三宅島で起業を考えるなら、夏の繁忙に頼らず通年で回す準備から

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

三宅島と打ち込んで、船の時刻表や移住者のブログを読みふけったことのある方なら、心のどこかで「この島で暮らしながら、自分の手で何か始められないか」と考えた瞬間があったかもしれません。海の青さに、あるいは火山と寄り添う暮らしに惹かれて。その気持ちは、よくわかります。

けれど、夏の海でにぎわう数日と、この島で十二か月を食べていくことのあいだには、けっこうな距離があります。三宅島は一度すべてを止めて、また立て直してきた島です。だからこそ「止まらない仕事をどう持つか」が、ほかのどの土地よりも問われます。この記事では、三宅島ならではの事情を手がかりに、現地で続けるために何を先に準備しておくべきかを、起業準備の視点でほどいていきます。

会社員の起業準備に長く付き添ってきて感じるのは、土地への思いが強い方ほど、肝心の「島で何を売って暮らすのか」を後回しにしてしまう、ということです。そして三宅島の場合、その後回しのツケは、季節という分かりやすい形で表に出てきます。

ポイント 火山とともにある島の、いまの輪郭をつかむ

人口約2千人、火山と立て直してきた伊豆諸島の島

三宅島

三宅島は東京都三宅村、伊豆諸島のほぼ真ん中に浮かぶ火山島です。仕事の話に入る前に、この島の足元を数字で確かめておきます。

三宅村の人口は2,108人(令和8年5月31日現在・三宅村)で、内訳は男性1,177人、女性931人、世帯数は1,431世帯です。本土とのあいだには、性格の違う二つの足があります。

海路は竹芝桟橋から東海汽船の大型客船で約6時間半、夜に発って翌朝に着く便が1日1便。空路は調布飛行場から新中央航空で約50分、1日3便(季節によって増便)が飛んでいます。ゆっくり夜をまたぐ船か、短く空を行く飛行機か。その選択肢の幅も、島で暮らす感覚を左右します。

そして、この島を語るうえで外せないのが活火山・雄山です。2000年の噴火では全島避難に至り、島民が島を離れる歳月を経て、2005年に避難指示が解かれて帰島が始まりました。火山ガスとつき合いながら暮らしを組み直してきた、その積み重ねが、いまの三宅島の土台になっています。一度ゼロに近いところまで戻った経験は、「途切れない収入をどう作るか」という問いと、実はまっすぐつながっています。

では、人口約2千人という規模を、起業を志す側はどう受け止めればよいのか。島の内側だけを商いの相手と見るなら、市場は決して広くありません。とはいえ、視線を島の外へ向ける道があります。

総務省が地方創生の柱に据えてきた「関係人口」は、移住者でも観光客でもなく、その地域に継続して関わり続ける人々を指す言葉です。島の外と結ばれた仕事を持てるかどうか。この規模の島では、そこが暮らしの安定を分ける一線になります。

ポイント 一年の暮らしは、人がいちばん少ない月で決まる

人の波が夏に寄る島で収支の谷を見極める設計

三宅島

三宅島で食べていく形を描くとき、避けて通れないのが「自分は、どの季節のお客様を相手にするのか」という問いです。

三宅島は約280種の野鳥が確認され、「バードアイランド」とも呼ばれてきました。日本固有種のアカコッコを見られるアカコッコ館があり、ダイビングや釣りとあわせて、豊かな自然を目当てに人がやってきます。ただ、こうした自然観光は海の季節や野鳥のシーズンに来島が寄りやすく、夏を頂点とした山と、人影の薄い冬の谷とが、そのまま帳簿に写し取られます。

立ち止まって考えたいのは、いちばん人が来る時期の数字を、自分の売上の物差しにしてよいのか、という一点です。来島が集まる季節に合わせて商いを組むと、その波が引いた瞬間に収入の蛇口が閉まり、谷の数か月で資金繰りが息切れします。

  • 繁忙期だけに賭ける設計:
    夏に売上が立っても、冬の谷で生活費に追われる
  • 天候・海況に依存する設計:
    欠航や時化で客足が大きく振れ、収入が読めない
  • 「移住すればなんとかなる」で先送り:
    何で食べるかが決まらないまま島に入り、貯金を取り崩す

とはいえ、夏か冬かを選べという話ではありません。夏の山はそのまま生かしつつ、季節に揺さぶられない通年の小さな需要を、その山の足元に敷いておく。両方を重ねる組み方ができます。島へ渡る前に手をつけておきたいのは、まさにこの「谷を埋める一枚」です。

ポイント 本業で積んだ経験を、島で回る形に変える

積んだ経験を季節に縛られない柱へ組み替える視点

三宅島

三宅島に心を寄せる方の多くは、自然や島の営みへの熱い思いを抱えています。その熱は燃料として大事にしながら、「では何を商品にするのか」だけは、頭を冷やして選びたいところです。

拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』では、起業のかたちを4つのカテゴリーに分けて整理しています。場所や機会を差し出すスペース・チャンス系、モノを売るプロダクト系、技術を売るスキル・サービス系、そして知識やノウハウを売るノウハウ系。この4つのなかで、いちばん元手がかからず今日からでも着手できるのがノウハウ系だと紹介しています。残りの3つは、どうしても初めの投資がふくらみがちだからです。

