記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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鍼灸師として勤めて何年か経つと、「いつかは自分の院を」という考えが頭をよぎる方は少なくありません。ただ厚生労働省の衛生行政報告例によれば、就業はり師は134,218人(令和4年末現在)、施術所数は全国で14万件を超え、コンビニの約3倍です。すでに完全に飽和しています。
そのなかで開業から5年以内に約40%、10年で約60%が廃業すると言われる業界です。技術力を売上に変える順序は、勤務を続けながら進められる4ステップに分かれます。
鍼灸師の経験は施術以外にも武器になる

自分の経験を「4つのカタチ」で棚卸しする
鍼灸師さんが独立を考えるとき、多くの方は「治療院を借りて施術する」一択で発想します。けれども拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』に「商品の4つのカタチ」という考え方が出てきます。事業の形は、①モノを渡す、②やってあげる(施術代行)、③教えてあげる(セルフケア指導)、④場・機会を提供する(コミュニティ運営)の4つに分けられます。鍼灸師さんが武器にできるのは②だけではありません。お灸セルフケアを教える講座、養生コミュニティの運営、オリジナル温灸器やお灸グッズの販売。すべて自分の経験から作れます。
「施術しかできない」と思い込むと、商品設計が一気に貧しくなります。
- モノ:オリジナル温灸器・お灸セット販売
- やってあげる:施術(自院・出張・訪問鍼灸)
- 教える:セルフ灸講座・整骨院スタッフ向け技術指導
- 場・機会:養生コミュニティ・健康サロン運営
「指名されてきた理由」を売上に変える
勤務先で患者さんから「この症状はこの先生に」と指名された経験は、誰でも何度かはあるはずです。冷え性、産後ケア、スポーツ障害、慢性肩こり、自律神経系の不調。その指名された理由が、独立後の最初のお客様像を決める材料です。
技術ではなく届け方が決まらないまま開業すると、すべての症状を扱う「なんでも鍼灸院」になります。市場の同業者は134,218人もいます。なんでもやる人は誰の記憶にも残りません。
ノートを1冊用意して、勤務先で過去1年に施術した患者さんの主訴を50人分書き出してみてください。そのうち自分が「うまくいった」と感じた症例を10件選びます。そこに独立コンセプトの種があります。
勤務先での施術記録から、自分が成果を出せた症例10件を抽出してみてください。
働きながら進める起業準備の4ステップ

鍼灸師さんの場合、勤務先の業務時間外で動ける時間は限られています。朝と夜に30分ずつ、休日に4時間。これを起業準備の固定枠と決めて、4ステップで進めます。
- 勤務先での施術記録の棚卸し(過去1年・主訴別)
- 知人・元患者へのモニター施術(出張形式・許可を得て)
- コンセプト1本に絞った商品設計
- 医師同意書のフロー確認・保険適用範囲の確認
モニター施術は知人5人から始める
いきなり開業して集客しようとするのが、いちばん危険です。最初は知人5人をモニターにして、出張または自宅の1部屋で施術します。料金は無料か実費(出張交通費のみ)で構いません。代わりに、施術後にアンケートを必ず取ります。「来院前の困りごと」「施術後の変化」「知人に紹介するなら誰に勧めるか」の3つです。
アンケートで集まった答えが、最初のホームページ・SNSで書く言葉の素材になります。
商品はフロー(単発)とストック(継続)の2本柱で設計する
拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』に「ストック思考とフロー思考」という考え方が出てきます。蛇口(フロー)と水槽(ストック)の比喩です。
単発の施術料金は典型的なフローです。患者さんが来なくなれば収入がそのまま止まります。これをストックに変える方法が2つあります。月会費制のメンテナンス会員と、医師同意書を経由した訪問鍼灸の医療保険適用です。後者は慢性疾患(神経痛・リウマチ・関節拘縮など)で歩行困難な高齢者が対象なので、高齢化のなかで需要は伸び続けています。
施術一本のフロー型から始めて、開業2年目までに月会費型・訪問鍼灸型を1つずつ追加する。これが続く治療院の作り方です。
月会費制と訪問鍼灸の2つで、収入の蛇口を増やしておきます。
経験タイプ別の鍼灸師起業アイデア

