額」ではなく「売れる証拠の不在」だということです。
資金が足りない方は、実は資金を借りても事業が立ち上がらないリスクを抱えています。逆に、売れる証拠が1件でもあると、資金不足の見え方が変わります。
創業費用600万円の中身を分解する
創業費用600万円の中身には、店舗・事務所の保証金、内装工事費、設備購入費、開業準備人件費などが含まれることがあります。在宅で始める個人事業の場合、これらの大半が不要です。日本政策金融公庫の調査も全業種の中央値を出しているため、店舗を持つ業態と在宅で始める業態を分けて考える必要があります。
金融保険で12年の経験を活かす起業準備なら、店舗も大きな設備もいりません。必要なのは在宅のPC環境、Zoom、決済ツール、それぞれ初期費用は数万円以内で揃います。創業費用600万円という数字は、自分の業態に当てはめ直さないと、判断を歪めます。
売れる証拠を先に作る具体的な順序
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、創業1年目で成功した方々の共通項として「最初の顧客を作ってから資金調達を考えた」という順番を取り上げました。順番が逆になった方は、借りた資金で運転資金が消えていき、売上が立ち上がる前に撤退する例が多かったのです。
金融保険業の経験者が「売れる証拠」を作る進め方はこうです。第1に、在職中に磨いた保険・資産運用の相談スキルを「個人向け1時間相談」として5,000円〜1万円で売る。第2に、最初の3人に売れたら同じ悩みを持つ別の3人を紹介してもらう。第3に、月額3,000円の継続相談プランに切り替えて月収3〜5万円の継続収入を作る。
ここまで来た時点で、資金調達の必要性が一気に下がります。
起業18フォーラム会員の田崎さん(仮名・30代後半・女性・大手保険会社12年勤務・既婚・中高生の子2人・起業準備3ヶ月目)は、当初「自己資金が500万円足りない」と立ち止まっていました。
勉強会で順番論を学び、まず週末の朝に「家計と保険の見直し相談」を5,500円で売り始めたところ、最初の月で4件の相談が入り、2万円の売上が立ちました。
3ヶ月目には月額3,500円の継続フォロー契約に移行し、半年で15世帯の継続契約に到達。月収は53,000円まで伸びました。
独立の判断軸が「資金を貯めるまで」から「継続契約20件を超えたら」に変わりました。資金600万円が足りない問題は、月収5万円の継続収入を作った瞬間に、別の問題に置き換わりました。
資金調達は売れる証拠の後に考える
日本政策金融公庫の創業融資では、創業計画書で事業内容や販売先、売上・経費の見通しなどを説明します。融資審査で問われるのは資金額だけではなく「この事業に勝算があるか」です。月収数万円の継続収入があると、計画を説明する材料が増えます。
逆に、売れる証拠ゼロのまま融資を受けると、事業計画が机上の計算で終わり、運転資金が消えていきます。資金調達は、売れる実績が出てからです。順番を逆にすると、家計が傷みます。
今週末の朝、自分の本業の業務範囲のうち「個人や中小企業の悩みを聞いて答えていた業務」を5つ書き出してください。書き出した5つから、5,000〜1万円で売れる相談メニューを1つ仮置きしてみてください。資金600万円の壁が、別の景色に見えるはずです。
来週中に、自分の周りで保険や家計のことを相談されてきた知人3人に「相談メニューを作ろうとしているので、30分話を聞かせてほしい」と連絡してください。最初の3人のヒアリングが、売れる証拠を作る出発点になります。

資金が足りない壁の正体は、売れる証拠の不在のほうにあります。順番を入れ替えるだけで、貯金額の見え方そのものが変わってきます。
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