記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
起業準備として気になっている候補がいくつかあります。欲張って全部同時に試したい気持ちがある一方で、手を広げすぎて共倒れになるのも怖く、かといって最初から1つに決め切る自信もありません。
会社に勤めながら、複数の候補を掛け持ちして試すのは、実際のところアリなのでしょうか?

● 回答
「あれもこれも手を出すと共倒れになる」とよく言われますが、起業準備の入口ではその通りとは限りません。目安は2〜3ヶ月の情報収集期間と決め、そのあと反応の良かった1つに時間を寄せていけば十分です。同時に試すこと自体を、いきなり悪者にする必要はありません。
起業18フォーラムの会員さんからも、「候補が複数あるうちは、まず何かを消すべきでしょうか」という相談をよく受けます。実際には、どちらの言い分にも理由があります。
全部同時に試す派の言い分
まず、同時に試すことを支持する側の理由です。候補ごとの向き不向きは実際にやってみるまで分からず、机上の比較だけで1つに決め込むと、あとから「試しておけばよかった」という後悔が残りやすくなります。
パーソル総合研究所が2025年8月に行った調査では、会社員のうち会社の外でも仕事を持つ人の割合は11.0%で、2018年の調査開始以来もっとも高い数字になりました。別の形を試している人自体は、珍しい存在ではなくなっています。
1つに絞る派の言い分
一方で、早めに1つへ絞るべきだという意見にも理由があります。候補を並行させるほど、それぞれにかけられる時間と気力は薄まり、結果としてどの候補も中途半端な検証で終わりやすくなるからです。
日本政策金融公庫の2024年度調査では、パートタイム起業家の39.2%が調査時点で勤務を続けながら事業を行い、9.3%は勤務しながら開業した後に退職していました。合計すると48.5%が勤務しながら起業していました。だからこそ、限られた時間をどこまで分散させるかという線引きが必要になります。
二択ではなく情報収集期間という第3の道
ここまでの2つの言い分は、実はどちらも正しく、矛盾していません。同時に試す期間と、1つに絞る段階を、別のフェーズとして扱えばよいだけです。拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』に「ストック思考とフロー思考」という考え方が出てきます。
| 比較する軸 | 同時に複数試す時期 | 早めに1つへ絞る時期 |
|---|---|---|
| 向いている場面 | 候補同士の優劣がまだ見えていないとき | 候補の1つにはっきりした反応が出ているとき |
| 役割 | 候補を比べるための情報収集(フロー) | 手応えのあるものに積み上げる(ストック) |
| 注意点 | 期間を区切らないと共倒れになりやすい | 早すぎる絞り込みは可能性を狭める |
その場限りの売り買いを追いかけるのがフロー、いなくても回る仕組みとして積み上げていくのがストックです。同時に試す期間はフローを確かめる期間、絞り込んだあとはストックを寄せる期間、と役割を分けて考えると、共倒れの不安も減ります。
- 比較する軸が定まらない:
候補ごとに時間配分だけを増減させ、判断の根拠が最後まで曖昧なまま - どれも中途半端な検証で終わる:
1つずつの試行回数や件数が少なすぎて、反応の差が数字に表れないまま - 期限を決めずにずるずる続く:
情報収集のつもりが、いつの間にか本来の目的を見失った状態のまま長引く
深町さんの場合
起業18フォーラムの会員さんに、深町さんという40代前半の男性がいます。精密機器メーカーの品質保証部門に勤めながら、起業準備の候補を探していた方でした。
深町さんは最初、興味のあった3つの候補(ハンドメイドアクセサリーの販売、品質管理の基礎を教えるオンライン講座、スキルシェアサイトでの品質管理相談)を同時に始めました。どれにも同じくらいの時間を割いていましたが、2ヶ月経っても手応えの差がよく分からず、焦りだけが募っていったといいます。
そこで深町さんは、各サービスの閲覧数と問い合わせ件数を自分で1枚の表にまとめてみることにしました。結果、スキルシェアの相談だけが、ほかの2つを合わせた件数より問い合わせが多いことが数字ではっきり見えました。この表を持って起業18フォーラムの勉強会に参加したところ、他の会員さんが「反応の良かった1つに時間を寄せる」という考え方を実践している話を聞き、自分も同じように配分を変えることに決めたそうです。
ハンドメイド販売とオンライン講座は一旦保留にし、スキルシェアの相談窓口に時間を寄せた深町さん。当初は月に2件ほどだった相談の依頼は、9ヶ月目には月に9件まで増えたとのことです。
- 比較する期間を先に区切る:
2〜3ヶ月など、いつまで並行するかを先にカレンダーへ書き込んでおく - 比較する数字を1つ決める:
問い合わせ件数や注文数など、感覚でなく数えられる指標を選んでおく - 途中経過を記録しておく:
週に1回、候補ごとの数字を同じ場所に書き残しておく
絞り込みで後悔しないための見極め方
ここまで数字の話を中心にしてきましたが、「絞り込んだあとに後悔しないか」という不安は、数字だけでは消えないものです。絞り込んだ理由を、誰かに一言で説明できるかどうかを最後の確認にしてください。説明に詰まるようなら、まだ数字が出そろっていないだけかもしれません。
また、手放す候補を完全に切り捨てる必要はありません。一旦保留にするだけなら、あとで事情が変わったときに戻ってくる余地も残せます。
- 数字の差はどれくらい開いているか:
僅差なら判断を急がず、もう少し期間を延ばしてもよい - 手放す候補は完全に捨てるのか:
一旦保留にするだけなら、あとで戻れる余地を残せる - 絞り込んだ理由を一言で説明できるか:
説明できるなら、その判断は感覚でなく根拠に基づいている
今日からできることとしては、いま同時に試している候補それぞれについて、問い合わせの件数か返信の速さのどちらかを、1週間だけ数えてみてください。それだけで、感覚ではなく数字で比べる材料が手元に増えます。
複数を試すこと自体は、遠回りではありません。
実際、深町さんは比べる期間を経てから1つに絞ったことで、問い合わせの件数がその後半年足らずで4倍以上に増えました。数字が背中を押してくれた例です。
比べるための情報収集だと割り切れれば、その時間はあとで絞り込む判断材料に変わります。
同時に試すか、早めに絞るか。どちらが正解かは、最終的に手元の数字と、あなた自身がいちばんよく分かっているはずです。
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