鍼灸師さんといっても、勤務経験はバラバラです。整形外科併設、美容鍼サロン、スポーツチーム帯同、訪問鍼灸ステーション。どこにいたかで、独立後の入り口は変わります。
- 整形外科併設経験:運動器・関節可動域改善の自宅サロン
- 美容鍼サロン経験:美容特化型の単発×継続コース
- スポーツトレーナー経験:アスリート向け出張ケア
- 訪問鍼灸ステーション経験:地域密着の訪問鍼灸事業
整形外科併設なら運動器、訪問経験なら高齢者
整形外科でリハビリ補助として鍼灸をしていた方は、運動器障害(変形性膝関節症・腰部脊柱管狭窄症など)への施術経験が豊富です。これは在宅でも需要が大きく、自宅1室をサロンにして「動ける身体を取り戻す」ことに特化すれば、競合と差がつきます。
訪問鍼灸ステーション経験者は、ケアマネージャーや地域包括支援センターとの関係構築に慣れています。居宅介護事業所との連携は、訪問鍼灸事業のいちばんの命綱です。
勤務時代に培った関係性は、退職と同時にゼロにはなりません。退職前に「独立後も連絡してもよいか」だけ確認しておくと、立ち上がりが速くなります。
美容鍼・スポーツ鍼は「単発×継続」の組み合わせ
美容鍼やスポーツ鍼の経験者は、単発で来た患者さんに「次に来る理由」を作りにくい構造があります。技術と気合で継続させようとすると、すぐに消耗します。
おすすめは、単発メニュー(初回お試し)と継続メニュー(月2回コース)の2本立てです。継続メニューを先に設計してから、単発メニューを「継続コースの試し」として位置づけると、自然にストック型へ流れます。価格は単発5,000〜8,000円、継続コース月15,000〜25,000円が目安です。
鍼灸師の起業でやりがちな失敗パターン

開業5年で約40%、10年で約60%が廃業する業界です。失敗の仕方には共通点があります。
- 駅前一等地での開業による家賃倒れ
- 開業初期の高額回数券販売による信用毀損
- 全症状対応の「なんでも鍼灸院」化
- 医師同意書フローの軽視による訪問鍼灸事業の頓挫
立地・回数券・なんでも対応の3点セット
駅前ビルで月家賃15万円を払うと、施術一本5,000円なら月30人来てやっと家賃分です。ここで焦って高額回数券(10回50,000円・前払い)を売り始めると、患者さんからの信頼は急速に減っていきます。
最初の1年は自宅1室・マンションの一室・出張専門で十分です。家賃と内装費を抑えて、固定費を月5万円以内に収めるのが、廃業しない起業の最低条件です。
訪問鍼灸の医師同意書を「形式だけ」と思わない
訪問鍼灸事業を考えている方は、医師同意書の取得・更新フローを正確に理解する必要があります。慢性疾患(神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症など)を対象とする療養費(医療保険)の請求には、医師の同意書が必須です。同意期間は原則6か月で、更新時は再度同意が必要になります。
ここを疎かにすると、施術費の返戻(保険金が支払われない)が発生して資金繰りが一気に崩れます。
開業前に必ず受領委任の取扱規程を読み込み、不明点は地方厚生局に問い合わせておきましょう。
次のステップ:技術ではなく「届け方」を磨く

鍼灸師さんの起業準備で最も大切なのは、「もっと技術を磨けば独立できる」という思い込みを外すことです。技術はすでに国家資格レベルにあります。市場で足りないのは届け方です。
134,218人の同業者がいるなかで選ばれる鍼灸師さんは、特別な手技を持っているわけではありません。「この症状ならこの先生」と地域の誰かに思い出してもらえる仕組みを、勤務時代から積み上げている人です。

治療院を借りる前にやることは、リスト100人。来てくれそうな知人・元患者さん・紹介可能な人を、勤務を続けながら少しずつ集めることです。リストが100人を超えた時点で、はじめて場所の話を考える。順序を逆にすると、開業半年で家賃に追われます。
自宅でできる準備から、ひとつずつ手をつけていきましょう。
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