記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「このまま勤務薬剤師のまま定年を迎えるのか」という問いを持ち始めた薬剤師から、相談を受けることが増えています。
起業したい気持ちはある。でも調剤薬局を開くには最低でも1,500万円以上の初期費用がかかると聞いて、そこで思考が止まる。資金の問題だけでなく、「調剤以外で薬剤師の知識が商売になるのか」というイメージが持てないまま、年月だけが過ぎていく。
薬剤師として積み上げてきた専門性は、「薬局という箱」の外でも十分にビジネスになります。調剤薬局の開業を前提にせず、在職中から動ける起業準備の手順をここで整理します。
薬剤師の経験は、気づいていない強みの塊だった

「薬局か病院」という2択しか浮かばない理由
薬剤師が起業を考えると、多くの人が最初に「調剤薬局を自分で開く」か「ドラッグストアのオーナーになる」という発想で止まります。調剤薬局の開業は物件確保から保険薬局の指定申請まで複雑な手続きが必要で、初期費用の壁が分厚い。そこで「やっぱり自分には無理か」と思考が止まってしまうわけです。
しかしこれは、スタートラインを「箱(施設)」に設定したことが原因です。
厚生労働省の2024年薬剤師統計によれば、全国の薬剤師数は32万9,045人で、そのうち薬局勤務は19万7,437人(60.0%)。6割が薬局に集中しているということは、残り4割はすでに製薬企業・病院・研究機関・行政など、調剤以外のフィールドで薬剤師知識を活かしていることになります。「薬局しかない」という発想は、統計を見ただけでも崩れます。
日常業務の中に眠っている専門性を掘り起こす
薬剤師として数年以上働いていれば、服薬指導で磨いた「伝える力」、処方箋の疑義照会を繰り返して育てた「問題発見力」、患者の生活背景を踏まえた薬選びで身についた「課題解決の思考」が自然と備わっています。これらは薬局の外でもお金に変わる専門性です。
代表例が「薬機法の知識」です。健康食品・サプリメントを販売するEC事業者にとって、薬機法の広告規制は日常的に悩む問題です。「この表現は大丈夫か」「このキャッチコピーは違反にならないか」という相談に答えられる薬剤師は、コンサルタントとして十分に成立します。調剤業務では毎日使っている知識が、事業者からすれば喉から手が出るほど欲しい情報なのです。
薬剤師の起業は、薬局を建てることではなく、自分が当たり前に知っていることを商品にすることから始まります。
- 薬機法コンサルティング:EC・健康食品事業者の広告表現チェックと指導
- 服薬指導の技術:ヘルスコーチ・コーチングへの応用
- 医薬品情報の収集・整理力:医療メディアの監修・ライティング
- 患者対応の経験:医療・介護施設の業務改善コンサル
- 在宅患者への薬剤管理:訪問薬剤師としての個人受託
薬剤師が在職中に進める起業準備の4ステップ

ステップ1:自分の専門性を「文字で」棚卸しする
準備の起点は、頭の中にある知識を紙に書き出すことです。「自分は何を知っているか」だけでなく、「それを知らない人はどこで困っているか」をセットで書く。この経路が描けたとき、知識がビジネスに変わる仕組みが見えてきます。
令和6年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師の平均年収は599.3万円です。これはしっかりした数字ですが、薬機法コンサルや健康食品の開発支援で月に数社と顧問契約できれば、収入の柱として十分に機能します。在職中に「もう1本」を作るイメージで試し始めると、動きやすくなります。
ステップ2:「商品」を明確にする
ビジネスを成立させるには、商品力・発信力・信用力の3つが揃う必要があります。薬剤師の場合、国家資格という形で信用の土台はすでにあります。残る課題は「何をいくらで売るか(商品)」と「誰に知ってもらうか(発信)」の2つです。
商品を明確にするとは、「薬機法チェックを行います」という漠然とした提案ではなく、「EC事業者向けに商品LP1ページあたり○円でコンプライアンスレビューを行います」という形に落とし込むことです。価格・対象・提供内容が決まれば、最初の提案が具体的にできるようになります。
- ステップ1:専門知識の棚卸し(知識×困っている人を書き出す)
- ステップ2:商品の明確化(対象・内容・価格を決める)
- ステップ3:発信を始める(SNSや専門ブログで情報を出す)
- ステップ4:最初の1人に提案する(知人・コミュニティ経由で)
ステップ3・4:発信→最初の提案
発信は完璧でなくていい。「薬剤師として知っている薬機法の落とし穴」「健康食品のNG表現5選」といった、日常業務で得た知識を短い文章にして投稿するだけで十分です。薬機法や医薬品に詳しい薬剤師として認識されることが、最初の顧客を引き寄せる土台になります。
発信を続けた先で「相談したい」という人が出てきたら、そこが「最初の1人への提案」のタイミングです。無償でも構わない。フィードバックを得て商品を磨くことが、この段階での本当の目的です。
起業18フォーラムの参加者でも、医療職出身者に共通するのは「外の世界と接続した後に急激に動き出す」こと。業界内だけで考えている間は、アイデアが具体化しにくい。SNSで発信を始めた途端に「それ、うちで相談できませんか」と声がかかったというケースは、実際にあります。
薬剤師起業の具体的なビジネスアイデア3選

