記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「料理人として独立したい。でも飲食店を開いて潰したくない」。そう考えて検索された方が多いのではないでしょうか。実際、飲食店の廃業率は全業種でもっとも高く、開業から3年で約7割が店を畳むという厳しい現実があります。
それでも料理人としての経験そのものは、店を持たなくても十分にビジネスになります。大切なのは「店=起業」という思い込みを一度脇に置き、自分のスキルが解決できる困りごとから逆算することです。
この記事では、料理人さんが店舗を持たずに、もしくは持つにしても無理なく始められる起業準備の道筋を、公的データと現場で起きている事例から具体的にお伝えします。
料理人の経験がビジネスになる理由

料理人さんが起業を考えるとき、多くの人が真っ先に「自分の店を持つ」という選択肢を思い浮かべます。けれど店舗開業は資金的にもリスク的にも、起業準備として最初に選ぶべき道とは限りません。まずは自分の経験を「店という形」から切り離して棚卸ししてみてください。そこに、料理人ではない人が喉から手が出るほど欲しいスキルが眠っています。
「当たり前」が他人にとっては価値になる
毎日厨房に立っていると、自分の動きや知識が「特別なもの」だとは感じにくくなります。けれど一般の家庭では、魚を三枚におろせる人も、出汁を引ける人も、業務用の段取りで時短調理ができる人もごく少数です。
たとえば10人分の煮物をムラなく仕上げる火加減の感覚、繁忙時間帯に同時並行で複数の鍋を回す段取り力、原価を頭の中で組み立てる感覚。これらは料理人にとっての「当たり前」ですが、料理教室・レシピ提供・キッチン代行など、外の世界では十分にお金が払われる技術です。
- 段取り・火入れ・温度管理などの身体に染みついた技術
- 仕入れ先の見極め・原価感覚・歩留まり計算
- 季節の食材選びや組み合わせの引き出し
- 厨房オペレーションを短時間で組み立てる能力
これらをまとめて「自分が今日からでも教えられること」として書き出すと、起業の入口になるテーマが見えてきます。
食への関心は減っていない
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、調理師・料理人の平均年収は約359万円と、全産業平均(約443万円)を大きく下回っています。給与面で頭打ちを感じて独立を考える方が多いのも、この数字を見れば自然なことです。
一方で、2024年の労働力調査では、女性の飲食物調理従事者だけで140万人にのぼり、家庭料理・健康食・離乳食など、料理を学びたい層は依然として厚い市場を形成しています。つまり「教える側・提案する側」に回ったときの市場は、料理人さん自身が思っている以上に広いのです。
料理人が起業準備を始める手順

店舗を構えてから集客を考えるのは順番が逆です。料理人さんが起業準備で踏むべき手順は、「経験の棚卸し → 小さく試す → 反応を見て本格化」の順。在職中に進められる範囲で動き始めるのが現実的です。
ステップ1:経験の棚卸しと「誰の困りごと」かを決める
最初にやるのは派手な準備ではなく、紙とペンでの整理です。これまで作ってきたジャンル、得意な料理、勤めてきた業態、扱いに慣れている食材。それを書き出したうえで「この経験で助けられる人は誰か」を考えます。
料理が苦手な共働き家庭、健康診断で食事指導を受けた人、子どもの偏食に悩む親。読者像をひとり、できれば実在の知人を浮かべて決めると、提供する内容がぶれにくくなります。
ステップ2:勤務先と競合しない形で小さく試す
いきなり退職して開業すると、収入ゼロの期間が長引きます。在職中に試す方法は意外と多くあります。
- 休日の出張料理(友人宅・知人の紹介から)
- SNSでのレシピ発信と反応の観察
- 少人数の単発料理教室(自宅キッチンや貸しスペース)
- レシピ販売プラットフォームへの投稿
勤務先と競合する飲食店業態を始めるのはトラブルのもとです。就業規則と秘密保持の範囲は事前に必ず確認してください。店の顧客名簿や仕入れルートを使うのは厳禁です。
ステップ3:反応のあった一本に絞って深める
試した複数のうち、想定より反応がよかったもの、実際にお金を払ってくれた人がいたものに絞ります。料理人さんは「全部やれる」がゆえに、起業のテーマも広げすぎがちです。
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』でも触れているのですが、最初の1年でやることは「広げる」ではなく「絞る」。月に1件・2件でも依頼がくる商品を一つ作り切ったほうが、結果的に早く軌道に乗ります。
店を持たない起業アイデア5選

