記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
勤め先の仕事とは別に、知人の紹介で受けた資料作成の仕事を先月末に納品しました。ところが支払期日を1週間過ぎても代金8万円が振り込まれず、確認のメッセージも既読のまま返信がありません。
紹介してくれた人の顔もあるので大ごとにはしたくないのですが、このまま引き下がるのも納得できません。平日は会社の仕事がある中で、まず何から手をつければいいでしょうか?

● 回答
支払期日から1週間が過ぎ、メッセージには既読がついたまま返信が来ません。この段階で最初に送るものは請求書です。金額と再設定した支払期日を書き直し、事務連絡の形で届けます。費用と手間の軽い順に並べると、請求書の再送、内容証明郵便、支払督促、少額訴訟という4段階になります。
未払いの報酬などの債権は、民法166条により、原則として「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」のいずれか早い時点で消滅時効が完成します。すぐに訴訟へ進む必要はありませんが、請求書ややり取りの記録をそろえ、期限を区切って請求を始めることは必要です。
最初の一手は請求書の再送
払われない理由は、悪意よりも段取りの抜けであることが多いものです。請求書が届いていない、社内の支払サイクルから外れている、担当者が単純に忘れている。私が受けてきた相談でも、このどれかで説明がついた例が大半でした。
だから1通目は、責める文面ではなく事務の書類にします。納品物の名前と納品日、金額、振込先、そして再設定した支払期日を1枚にまとめた請求書を、本文の短いメールに添えて送るところからです。相手に「うっかりしていました」と言える余地を残しておくと、話は驚くほど早く動きます。
- 請求内容:
納品物の名称と納品日、税込金額、消費税の扱い - 支払期日:
再設定した振込期限の日付と、振込先の口座 - 連絡経路:
返信を受け取るメールアドレスと電話番号
この書類があると、あとで手続きに進むときの土台にもなります。逆にここが口約束のままだと、どの手段を選んでも「いくらの約束だったか」から争うことになります。
督促に使える三つの手段と実費
それでも動かないときに使える手段は、内容証明郵便と支払督促と少額訴訟の三段階です。順番と費用の感覚を先に持っておくと、どこで止めるかの判断がしやすくなります。
| 手段 | 費用の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便 | 1,400円前後 | いつ誰にどんな文書を送ったかの記録。催告が相手に到達した場合、到達時から6か月間は時効の完成を猶予 |
| 支払督促 | 5,700円(請求60万円・書面申立て) | 簡易裁判所の書記官への申立て。書類審査のみで出廷不要 |
| 少額訴訟 | 8,500円(請求60万円・書面申立て) | 60万円以下が対象。原則1回の期日で審理。同じ簡易裁判所に年10回まで |
内容証明の内訳は、定形郵便の基本料金110円に、一般書留の480円、文書1枚ぶんの内容証明加算480円、配達証明の350円を足した形です(日本郵便のオプションサービス加算料金一覧・2025年11月更新分)。
申立ての手数料は、請求額と書面・電子の申立方法によって変わります。2026年5月21日以降の新しい手数料額早見表では、60万円の請求を本人が申し立てる場合、少額訴訟は書面8,500円・電子7,400円、支払督促は書面5,700円・電子5,500円です。これとは別に、証拠の取得や専門家への依頼などで費用が生じることがあります。
詰まりが起きるのは受注の入口
ここまで読んで、手続きは思ったより安いと感じた方もいるでしょう。ただ、実際の相談で足が止まるのは費用より時間の都合でした。支払督促は、相手が受け取ってから2週間以内なら異議を申し立てられます。異議が出れば請求額に応じて簡易裁判所か地方裁判所の訴訟へ移り、そこから先は平日の昼間に動ける人でなければ進めにくくなります。
もうひとつ、発注者と受注者がフリーランス法の要件を満たす取引では、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法も確認します。特定業務委託事業者には、原則として、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その期日までに支払う義務があります。
個人どうしの頼まれごとでは対象外になりますが、相手が会社や個人事業として発注しているなら、この一文を添えるだけで話が動くこともあります。
そして一段深く見ると、分かれ目は取り立てのうまさより手前にあります。金額と範囲と支払期日を書面にしないまま着手すると、あとで示せる材料が残りません。詰まりが起きる場所は催促の場面ではなく、引き受けた日のほうです。
- 口約束のまま着手:
金額と範囲を示す書面がなく、あとから水掛け論 - 感情の乗った催促文:
相手の非を責める文面で、返信そのものが止まる状態 - 勤務先への直接連絡:
知人個人との取引なのに会社へ連絡し、信用を失う対応
どれも、回収したい気持ちが強いほど起きやすいものです。だからこそ、感情ではなく手順で動ける形をあらかじめ作っておきます。
知人の仕事ほど先に線を引く
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、友人と組んで起業することをすすめていません。少額であってもお金がからむ以上、価値観や方向性の違いから仲のいい関係にひびが入る恐れがあるからです。知人の紹介で受ける仕事も、抱えている危うさは同じところにあります。
だからこそ、回収に使う上限を自分の側で先に決めておきます。回収に注ぐ時間は、取り戻したい金額を自分の時給に置き換えて、その範囲を超えたら止めるのが現実的な線です。8万円を取り戻すために20時間を費やすくらいなら、その20時間を次の受注づくりに回したほうが早く戻ります。
消滅時効まで期間があるとしても、相手の連絡先や資力、取引記録がそのまま残るとは限りません。数日で決着をつけようと焦る必要はありませんが、放置せず、期限を決めて段階を上げます。決めた線を越えたら次に回す。この切り替えが早い人ほど、翌年の売上をきちんと積み上げていきます。
沢渡さんが次の1件から変えたこと
会員の沢渡さん(仮名・30代後半)も、同じところでつまずきました。勤め先とは別に受けていた資料作成の仕事で、知人経由の案件6万円が入金されないまま2か月が過ぎたのです。見積書も請求書も出さず、メッセージのやり取りだけで着手していました。
変わったきっかけは、起業18フォーラムの勉強会で他の会員の受注の進め方を聞いたことでした。金額を伝える前に、作業範囲と修正回数と支払期日を書いた紙を1枚渡している人がいたそうです。沢渡さんは帰り道で自分の手順をたどり直し、相手に見せられる書類が最初から一枚もなかったことに行き当たりました。
翌週から沢渡さんは、依頼を受けた時点で請求書の下書きを送る形に変えました。未入金だった6万円は、内容証明を出す直前に相手から連絡が入って回収できています。その後の12か月で受けた18件はすべて着手前に書面を出した案件で、支払いが遅れたのは1件だけでした。
- 今日:
金額と支払期日を書き直した請求書の再送 - 2週間後:
反応がなければ内容証明郵便での督促 - それでも動かないとき:
支払督促か少額訴訟という選択肢 - 次の1件:
受ける前に金額と範囲と期日を書面で先出し
取り立ての言葉を探す時間は、正直に言えば報われにくい時間です。一方、同じことが二度起きない形に整える作業は、次の依頼が来た日からすぐに始められます。
次に依頼を受けるときは、金額を口頭で伝える前に、作業範囲と支払期日を書いた請求書の下書きを1通出してみてください。相手が知人でも取引先でも同じで、紙が1枚あるだけで、催促は事務連絡に変わります。

ここで挙げた手続きは、どれも数千円で試せるものばかりです。選べる手が一通り見えていれば、次に同じことが起きたときも、紹介してくれた人の顔を気にして固まる時間は短くなります。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
