記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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介護現場で働きながら「いずれは独立したい」と考えている介護士さんからのご相談を、これまでに何度もお受けしてきました。多くの方が「起業=訪問介護事業所を開く」という入口だけで考え、「自己資金が500万円では足りない」「人員基準が厳しい」とご自身でブレーキを踏んでおられます。
実は介護士さんの起業ルートは、事業所開設だけではありません。介護福祉士の知識と現場感覚は、保険外サービス・家族向け相談・介護人材教育など、法人化なしで個人として始められる場面で大きな価値になります。
今日は「介護現場で働きながら、どこから準備していけば独立に近づけるか」を、26年の起業支援現場で見えてきたパターンと公的データを照らし合わせて整理していきます。
介護士の経験が「商品」に変わる場所はどこか

厚生労働省の集計によれば、国内の介護職員数は2024年度時点で約212万人にのぼり、介護福祉士の登録者数も2024年に200万人を超えました。これだけの専門人材が現場にいる一方で、家族介護に直面した一般の方には情報も相談先も足りていないというギャップが残っています。
つまり介護士さんの経験そのものが、「困っている家族」「迷っている事業所」の側から見ると、確かな商品の素材になっているという状況です。「商品をつくる」のではなく、「すでに持っている経験を、必要としている人に届け直す」という発想が独立の最初の入り口になります。
- 家族向け:在宅介護の進め方相談・施設選び同行・看取り準備
- 事業所向け:研修プログラム提供・記録改善コンサル・新人教育
- 専門職向け:資格取得サポート・現場ノウハウの動画教材販売
介護保険の枠の中だけで考えると500万円の壁にぶつかりますが、保険外の領域に目を向けると個人でも始められる選択肢が一気に広がります。最初の一歩は事業所を構えることではなく、「自分の経験を必要としている相手は誰か」を言語化することからです。
在職中から動かせる4つのステップ

介護現場は夜勤・早番・遅番が組み合わさり、まとまった時間を取りにくい職場です。だからこそ起業準備は「24時間で考える」のではなく、「シフトの隙間に1枚紙を埋める」という積み上げ方が現実的です。以下の4ステップは在職中の介護士さんがまず動かせる順序として整理したものです。
ステップ1:身近な「困っている家族」を10人リストアップする
同僚、利用者のご家族、知人、SNSでつながっている方の中から、「在宅介護や施設選びで困っている/困りそうな人」を10人ノートに書き出します。架空のペルソナではなく、顔が浮かぶ実在の方だけを書き出すのがポイントです。
ステップ2:30分の聞き取りを3名にお願いする
10人のうち、最も話しやすい3名に「在宅介護で困っていることを30分だけ聞かせてください」とお願いします。アンケートではなく対面・電話の対話形式が、独立後の商品設計に直結する一次情報になります。
ステップ3:「お金を払っても聞きたい」と言われた話題を絞る
聞き取り結果から、「これは情報があれば助かる」「料金を払ってでも相談したい」という反応が出たテーマを2~3に絞ります。介護保険の枠外にあるテーマ(家族の心の整理、看取りの準備、施設見学の同行など)が出てくることが多いはずです。
ステップ4:保険外サービスで一度試してから法人化を判断する
絞ったテーマで、まずは知人3名に有料モニター(1回3000~5000円程度)でサービスを提供し、反応を見ます。手応えが出てから「法人化して訪問介護事業所を開設するか」「個人のまま保険外相談業を続けるか」を判断する順序が、資金リスクを最も抑えられます。
- ステップ1:1週間(夜勤明けのカフェ1時間で完成可能)
- ステップ2:3週間(1名/週ペース)
- ステップ3:1週間(紙1枚に絞り込み)
- ステップ4:1ヶ月(モニター3名×1回)
この4ステップは合計で約2ヶ月、シフトの合間に進められる現実的なペースです。最初から大きく構えず、最小単位で試して反応を確認するのが、現場で疲弊しない準備の組み立て方です。
経験タイプ別・介護士さんの起業アイデア

