富山でUターン起業|ものづくり県の中小メーカーを取引先にする道

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「やっぱり都会のほうが起業に有利でしょう」とよく聞かれます。26年、起業準備の現場を見てきた立場から言うと、それは半分しか当たっていません。

数の多さや情報の集まりやすさは、確かに都市部に分があります。けれど地方には、都市部にはない土台があります。富山は、その良い例です。この記事では、北陸新幹線で東京とつなぐという二拠点の話はしません。富山にある製造業の集積と、持ち家率や住宅の広さという公的統計から、取引先候補を探して需要を確かめる起業の始め方を整理します。

ポイント 富山という土地の強み|ものづくりの集積と住まいのゆとり

製造業の厚みと住まいの広さという二つの土台

富山

富山は「ものづくり県」と呼ばれます。富山県の「ものづくり産業未来戦略」によると、県内就業者の25.8%が製造業に従事し、全国の15.2%を大きく上回っています。県全体では全産業で48,987の事業所があり、508,283人が働いています(令和3年経済センサス-活動調査)。その中心が、県庁所在地の富山市です。

富山市の人口は約40万人で、事業所の数は県内で最も多く集まっています。大企業の工場だけでなく、部品や装置を手がける中小メーカーが層を成しているのが特徴です。この「中小メーカーの厚み」は、外注ニーズを聞きに行く取引先候補の多さにつながります。

住まいの面にも土台があります。総務省統計局の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、富山県の持ち家住宅率は74.9%で、全国平均の60.9%を大きく上回ります。全国順位は秋田県・山形県に次ぐ3位で、専用住宅の1住宅当たり延べ面積も138.77平方メートル(全国平均90.86平方メートル)で全国1位です。

すでに持ち家があり、部屋にゆとりがある人なら、自宅の一室を仕事場にして開業時の賃料を抑えられます。富山での起業では、ものづくり企業の集積と、住宅を仕事場に生かせる可能性を土台にできます。

ポイント 富山だからこそ狙える起業の切り口

中小メーカーへのニーズ聞き取りと取引先の分散

富山

富山で起業を考えるとき、まず目を向けたいのが、地元の中小メーカーへのニーズ聞き取りです。製造業の集積は確認できますが、取扱説明書やスペック表、業務マニュアルといった技術文書を外注したいかは会社ごとに異なります。これまでの技術や事務の経験を示し、何を社内で作りにくいかを一社ずつ聞くところから始めます。

ここで一つ、気をつけたいことがあります。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』でも取り上げていますが、会社で高い成果を出してきた人ほど、その成果は会社の看板や取引先のおかげである部分が大きいものです。独立するときは、勤めていたころの自分ではなく、経営者としての視点で、もう一度自分の強みを見直す必要があります。

前の勤め先の名前が外れた状態で、富山の地元企業と一から関係を作り直す。すでに持ち家などがあり、自宅の一室を仕事場にできる人なら、事務所賃料を抑えられます。固定費が重ければ、成果が出る前に息切れします。もう一つの鍵が、取引先を一か所に頼らないことです。地元と県外に取引先を分けておくのは、片方の注文が細っても収入が途切れないための備えです。

身軽なうちに、気になる地元メーカー1社へ、試しの1件を持ちかけてみる。今できることは、これまでの仕事で「頼まれてきたこと」を一つ選び、地元の1社に無理のない形で提案してみることです。それが、机上の計画より確かな手応えになります。

ポイント 富山へUターンし技術文書作成で独立した深瀬さんの歩み

地元と県外に取引先を分けて安定させた歩み

富山

深瀬さん(44歳)は、首都圏のメーカーで技術者として働いたあと、富山へUターンしました。最初に始めたのは、地元の中小メーカーへ技術文書の困りごとを聞くことです。その結果、取扱説明書やスペック表を、1社あたり月4万円、2社合わせて月8万円で引き受けるところから始めました。富山県全体の需要を示す話ではなく、深瀬さんが実際に二社へ確かめて得た仕事です。

ただ、取引先が地元の2社に偏っていることが気がかりでした。片方の生産が一時止まると、その月の収入が大きく揺れます。転機が来たのは、その不安を抱えていたころです。

注文が県外から届くようになったのは、起業18フォーラムの勉強会で、ある会員が自分の実績をオンラインで見せて遠方の仕事を受けている話を知ってからでした。勉強会では、その会員が実績紹介のページにどの情報をどこまで載せているのかを、具体的な項目まで確かめることができました。深瀬さんも、過去に手がけた文書の例を差し支えのない形に整えて、ネット上で見せ始めました。