アイデア①:薬機法コンサルタント
健康食品・化粧品・サプリメントを扱うEC事業者は、薬機法の広告規制に常に頭を悩ませています。「体が軽くなる」「免疫を高める」といった表現が規制に触れないかを、現場の薬剤師目線で判断してほしいというニーズは確実にあります。まず知人の事業者に無償でレビューを行い、フィードバックを得るところから始めます。実績が積み上がれば月額顧問契約に移行でき、安定した収入の柱になります。
薬機法コンサルタントは初期投資がほぼゼロで、薬剤師の知識だけで始められるビジネスモデルです。特に製品開発を行っているメーカーや、健康系ECショップは継続的な相談ニーズを持っています。
アイデア②:医療・健康系ライター・監修業
医療系WebメディアやYouTubeチャンネルは、「監修薬剤師」を必要としています。薬剤師の資格があれば、記事や動画の監修という形で収入を得ることが可能です。週末の数時間でできる仕事から始められるため、在職中の起業準備として動きやすい形です。
執筆から始めて実績を積み、監修業にステップアップするのが現実的な流れです。単価は低めからスタートしますが、専門性が認められると監修1本あたり数万円の案件も出てきます。
アイデア③:在宅医療・介護施設向け薬剤管理支援
在宅療養患者への訪問薬剤管理指導や、有料老人ホームが薬剤師との顧問契約を必要としているケースが増えています。地域によっては、薬局に属さず個人として受託できるケースもあります。調剤薬局を一から開業するよりはるかに少ない初期費用で、地元の医療・介護ネットワークを活かしたビジネスを構築できます。
- 薬機法コンサルタント:初期費用ほぼゼロ。知識だけで始められる
- 医療系ライター・監修業:週末から進められる在職中向けのモデル
- 在宅医療・介護施設向け薬剤管理支援:地元ネットワークを活用
薬剤師起業でよく見る失敗パターン

失敗①:「薬局資金が貯まるまで動けない」という思考の罠
薬剤師の起業相談で最も多いのが、「将来的には薬局を持ちたいが、資金が足りないからまだ動けない」というパターンです。初期費用1,500万円以上を貯めてから動く、という設計自体が問題です。
調剤薬局の開業が本当にやりたいことであれば、その準備を進めつつ、在職中に「薬局以外のビジネス」を小さく試しておくことが重要です。薬機法コンサルや医療ライターで最初の収入を作り、ビジネスを動かす感覚を身につけてから薬局開業に向かった方が、失敗リスクが下がります。
失敗②:「資格があれば信頼される」という過信
薬剤師免許は確かに信頼の根拠になります。でも、免許を持っているだけでは顧客は来ません。
「薬剤師として○○年働いてきました」という肩書だけでは、外部の人はその価値を判断できません。何ができて、誰の何を解決するのかが言語化されていなければ、専門資格はただの資格にとどまります。
「薬剤師として働いてきた」という事実だけでなく、「その経験で何を解決してきたか」を言葉にする訓練が、起業準備の核心です。信用力はすでにある。あとは商品と発信を形にすることです。
失敗③:勉強し続けて行動しない
薬剤師は勉強が得意な人が多い。それが起業では裏目に出ることがあります。「薬機法をもっと深く学んでから」「マーケティングを勉強してから」と準備を続け、一向に動かないパターンです。
ビジネスは行動してから見えることがほとんどです。知識が50点でも最初の1人に提案する経験が、どんな勉強よりも早く成長させます。小さく始めることと手を抜くことは違います。少額からでも本気で取り組む姿勢が、最初の実績を作ります。
- 「薬局資金が貯まるまで動けない」という先送りの習慣
- 資格を持つだけで顧客獲得できるという過信
- 学習を続けて行動に移さない「インプット過多」の罠
薬剤師として起業を考えるあなたへ

薬剤師という資格は、起業という世界では希少な専門性です。調剤薬局で働き続けることも立派な選択ですが、その知識と経験が薬局の外でも使えると知った上で選んでほしい。
「薬剤師だから薬局しかない」という前提を一度外してみると、起業の選択肢は想像以上に広がっています。薬機法コンサルや在宅医療支援で収入の柱を作った後に、改めて調剤薬局の開業を目指す薬剤師も、実際にいます。順番は自由です。
在職中に最初の一歩を踏み出すことの意味は、お金だけではありません。「自分の知識は外でも通じる」という実感を得ることが、その後の行動の質を変えます。どこから始めるかに迷ったときは、まず「自分が当たり前に知っていること」を紙に書き出すところから始めてみてください。
一緒に考えていきましょう。
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