これを島の現実に重ねてみます。建物を構えるスペース系や、在庫を抱えるプロダクト系は、天気と季節の波をまともにかぶります。けれど、自分の頭のなかにある知識や経験をオンラインで届けるノウハウ系なら、海が荒れても冬が来ても手は止まりません。これまで会社で培ってきたものを、季節に縛られない形へ言い換えられないか。そこを自分の言葉にできた人から、通年の柱の入口が開いていきます。

島の資源に乗る仕事と、どこにいてもできる仕事

三宅島ならではの資源に乗る方向と、会社員が無理なく踏み出せる方向。その両側から、候補を並べてみます。

  • 来島者向けの体験提供:
    ダイビングや野鳥観察の前後を埋める案内、島の自然を伝える小さなプログラム
  • 島の暮らしを支える仕事:
    高齢化する集落の生活サポート、移住希望者への暮らしの相談やオンライン情報発信
  • 場所に縛られない継続業務:
    本業のスキルを活かしたリモートの受託業務を、移住後もそのまま続ける

このうち来島者向けの体験は、夏の山には乗りやすいぶん、波が引けばぴたりと止まります。だから、移住希望者へのオンライン相談や本業スキルのリモート受託といったノウハウ系を、年間を通して動く柱としてあらかじめ抱えておく。これが、季節の谷をならしていく発想です。

ポイント 夏の絵に、冬の半年を書き足したある移住者

夏偏りの計画へ通年の定期需要を足していく道

三宅島

起業18フォーラムで準備を重ね、三宅島で年間を通る柱を組み上げた、ある方の歩みを紹介します。

40代後半でメーカーの管理部門に勤めていたその方が、島と本気で向き合う後押しになったのは、移住相談会で言葉を交わした先輩移住者のひと言でした。「夏は人が来るけど、冬に何で食べるかを決めてから来たほうがいい」。この一言が胸に引っかかり続け、ずっと棚上げにしていた起業準備を、そこからそっと動かし始めたといいます。

最初の半年で描いていたのは、「夏の繁忙期に来島者向けの体験を一気に回す」という、海の季節に乗っかる絵でした。

その絵が大きく描き直されたのは、起業18フォーラムの勉強会で事業計画を発表した日のことです。「夏が過ぎたあとの半年は、誰のどんな困りごとで食べていくのですか」。そう問い返されて、はっとしたそうです。夏に稼ぐ筋書きは整っていても、その後の暮らしを支える売上が、計画からすっぽり抜けていました。

そこからその方は、会員どうしの個別相談も頼りにしながら、10ヶ月目あたりで計画を立て直します。来島者向けの体験は手元に残したうえで、本業で鍛えた事務とリモートワークの経験を土台に、移住を検討する人へのオンラインの暮らし相談と、島外企業から請け負う作業という、季節に振り回されない仕事を、通年の柱として据え直したのです。

本業を続けながら関係人口として島へ通い、やがて移り住んで、小さく事業を立ち上げました。36ヶ月目に入ったいまでは、夏に偏っていた収入のうち、冬の谷を埋める通年の仕事が全体の3割ほどを占めるようになり、一年の振れ幅がずいぶんなだらかになったといいます。

たくさん稼ぐことより先に、低い谷を埋める柱を一本通しておいたこと。その順番が、この方の島での日々を静かに支えています。

ポイント 順番を間違えない。食べ方を先に、制度はそのあとで

食べ方を固めてから島の制度を使う準備の順番

point

三宅島にも、移住と創業を後押しする仕組みが用意されています。三宅島は有人国境離島法(平成28年法律第33号)が定める特定有人国境離島地域にあたり、同法にもとづく三宅村雇用機会拡充事業補助金が設けられています。

これは、雇用の増加をともなう創業や事業拡大に取り組む事業者へ、事業資金の一部を補助する制度です(三宅村・企画財政課)。補助率や上限額、対象になる条件はその年の公募で動くので、申し込む前に必ず最新の公募要領で確かめてください。

ここで気をつけたいのは、こうした制度が力を発揮するのは「何で食べるか」がもう定まっている人の手のなかだ、という点です。進む方角が決まらないまま窓口を叩いても、応対する職員も、何を案内すればよいか困ってしまいます。先に「自分の経験を、島で一年回る仕事へどう組み替えるか」のあたりをつけ、その地図を手にしてから制度の扉を開くのが、回り道のない進み方です。

起業18フォーラムには、その「何で食べるか」「自分に合うかたちはどれか」を、動画や勉強会を通じて一段ずつ言葉にしていける場があります。輪郭がぼんやり見えてきたら、三宅村の創業支援の説明会や相談の機会に、まず一歩を踏み入れてみてください。

地域によっては、こうした受講が補助や融資の場面で有利に働く制度もあります。はじめから移り住む必要はなく、関係人口として通いながら、日を区切った滞在から少しずつ歩を進める道も残されています。

三宅島で起業するとは、会社を辞めて何かを手放すことではありません。いまの暮らしを足場にしたまま、選べる道が一本増え、その先に島での時間がある。そう置き換えてみると、見えてくる景色は少しだけ違ってきます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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