すると、富山の外からも相談が入るようになりました。独立から14ヶ月目には、月の売上が合計20万円ほどで落ち着きました。内訳を分けると、以前からの地元2社が月8万円、そこへ県外のオンライン受託が加わった形です。県外の仕事は1件あたり3万円、月に4件を受けて月12万円になります。取引先が地元と県外に分かれ、どちらか一方が止まっても崩れない形になりました。

深瀬さんの歩みは、特別な才能の話ではありません。目の前の二社へニーズを聞き、一つ応えて、その実績を外へ広げる。この順番を、起業18フォーラムで学びながら一つずつ確かめていった結果でした。

ポイント 富山市で使える創業支援と登録免許税の軽減

特定創業支援等事業による登録免許税の軽減

富山

富山市には「富山市創業支援等事業計画」があり、この計画に沿った特定創業支援等事業を修了すると、いくつかの後押しを受けられます。会社を設立するときの登録免許税は、株式会社なら税率が0.7%から0.35%に、最低税額も15万円から7万5,000円に下がります。

登録免許税の軽減は、証明を受けた創業予定者または創業後5年未満の個人が富山市内で会社を設立し、会社法上の発起人かつ代表者になる場合などが対象です。登記時には証明書の原本が必要で、会社設立後の組織変更には使えません。ほかに創業関連保証の特例や、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」で貸付利率が下がる扱いもありますが、別途審査があります。証明書の交付申請の窓口は富山市の商工労働部・企業立地課です。

ポイント よくある質問

富山での起業を考える人からよく寄せられる疑問

起業前質問集

Q.富山のような地方では、そもそも仕事の数が少なくて不利ではないですか?

数だけを見れば都市部に分があるのは確かです。ただ富山は製造業の集積があり、技術文書やマニュアルづくりのニーズを聞ける取引先候補があります。外注したい会社がどの程度あるかは、実際のヒアリングで確かめる必要があります。オンラインで受けられる仕事なら、県外も取引先候補にできます。

Q.Uターンで前の会社の人脈がなくても、取引先は見つかりますか?

前職の看板がなくても、地元企業の困りごとを聞くところから入る道があります。中小メーカーに、これまでの技術や事務の経験でできることを一つ示し、必要かどうかを尋ねてください。一件の実績ができれば、紹介やネットでの発信を通じて次の候補へ広げられます。

Q.いま勤めている会社を辞めずに、富山で起業の準備を進められますか?

できます。持ち家などで仕事用の部屋を確保できる人なら、事務所を借りずに固定費を抑えられます。辞める前に試作や試しの受注をする場合は、就業規則、秘密保持、競業、勤務先の取引先情報を使わないことを確認し、必要な承認を得てください。その範囲で手応えを確かめてから独立を判断します。

Q.富山市の創業支援は、どんな人が対象ですか?

証明書の交付対象は、富山市創業支援等事業計画に沿った特定創業支援等事業を修了した創業予定者や創業後5年未満の人です。ただし、登録免許税の軽減は、そのうち創業予定者または創業後5年未満の個人が富山市内で会社を設立し、発起人かつ代表者になる場合などに限られます。証明書の交付対象と各支援制度の利用条件は同じではないため、富山市の商工労働部・企業立地課で確認してください。

ポイント 今日できる一歩を決める

まず基礎を学び方向性を決めてから制度に進む流れ

point

富山で起業を考えるなら、進める順番があります。まずは起業18フォーラムの動画やセミナーで、商品の作り方やお金の基礎を一通りつかんでください。方向性が見えてきてから、特定創業支援等事業や創業融資といった制度を使うと、遠回りが減ります。

制度から入ると、何のために使うのかが定まらないまま手続きだけが進みます。最初の一歩は、電話一本からで構いません。富山市の商工労働部・企業立地課か富山県の創業相談窓口に、自分の仕事が特定創業支援等事業の対象になるかを、一つだけ聞いてみてください。

深瀬さんが最初に受けた地元2社の仕事も、はじめから大きな取引ではありませんでした。二社へニーズを聞き、その実績を県外へ広げていった積み重ねが、取引先の分散につながっています。製造業の集積は、最初のヒアリング先を探す手がかりになります。

Uターン先で知り合いも顧客もいないまま起業できる? 地方に戻る人の最初の一歩
● 質問 年内に地方の実家近くにUターンで戻る予定で、戻ってから会社勤めを続けつつ自分の仕事も少しずつ始めたい

富山という地名を掲げた一枚の看板は、前の会社の名刺とは違う重みを持つはずです。その重みは、目の前の相手へニーズを聞き、一つずつ応えてきた人にこそ返ってきます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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