記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
そのうち自分でも何か始めたいのですが、まとまった貯金がありません。起業にはある程度の元手が要ると聞くと、お金が貯まるまで待つしかないのかと足が止まってしまいます。
元手がほとんどない状態でも、起業の準備は進められるものなのでしょうか?

● 回答
「自分には、まず先立つお金がない」。この一点で準備を止めてしまう方を、これまで何人も見てきました。だからこそ、先にお答えします。元手がほとんどなくても、起業の準備は進められます。
むしろ、貯金が貯まるのを待つよりも、いま手元でできる範囲で試しを重ねたほうが、遠回りになりません。ここで一度立ち止まってほしいのは、「元手が要るのか、要らないのか」という問いの立て方そのものです。この二択で考えているうちは、答えがどちらに転んでも足が止まりやすくなります。
「元手が要る・要らない」の二択から降りる
相談に来られる方の多くが、「元手が要る」派と「元手は要らない」派の情報の間で揺れています。片方を読めば数百万円必要だと言われ、もう片方を読めばゼロ円で始められると言われる。どちらも一面では正しいのですが、そのまま自分に当てはめると混乱します。
大事なのは、この二つが「別々の話をしている」と気づくことです。まとまった元手が要るのは、店舗や在庫や設備を最初から抱える始め方をした場合です。元手がほとんど要らないのは、自分の経験や手を動かすサービスから始める場合です。同じ「起業」でも、入口の設計しだいで必要な金額はまるで変わります。
- 「元手が要る」が当てはまる始め方:
店舗を借りる、在庫を仕入れる、機材や内装に先に投資する - 「元手は要らない」が当てはまる始め方:
自分の経験・知識・手作業を、身近な相手に少額で提供する - 迷ったときの第3の道:
在庫も店舗も持たず、元手が少なくて済む形で一度試してから、次を決める
この第3の道が、貯金の少ない状態からいちばん動きやすい入口です。要るか要らないかを決める前に、「元手が少なくて済む形はどれか」を探すほうが、話が前に進みます。
公的データで見る「少ない元手で始めた人」の割合
実際のところ、少ない元手で始めた人は珍しくありません。日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」では、開業費用が「250万円未満」だった人が20.1%、「250万〜500万円未満」が21.7%で、合わせて500万円未満で始めた人が4割を超えています。
この数字は開業後1年以内の企業を対象にしたもので、開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円でした。平均より中央値が低いのは、少額で始めた人が多いからです。長い目で見ると、開業費用は少額化の傾向にあります。大きな設備を持たずに始められる仕事を選べば、元手の不安はかなり小さくできます。
数百万円がないと起業できない、という前提のほうが、いまの実態からは少しずれています。まとまった元手がない状態は、けっして例外ではありません。
「少ない相手でも届くのか」という不安への答え
元手を抑えると、次は「そんな規模で本当にお客様が来るのか」という不安が出てきます。ここで支えになるのが、拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』でも大切にしている、狭く絞っても十分に成り立つという考え方です。
たとえば日本の人口を仮に1億3,000万人としても、その0.1%で13万人、さらにその0.1%まで絞れば130人まで行き着きます。たった130人でも、あなたのサービスを必要とする人がいれば、月に数万円の収入は十分に成り立ちます。全国を相手にする必要も、大勢に届ける必要もありません。狭く絞るほど、少ない元手で始めたサービスでも届く相手が見つかります。
会員の桜木さんが元手ゼロから動き出すまで
起業18フォーラムの会員に、桜木さん(仮名・30代・小売勤務の男性)という方がいます。貯金が少ないことがずっと引っかかっていて、「お金が貯まってから」と考えるうちに、2年ほど何も動けずにいました。
はじめは自己流で、ネットショップ用に在庫をまとめて仕入れようとしていました。ところが計算するほど初期費用がふくらみ、そこで完全に止まってしまったそうです。フォーラムの勉強会で他の会員の進め方を見て、桜木さんは順番が逆だったと気づきます。まず在庫を持たずに、店舗で培った品出しや売り場づくりの知恵を、個人商店の店主に手伝いとして提供する形へ切り替えました。かかった元手は、名刺の印刷代だけでした。
最初の相手は、以前から付き合いのあった一軒の店主でした。週末に売り場の並べ替えを手伝ったところ喜ばれ、「知り合いの店にも来てほしい」と紹介が広がっていきます。動き出して9ヶ月目に、初めて月5万円を超えました。始める前と後で変わったのは、通帳の残高というより、「お金がないから無理だ」という思い込みが消えたことでした。いまは勤めを続けながら、月8万円ほどの収入が続いています。
- 止まっていた原因:
在庫を先に仕入れる前提で考え、初期費用に足がすくんでいた - 切り替えた点:
在庫を持たず、経験そのものをサービスにして元手を名刺代だけに抑えた - 結果:
9ヶ月目に月5万円を超え、勤めながら月8万円前後が続いている
桜木さんの場合、貯金の少なさは動けない理由ではありませんでした。元手を抑えた形を選んだからこそ、失敗しても痛手にならず、早く一歩を踏み出せたのです。
貯金が少ない今日から動くための順番
元手を抑えた形で始めるなら、進める順番はいたってシンプルです。大きな買い物や登録は、方向が固まった後ろのほうに回します。
- 棚卸しする:
仕事や暮らしで人に頼まれ、感謝されたことを思い出して並べる - 1つに絞る:
在庫も店舗も要らず、自分の手だけで提供できるものを1つ選ぶ - 身近な1人に出す:
知り合いの中で、いちばん困っていそうな相手に少額で試してもらう
今日できることは、この週末に、初期費用のかからない形を1つだけ選んで、身近な相手に声をかけてみることです。反応が薄くても、それは失敗ではなく、次の一手を決める材料になります。
お金が貯まるのを待つあいだにも、時間だけは過ぎていきます。残高が増えるのを待つより、いま出せる一手を先に動かしてみてください。

まとまった元手がないことは、スタートを止める理由にはなりません。少ない元手でも試せる入口は、いつでも用意できます。
よくある質問
Q.元手ゼロと言われる方法は、本当に信じてよいのでしょうか?
元手が少なくて済むこと自体は現実的です。あやしいのは元手の話ではなく、「必ず儲かる」と保証する売り込みのほうなので、そこは切り分けて考えてください。
- 在庫や店舗を持たない形なら、元手がほとんどかからないのは事実
- ただし「誰でも簡単に稼げる」と煽る有料の情報や道具には注意する
Q.貯金は、どのくらい残しておけば安心でしょうか?
勤めながら小さく試す限り、貯金を切り崩す場面はほとんどありません。生活の土台は給料で守りながら、準備は身の丈の範囲で進めれば大丈夫です。
- 勤めを続けたまま始めれば、生活費は本業の給料でまかなえる
- 準備に回すお金は、失っても暮らしに響かない範囲にとどめる
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