記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
いつかは自分で何かを始めたいと思っているのですが、まとまった貯金がありません。手元にあるのは数万円から、多くてもせいぜい十数万円ほどです。
起業というと、お店を借りたり仕入れをしたりで何百万円も必要なイメージがあり、自分にはまだ早いと毎回あきらめてしまいます。貯金が少なくても、起業の準備って始められるものなのでしょうか?

● 回答
始められます。むしろ、貯金が少ないことは準備を止める理由にはなりません。「お金がないから起業は無理」と自分に言い聞かせて検索を閉じてきた方ほど、ここで一度立ち止まってほしいのです。お金が必要になるのは、在庫や設備を先に抱える始め方を選んだときだけだからです。
「何百万円も必要」という数字は、どの世界の話なのか
まず、頭にこびりついた「起業=大きな初期投資」というイメージをほどいておきましょう。日本政策金融公庫総合研究所が2025年12月に公表した新規開業実態調査では、開業費用は250万円未満が20.1%、250万〜500万円未満が21.7%で、合わせて4割を超えました。平均値は975万円で、長い目で見ると開業費用は下がり続けています。
見落としてはいけない点があります。この数字は、公庫から融資を受けて開業した人たちを対象に集計したものです。つまり、最初から借り入れをして店舗や設備を構える人の世界の話です。あなたが目指せるのは、その手前にある「借り入れも在庫もいらない始め方」です。数字に怯える必要は、まったくありません。
貯金の少なさは弱みではなく、在庫リスクを背負わずに済む強み
むしろ逆に考えてみてください。お金をかけて在庫や設備をそろえてから始める人は、売れなかったときにその分がそっくり損になります。仕入れた商品が動かない、借りた店の家賃だけが出ていく。これが、資金のある人がはまりやすい落とし穴です。
元手がほとんどない人は、最初からその落とし穴を避けられます。手元にあるものだけで小さく試すしかないので、失っても痛くない範囲で動けます。貯金が少ないことは、在庫という重荷を背負わずにすむ立場だと捉え直すと、景色が変わってきます。
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』に「元手をかけず、小さな入口を量産する」という考え方を紹介しています。大きな蛇口を一本ひねるのではなく、お金のかからない小さな入口をいくつも作っておく。在庫を持たない始め方は、まさにこの発想と相性がいいのです。
元手ゼロに近くても出せる3つのもの
では、お金をかけずに何を売ればいいのか。手元に商品がなくても、あなたはすでに売れるものを持っています。それを3つに整理してみます。
- 自分の知識:
仕事や趣味で人より少し詳しいこと。相談に乗る、教える、代わりに調べる形で対価になるもの - 自分の時間:
誰かの面倒な作業を引き受ける手間仕事。仕入れも在庫もいらず、動いた分がそのまま収入になるもの - すでにある物:
家にある使わない物や、自分で作れる小さな作品。新たに仕入れず、手元の物から試せるもの
この3つは、どれも新しくお金を払って用意するものではありません。まずは「知識」から、これまで人に頼られたり聞かれたりしたことを一つ思い出してみてください。それが、元手をかけずに出せる最初の商品の種になります。
真柴さんが、在庫を持たずに売れた最初の一件
起業18フォーラムの会員に、真柴さん(仮名・30代・食品卸の営業)という方がいました。貯金は十万円少々で、起業なんて夢のまた夢だと思い込んでいたそうです。最初は元手をためてから物販でも、と考えていましたが、仕入れ資金が足りずに動けない時期が続きました。
転機は、仕入れも在庫もいらない最初の一件でした。飲食店を始めたいという知人から「どこの業者から何をどう仕入れればいいか、さっぱり分からない」と相談を受け、平日の昼休みと帰宅後の時間を使って、仕入れ先の選び方と価格交渉のコツを紙一枚にまとめて渡したのです。
元手はゼロ、動いたのは自分の知識と時間だけ。それでも知人は「これで開店準備が一気に進んだ」と本気で感謝してくれました。手元のお金を一円も使わずに、人の役に立てた最初の経験でした。
そこから真柴さんは、同じ「仕入れの組み立て」の相談を、土日を丸ごとつぶす形ではなく、平日の空き時間に一件ずつ受ける形に整えていきました。在庫も設備も持たないので、受けても受けても、最初に動かすお金はほぼゼロのままです。身銭を切らずに、手持ちの知識と時間だけで回せる小さな商いが、勤めながら静かに育っていきました。
もし真柴さんが「貯金がたまるまで」と待ち続けていたら、この一歩は今も踏み出せていなかったはずです。元手がなかったからこそ、在庫のいらないやり方にたどり着いたとも言えます。
貯金が少ないことを引け目に感じてきたかもしれません。けれど、その制約があるからこそ、あなたは大きく損をしようがない安全な場所に立っています。失っても痛くない規模から試せるのは、元手のある人にはない身軽さです。
はじめの一歩は、拍子抜けするほど軽くて構いません。元手をかけずに出せるもの、つまり自分の知識・時間・すでにある物のどれか一つを選んで、今週末にためしに出してみてください。お金をかけずに踏み出した一歩なら、たとえ反応がなくても失うものはなく、その結果さえ、あなたにとって立派なデータになります。
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