奨学金を返しながら、起業の準備をしても大丈夫?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

大学のときに借りた奨学金が、まだ200万円ほど残っています。いまは会社に勤めていますが、いずれは自分で何か始めたい気持ちもあって、少しずつ調べ始めました。

ただ、借金を抱えたまま起業の準備を進めるのは、やっぱり無謀なのでしょうか? 返済しながらでも、少ない元手で一歩だけ踏み出す方法はあるのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

「奨学金がまだ残っているのに、起業なんて」。そう自分に言い聞かせて、検索の画面を閉じてきた夜は、一度や二度ではないかもしれません。奨学金の返済と生活費を優先し、新たな借入れを増やさない範囲なら、勤めを続けながら起業の準備を始められます。返済が難しくなったときは放置せず、日本学生支援機構の減額返還制度や返還期限猶予制度を確認します。

借金があること自体を重く受け止める方は、本当に多くいます。けれど不安の中身をほどいていくと、その多くは事実ではなく思い込みでできています。返済を続けている方がつまずきやすい引っかかりから、一つずつ見ていきます。

返済中は始めてはいけないという誤解

まず押さえておきたいのは、起業の準備は「会社を辞めること」ではない、という点です。準備の段階では給料は今までどおり入りますから、奨学金の返済が止まる心配はありません。むしろ勤めを続けながら試しておくほうが、返済という固定費を抱えていても安全に動けます。

日本学生支援機構が2026年3月に公表した「令和6年度学生生活調査」では、大学(昼間部)で何らかの奨学金を受給している学生は51.1%でした。この割合には給付型と貸与型、同機構以外の奨学金も含まれるため、卒業後に返済する人の割合を直接示す数字ではありません。返還が難しい場合に備え、同機構には減額返還と返還期限猶予の制度があります。

  • 返済があるうちは何も始めてはいけない:
    準備の段階では退職しないので、給料も返済もそのまま続きます。
  • 借金がある人はお金を貸してもらえない:
    少ない元手で始めるなら、そもそも大きな借り入れはいりません。
  • まず完済してから、が正しい順番:
    完済を待つ数年のあいだに、試せたはずの時間が過ぎてしまいます。
借金があるからこそ大きく賭けない

借金があるからこそ、忘れずにいたい考え方があります。拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、起業に必要な力を「知・人・金」の3つに分けて紹介しています。このうち金のチカラとは、たくさん集める力ではなく、少ない元手でも回るように小さく始める力のことです。

この発想は、いまの開業の実態とも重なります。日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業費用が250万円未満だった人は20.1%で、開業費用は長期的には少額化の傾向にあります。小さく始める開業者も一定数いるということです。

奨学金という返済を抱えているなら、なおさら手を広げすぎないほうが安全です。無理な投資をしないことは、弱さではなく賢さです。

もう一つ、数字の受け止め方にも注意が要ります。同じ2025年度の調査では開業費用の中央値は600万円ですが、これは店舗や設備を持つ人まで含めた数字です。知識や時間を元手にする形なら、自分に必要な費用を小さく見積もって試すこともできます。借金があるという事実は、無理な投資にブレーキをかける安全装置にもなります。

親にも言えない気持ちの正体

返済のことを、親にも打ち明けられない。そう感じている方も少なくありません。奨学金を借りたときの負い目や、「借金がある自分が起業なんて」という後ろめたさが、相談する相手を狭めてしまいます。この気持ちは、お金の問題であると同時に、一人で抱え込んでいる孤独の問題でもあります。

起業18フォーラムの会員に、澤口さん(仮名・20代後半・メーカー勤務)という方がいます。学生時代の奨学金がまだ150万円ほど残っていて、「借金があるうちは何も動けない」と長く思い込んでいました。転機は、ひさしぶりに出た高校の同窓会でした。旧友が会社勤めのかたわら事業を始めた話を聞き、眠らせていた「自分でも何かやってみたい」という気持ちが戻ってきたのです。

とはいえ、何から手をつければいいかは分かりません。澤口さんは起業18フォーラムの勉強会に通い始め、そこで「返済は続けたまま、元手のいらない範囲で試す」という進め方を一つずつ組み立てていきました。得意だった資料づくりを、知り合いの個人事業主に1件だけ引き受けるところから始めたそうです。

最初は手さぐりでしたが、頼まれる相手が少しずつ増えていきました。いまは資料づくりや事務サポートの依頼が月2件から8件ほどに広がり、奨学金の返済にも気持ちの余裕が生まれています。「借金があるからこそ、いきなり大きく賭けずにすんだ」と振り返っていました。

返済と準備を両立させる最初の一歩

では、返済しながら準備を進めるために、今日できることは何でしょうか。おすすめは、お金の全体像を一度だけ数字にしてみることです。奨学金の毎月の返済額と残りの回数、そして準備に無理なく回せる金額を、一度だけ数字にして見比べてみてください。漠然とした怖さは、具体的な数字にすると驚くほど小さくなります。

  • 返済は最優先で続ける:
    準備は退職ではないので、給料からの返済ペースは崩さないままにします。
  • 元手のいらないものから試す:
    自分の知識・時間・すでにある物を使えば、新たな借り入れは要りません。
  • まず有料で1件だけ受けてみる:
    お金をもらって成り立つかを、無理のない範囲で確かめるところから始めます。

大事なのは、大きな決断をいきなり下さないことです。返済を守りながら、元手のかからない試しを重ねていけば、借金があっても準備は前に進みます。今日は、あなたが有料で引き受けられそうな作業を一つだけ選び、頼めそうな相手を一人思い出しておいてください。

元手がほとんどなくても準備を始める具体的なやり方は、次の記事でもくわしく取り上げています。

ここでお話しした始め方は、どれも新しい借金を増やさずに試せるものばかりです。奨学金を返しながらでも、痛手を負わずに一歩目を踏み出せます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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