記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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畳職人として15年、20年と手を動かしてきて、40代や50代で独立を考え始めた。けれど頭をよぎるのは、新調の注文がめっきり減ったという実感ではないでしょうか。
新築や和室そのものが減り、一枚を丸ごと作り替える仕事は年々細くなっています。この記事では、その逆風を前提にして、それでも畳職人が独立して食べていける「受注の順番」を整理します。
新調頼みから、表替えの定期客と法人メンテ契約へと客層を替えていく道筋です。
新調が減った現実を数字で正しく怖がる

畳表の需要そのものが細っている
独立の判断を鈍らせているのは、漠然とした先細り感だと思います。まずはその不安の正体を、数字で正しく怖がるところから始めましょう。農林水産省の資料「いぐさ(畳表)をめぐる事情」によると、生活様式の洋風化などで畳表の需要は減り続け、国産畳表の主産地でのいぐさ作付面積は令和7年産で242haまで縮小しています。国内に出回る畳表の供給量は令和3年以降1,000万枚を下回り続け、最新の令和7年(2025年)には国内生産103万枚・輸入458万枚の合計約561万枚にまで落ち込んでいます。
新調が減ったのは、あなたの営業努力の問題ではありません。和室が減り、フローリングが標準になった住宅事情そのものが動いた結果です。だからこそ、新調の受注量を取り戻そうとする方向に力を入れても、なかなか報われません。
店の数も職人の数も減っている

減っているのは需要だけではない
総務省と経済産業省の経済センサスを見ると、畳小売業の事業所数も年々減っています。畳表の市場規模も4年間で5.8%縮んだ時期があり、店の数と働き手の数はどちらも右肩下がりです。
ここで見方を一つ変えてみてください。需要が減るのと同じ速さで、供給する店も消えています。長く地域を担ってきた畳店の廃業は、その店が抱えていた既存客の行き場が消えるということでもあります。減っていく市場のなかに、担い手不足という別の空白が生まれています。
食べていく順番は「新調→表替え定期→法人メンテ」

一本の太い蛇口ではなく、細い流れを束ねる
拙著『誰でもできるけど、みんな気づいていない!1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、太い蛇口を1本開けるより、性質の違う入りの流れをいくつも作って束ねる考え方を紹介しています。畳職人の独立に当てはめると、新調という一本の太い受注に頼るのをやめて、性質の違う受注を複線で持つということです。
受注は、大きく三つに分けられます。新調・表替え定期・法人メンテという三つの流れを束ねると、新調が細っても店は回ります。それぞれ客層も、受注の入り方も違います。
- 新調:
一枚を丸ごと作り替える仕事。単価は高いが、住宅事情の変化で件数そのものが減っている - 表替え・裏返しの定期客:
畳表を張り替える仕事。数年ごとに繰り返し発生し、一度つかむと長く続く - 法人メンテ契約:
旅館・料亭・福祉施設・賃貸の入退去など、まとまった枚数を定期的に任される仕事
新調だけを見ていると市場は暗く見えます。けれど表替えと法人契約は、新調とは別の理屈で動く流れです。ここに客層を移していくのが、独立後に食べていく順番になります。
500万円未満の軽微な工事なら建設業許可なしで始められる

許可のハードルは思っているより低い
独立をためらう理由に、手続きの分からなさもあると思います。ここは制度で先に不安を消しておきましょう。国土交通省の説明では、建築一式工事以外の工事は、請負金額が1件500万円未満(税込)であれば「軽微な建設工事」にあたり、建設業許可は不要です。表替えや畳の張り替えのような仕事は、通常この範囲に収まります。
つまり、500万円未満の軽微な工事を中心にするなら、独立の初日から大がかりな許可を取らなくても畳の仕事は始められます。開業届を出し、道具と作業場を整えれば、看板を掲げられる状態です。もちろん500万円を超える規模を請け負う段階になれば許可の話も出てきますが、独立直後の表替え中心の受注で、そこがいきなり壁になることはまずありません。
表替えの定期客と法人契約をつかんだ職人

