記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
起業してみたい気持ちはあるのですが、肝心のアイデアがまったく思いつきません。周りで独立した人のような、これという斬新な思いつきが自分には何もなくて、そもそも何で起業すればいいのかが決まらないままです。
特別な才能もない普通の事務職ですが、そんな人間でも起業のアイデアは見つけられるものなのでしょうか?

● 回答
起業に、人をあっと言わせる斬新なアイデアは必須ではありません。日本政策金融公庫が融資した開業後1年以内の企業を対象とする2025年度新規開業実態調査では、開業動機の複数回答で「自由に仕事がしたかった」が59.7%、「収入を増やしたかった」が44.9%、「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」が41.1%でした。
現在の事業に決めた理由では、「これまでの仕事の経験や技能を生かせるから」が43.8%で最も多くなっています。日本政策金融公庫の同調査は融資先を対象としており、すべての開業者を代表する数字ではありません。
ですから、あなたが今「思いつかない」と感じているのは、能力の問題ではありません。探している場所が、頭の中だけに限られているのだと思います。アイデアは無から生み出すものではなく、すでに触れているものに名前をつけていく作業に近いです。
「思いつかない」ときに見落としている場所
「誰もやっていない斬新なアイデア」だけを頭の中でひねり出そうとするほど、答えは遠ざかります。新しさがあっても、誰が必要としているかを確かめなければ事業になるとは限らないからです。
起業のアイデアは、無から生まれるものではなく、すでに自分が毎日触れているものの中から見つけるほうが早いです。
実際、アイデアが決まらない方には、共通してつまずくところがあります。
- 頭の中だけで探す:
机に向かって考え込むことによる、身近にある種の見落とし - 斬新さにこだわる:
誰もやっていないことを条件にした、実在する需要の切り捨て - 自分の当たり前を捨てる:
毎日やれていることを「平凡だから」と外す強みの除外
アイデアの種がある3つの層
では、どこを見ればいいのか。探す場所を、次の3つの層に分けてみてください。どれか一つでも心当たりがあれば、そこが出発点になります。
- 業界層:
いまの仕事で毎日触れている、その業界だけの不便や面倒 - 日常層:
生活者として感じる、平凡だけれど繰り返し困っていること - 趣味層:
好きで続けていて、気づけば人より少し詳しくなっていること
この3つは、どれも新しく探しにいくものではありません。すでにあなたが毎日立っている場所です。私がこれまで数多くの起業の準備に立ち会ってきた中でも、最初から完成されたアイデアを持っていた方は、ほとんどいませんでした。
周りからの「何に詳しい人」という呼ばれ方
3つの層で拾った断片を、一つの輪郭にまとめる方法があります。拙著『起業神100則』でも、「“何に詳しい人”と呼ばれているか」という視点を紹介しています。自分では平凡だと思っていることでも、周りから見れば「あの件ならあの人」と呼ばれている領域が、たいてい一つはあるものです。
その呼ばれ方こそが、あなたの起業のアイデアの輪郭です。大事なのは、自分の外に答えを探すことではなく、すでに周りから求められている自分の輪郭を、言葉にしていくことです。
事務職の鴇田さんが相談役になるまで
鴇田さん(40代・事務職)も、最初はまったく同じ悩みを抱えていました。何のアイデアも決まらず、自分にはそもそも売れるものがない、と思い込んでいたそうです。
糸口が見えたのは、起業18フォーラムの勉強会でした。自分の発表の番ではなく、隣の参加者へ向けられた講師のひと言だったといいます。「それは、誰の困りごとを消す仕事ですか」。その問いが、なぜか自分のことのように胸に残り、帰り道でふと足を止めたそうです。
次の勉強会までに、鴇田さんは自分が職場で何と呼ばれていたかを思い返しました。経費の精算や書類でつまずいた同僚から、いつも「そういうのは鴇田さんに聞けば早い」と頼られていたのです。ほかの会員さんの事例を聞くうちに、開業したばかりの一人社長ほど、帳簿づけや経費の整理といった事務まわりの段取りに手を焼いていると分かってきました。
そこで、「事務の何でも屋」ではなく、「一人社長の事務まわりを整える相談役」に絞り込みました。絞ってから半年ほどで、勉強会や知人の紹介を通じて相談に乗った個人事業主は、気づけば延べ30名を超えていました。
振り返れば、鴇田さんは新しいアイデアを一つも思いついていません。もともと持っていた事務の経験に、周りからの呼ばれ方を重ねて、名前をつけ直しただけです。
あなたが今日からできることも、机に向かって考え込むことではありません。この一週間、周りの人が自分にどんな相談や質問を持ってくるかを、書き留めずに、ただ気に留めて眺めてみてください。
眺めているうちに、同じような場面が何度か出てくるはずです。そこに、あなたの呼ばれ方が表れています。
気になる種が見つかっても、頭の中で完璧に仕上げようとしなくて大丈夫です。身近な一人が「それ、困ってた」と言うかどうかだけを、最初の判断材料にしてください。
「思いつかない」のではなく、まだ名前がついていないだけです。その名前は、あなたの外側ではなく、これまでの毎日の中にあります。

ここまで自分の起業を真剣に考えて読み進めてきたあなたなら、種を見つける目は十分に持っています。あとは、呼ばれ方に耳をすませて、一つずつ言葉にしていくだけです。
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