「店舗開業=独立」という枠を一度外すと、料理人としての経験を活かせる起業の形は意外と多くあります。ここでは初期費用の小ささと再現性で選ばれている5つの方向性を紹介します。
①出張料理・パーソナルシェフ
顧客の自宅キッチンで料理を作るスタイルです。店舗の家賃も内装費もかからず、初期投資は調理道具と移動手段で済みます。記念日・ホームパーティ・育児中の家庭・高齢の親への食事支援など、ニーズは想像以上に分散しています。
②少人数制の料理教室
自宅キッチン・貸しスペース・オンラインのいずれでも始められます。ジャンルを「家庭で再現できる和食」「子どもと一緒に作る」「冷凍作り置き」など読者像に合わせて絞るのが鉄則です。最初の3ヶ月は同じテーマで通える「シリーズ講座」にすると、リピートが生まれて運営が楽になります。
③レシピ提供・メニュー開発の受託
飲食店・食品メーカー・ECサイトに対し、新メニューや業務用レシピを提供する仕事です。SNSで実績を出しながら、過去の勤務先の人脈経由で初案件を獲得する人が多い分野です。原価計算・歩留まり・厨房オペレーションまで設計できる人は重宝されます。
④食関連の発信・コンテンツ販売
YouTube・Instagramでの調理動画、note・電子書籍でのレシピ集販売、オンラインサロン運営など。継続的な発信が前提になりますが、店舗運営と違って在庫リスクがなく、寝ている間も売上が立ちます。
⑤シェアキッチン・ゴーストレストラン
従来の店舗開業と比べると、シェアキッチンを使った間借り営業やデリバリー特化のゴーストレストランは初期費用を大きく抑えられます。日本政策金融公庫の2024年新規開業実態調査では、新規開業時の資金調達額の平均は1,197万円ですが、シェアキッチン活用型なら100万円台から始められるケースもあります。「店を持つ」夢を捨てきれない方の現実的な第一歩として有力です。
料理人特有の失敗パターン

料理人さんの起業がうまくいかないとき、多くの場合は「料理の腕」が原因ではありません。料理は十分に上手いのに数字が合わない、人が来ない、続かない。共通する失敗の型があります。
パターン1:いきなり実店舗にフルベットする
帝国データバンクによれば、2025年の飲食店の倒産件数は900件と過去最多を更新しています。修業時代に「いつか自分の店を」と夢を温めてきた料理人さんほど、退職金・貯金・借入をすべて初期投資に投じて開業しがちです。けれど開業から1年目は集客が安定せず、家賃と人件費だけが毎月確実に出ていきます。
「とにかく店を持たないと始まらない」という思い込みが、最大のリスク要因です。出張料理や教室で月数万円の入金を半年作ってからでも、店を持つ判断は遅くありません。
パターン2:原価感覚はあるが値付けができない
厨房での原価計算には強くても、自分の時間や経験への値付けは別の能力です。料理教室を時給換算で安く設定したり、出張料理を「材料費+少しのお礼」で受けてしまう。これだと続けるほど疲弊します。
最初に決めるべきは「自分の1時間がいくらなら成立するか」です。一般家庭向けでも、出張料理は1回2万円〜3万円、料理教室は半日で5,000円〜8,000円が成立する価格帯。安売りは未来の自分の選択肢を狭めます。
パターン3:仕事を選べず体を壊す
独立直後は依頼が読めず、来た仕事をすべて受けたくなります。けれど移動を含めた長時間労働を続けると、半年で体を壊します。飲食業界は人手不足割合が65.3%と全業種でもっとも高く、それは独立した料理人さんにも同じ波として押し寄せます。受ける仕事と受けない仕事の線を、最初に紙に書いて決めておくのが現実的です。
- 原価計算で黒字でも、自分の時給がゼロでは続かない
- 遠方・深夜・大人数の依頼は最初から条件を決める
- 「断る基準」を仲間にも家族にも宣言しておく
都内で和食店に12年勤めた40代男性の佐々木さん(仮名)は、退職後すぐに出張料理を始めましたが、土日祝のすべての依頼を受けて3ヶ月で疲弊。起業18フォーラムの勉強会で価格と稼働日の見直しを学び、土曜日のみ・上限月4件に絞ったことで、月収は減らずに体力を取り戻しました。
続けるためのマインドセット

料理人さんは仕事柄、完璧を目指す訓練を積んでいます。けれど起業準備の段階で完璧を求めると、いつまでも一歩目が踏み出せません。最初に出すサービスは20点で構わないのです。お客さんの反応を見ながら、皿の上の料理を直していくのと同じ感覚で改善していけばいい話です。
一日で届く反応は小さくても、半年・1年と積み重ねれば、必ず自分の味方になってくれる人が現れます。実店舗を構えるかどうかは、その先で考えても遅くありません。

料理人としての時間は、皿の上にだけ残るものではありません。誰かの食卓を整え、誰かの記念日を彩り、誰かの健康を支える。その積み重ねは、店という形を持たなくても、別のかたちで世の中に届けることができます。今日から手元のレシピノートを開き、自分の経験を一行ずつ書き出すところから、起業準備は静かに始まります。
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