新調待ちで止まっていた1年目
起業18フォーラムの会員に、畳店で15年勤めてから独立した赤羽さん(40代後半・男性)がいます。独立当初、彼は前の店と同じやり方で新調の注文を待っていました。技術には自信がありました。けれど新調の依頼はぽつぽつとしか来ず、月によっては数件で止まる。腕は確かなのに受注が積み上がらない、という壁に1年目でぶつかりました。
転機は、長く地域で頼られていた同業の先輩が高齢で店をたたんだことでした。「あの相談先が消えた」という声を近所で耳にして、赤羽さんは需要の空白に気づきます。丸ごと作り替える新調を待つのではなく、その店が抱えていた表替えの客が宙に浮いている、と見えたのです。
気づきを受注の形に変えた場所
とはいえ、気づいただけでは受注は増えません。赤羽さんはフォーラムの勉強会で「畳一枚いくら」で考える発想を、「この家は何年ごとに何枚」という繰り返しの流れで捉え直す助言を受けました。会員どうしの相談のなかで、一度きりの新調ではなく、数年ごとに戻ってくる表替えの定期客を軸に据える組み立てに変えていきます。
そこから彼は、廃業した先輩の元客に丁寧に声をかけ、表替えの周期を記録して次の入れ替え時期に自分から連絡を入れるようにしました。受注を新調・表替え・修理に分けて記録し、繰り返し来てくれる客が誰かを掴んだのが分岐点でした。
名指しで任される関係へ
定期の表替え客が積み上がると、次に法人の話が動き始めます。2年目からは地元の福祉施設と旅館から、入退去や季節ごとのまとまった畳の入れ替えを任されるようになりました。3年目には受注の柱が新調から表替えと法人契約へ入れ替わり、月ごとの売上の振れ幅がはっきり縮まっていました。金額の大小より、担当者から「畳のことは赤羽さんに」と名指しで頼まれる関係になったことが、彼にとっての手応えでした。新調が減っても仕事が途切れないのは、性質の違う流れを三つ持てたからです。
つまずきやすいのは「新調待ち」の姿勢

腕があっても受注が細る理由
独立した畳職人がつまずくのは、技術ではなく受注の設計です。多いのは次の三つです。新調の注文だけを待ってしまう姿勢、一度仕事をした客の表替え時期を記録せず放置してしまうこと、そして法人という客層に自分から声をかけないことです。
- 新調だけを待つ:
件数が減り続ける市場で一番細い流れに頼ってしまう - 表替えの周期を記録しない:
数年で戻ってくるはずの客を、次の入れ替え時に取りこぼす - 法人へ声をかけない:
まとまった枚数を定期で任される客層を、最初から視野に入れていない
腕のいい職人ほど、技術で勝負すれば仕事は来ると考えがちです。けれど独立後に効いてくるのは、誰にどの受注を、どの周期で回してもらうかという組み立てのほうです。
よくある質問

Q.畳職人の独立に、特別な資格や許可は必要ですか?
国土交通省の説明では、建築一式工事以外で1件500万円未満(税込)の工事は「軽微な建設工事」にあたり、建設業許可は不要です。表替えや張り替えがこの範囲に収まる受注なら、開業届を出して独立を始められます。畳製作技能士などの国家資格は、持っていれば信頼の裏づけにはなりますが、独立の必須条件ではありません。
Q.新調がこれだけ減っていて、本当に食べていけますか?
新調一本に頼るなら厳しいのが正直なところです。ただ、需要が減るのと同じ速さで畳店の数も減っています。表替えの定期客と、旅館や福祉施設などの法人メンテを軸に据えれば、繰り返し発生する受注で店は回ります。細い流れを複数持つことが、独立後の安定につながります。
Q.勤めている店をやめる前に、何から準備すればいいですか?
まずは今の受注が新調・表替え・修理でそれぞれ何件あり、1件いくらかを一度分けて数えてみてください。自分の仕事のうち繰り返し戻ってくる客がどれだけいるかが見えると、独立後にどの客層を厚くすべきかが具体的になります。数字は後からで構いません。
独立を考え始めたあなたへ贈る最初の一手

新調の先細りは事実です。数字で見ても、あなたの実感は間違っていません。けれど同じ数字は、店の数も担い手も減っているという別の面を映しています。空いた場所に、表替えの定期客と法人メンテという流れを移していけるかどうかが、独立後に食べていけるかの分かれ目になります。
今日できることは、ここ1年に受けた仕事を新調・表替え・修理の三つに分けて数え、それぞれの1件あたりの単価を出してみることです。繰り返し来てくれる客が誰で、どの受注が一番細いかが、その数字にはっきり表れます。独立の判断は、そこから始めれば十分です。

畳のことなら赤羽さんに、と名指しで任される職人になれるかどうかは、技術より受注の順番で決まります。これだけ需要の数字に目を向けているあなたなら、その順番を組み替える出発点には、もう立っています。
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