「起業」と言ってもパターンはひとつではありません。これまでの現場経験で何を多く見てきたかによって、向いている入り口が変わります。経験タイプ別に整理すると次のような選択肢が見えてきます。
訪問介護の経験が長い方:在宅介護コーチング
家族の介護に直面した方向けに、在宅介護の進め方・サービスの組み合わせ方・介護用品の選び方を1対1でサポートする保険外サービスです。月4件のオンライン相談で月収5万円~10万円という規模感から始められます。
施設介護の経験が長い方:施設・事業所向け研修
新人教育・記録の書き方・利用者対応・看取りケアなど、現場の暗黙知を研修プログラムに落とし込み、複数の施設に提供する形です。1回2~3時間の研修で2~5万円が一般的な相場感です。
ケアマネ資格を持つ方:個人で居宅介護支援事業所
居宅介護支援は法人化が必要な事業ですが、ケアマネ資格があれば自宅で小規模に開設しやすい数少ない介護保険事業です。2024年度の介護報酬改定後はケアマネ1人あたり原則44件まで担当でき、主任ケアマネが管理者を兼ねれば実質一人体制で運営することも可能で、初期投資も比較的抑えられます。
認知症ケアの経験が長い方:認知症家族向けグループサポート
認知症の家族を抱える方は孤立しやすく、定期的に話せる場のニーズが強い領域です。月1回の少人数オンライングループ(参加費1500~3000円)からスタートできます。
- これまでの勤務年数で最も長く担当した利用者層に近いこと
- 身近に「最初の1人」を頼めるルートが現時点であること
資格よりも、過去に何を多く見てきたかのほうが商品の説得力を決めます。同じ介護福祉士でも、施設経験者と訪問介護経験者では話せる中身が大きく違います。経験タイプから逆算するのが最も近道です。
介護士の起業でつまずく3つの落とし穴

26年の起業支援現場で、介護士さんの独立がつまずくパターンには共通項があります。事前に知っておけば回避できるものばかりですので、よくある3つを取り上げておきます。
落とし穴1:いきなり訪問介護事業所を立ち上げる
訪問介護事業所は法人化が必須で、サービス提供責任者を含む常勤換算2.5人以上の人員配置と、開業資金の目安として500万円前後が必要になります。「介護経験があるから経営もできる」と過信してこの規模で動き始めると、利用者ゼロのまま固定費だけが流出する状態に陥りやすいのです。まずは保険外で需要を確かめてから判断するほうが安全です。
落とし穴2:介護保険の単価感覚で値付けしてしまう
長く介護保険の中で働いていると、自分の時間単価を「時給1500円」のような感覚で捉えがちです。けれど保険外サービスは需要と専門性で価格が決まる世界で、1時間5000円~1万円が一般的なゾーンです。介護保険の単価ではなく、利用者の家族が「これなら払う」と言った金額を起点に値付けし直す必要があります。
落とし穴3:「優しさ」だけで設計し回収設計を後回しにする
介護の現場は思いやりで成り立つ仕事ですが、独立後は「優しさ」と「収益設計」が両輪です。最初の利用者3名から月いくら入れば成り立つのか、必要経費はいくらか、という回収設計を初期段階で紙に書いておかないと、半年後に「忙しいのに残らない」状態になります。
- 独立1年目:自己流で訪問介護事業所開設を目指し、500万円の見積もりに直面して中断
- 起業18フォーラムへ参加:勉強会で「保険外で需要確認が先」という考え方に出会う
- 修正:家族向け在宅介護コーチを月4件・1回5000円で開始
- 現在:起業準備から14ヶ月目、月収8万円が継続。法人化は需要が固まってから判断する方針に切り替え
Kさんは「自己流のまま走り続けていたら、貯金を全部使って終わっていたと思います」と振り返っておられます。最初の半年は「いくら稼ぐか」より「いくら残るか」を毎月チェックする習慣をつけてください。これだけで判断の精度が大きく変わります。
「現場を辞めなくていい」というスタート地点

独立を考えると「いつ辞めるか」を真っ先に悩む方が多いのですが、介護士さんの場合は「現場を辞めない」ほうが起業準備期にむしろ有利に働く面が大きいのが特徴です。現場で得る最新情報、利用者ご家族との接点、同僚との学び合い、これらすべてが商品の素材になります。
介護労働安定センターの令和6年度調査では、介護職の離職率は12.4%で過去最低水準まで下がりました。「辞める前提」ではなく「続けながら別の収入軸を育てる」という選択をする介護士さんが、ここ数年で確実に増えています。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』にも書いたのですが、辞めずに小さく始めるほうが結果的に独立までの時間が短くなるケースは少なくありません。介護士さんが売るのは「介護技術」そのものではなく、その先にあるご家族の安心や夜眠れる時間です。技術を技術として売るのではなく、相手が手にする結果を商品にする視点が、独立後の生命線になります。

夜勤明けの一杯のコーヒーに「今日は誰の話を聞かせてもらおうか」と一行書き足すところから、独立への準備は始まります。介護現場で働き続ける時間そのものが、商品の素材を育ててくれる時間です。
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