記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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フリーランスや個人事業主として動き始めた会社員から、インボイス制度への向き合い方について質問を受ける機会があります。「請求書はインボイスが必要ですか」「今は登録しないほうが得ですか」といった内容が代表的です。
制度は複雑に見えますが、判断すべき軸は多くありません。取引先が誰か、売上規模はどれくらいか、そして経過措置がいつまで続くのか。この3つを押さえれば、慌てて登録する必要も、闇雲に登録を避ける必要もなくなります。
私はこれまで26年、延べ6万人の会社員と向き合ってきました。制度の細部より、「自分の場合はどう判断するか」を整理する場面のほうがずっと多いのです。この記事では、起業準備中の方が今日開ける判定ページに辿り着けるところまで、順を追って整理していきます。
インボイス制度は何のための制度?

ひとことで言うと「請求書の様式が変わった」制度
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、2023年10月に始まりました。買い手が消費税の仕入税額控除を受けるためには、売り手が発行した「適格請求書」を保存しておく必要がある、というのが制度の骨格です。
適格請求書を発行できるのは、税務署に登録して「適格請求書発行事業者」になった人だけです。登録すると、これまで免税だった人も課税事業者として消費税を納めることになります。
誰にとっての制度なのか
登場人物は3者です。売り手(あなた)、買い手(取引先)、税務署。買い手が仕入税額控除を受けたいなら適格請求書がほしい、売り手はそれを発行するには登録が必要、税務署はその登録と納税を管理する。この関係が全体像です。
財務省・国税庁の資料によれば、制度導入の趣旨は「複数税率下で正確な消費税額を把握するため」とされています。10%と軽減8%の2種類の税率が並存している今、どの取引にいくらの消費税がかかっているかを、請求書の様式で明示する必要があった、というわけです。
起業準備で関係あるのはどんな時か

勤め先を離れずに起業準備を進めている方が制度と接点を持つのは、次のような場面です。
売上がまだ小さいうちは
消費税法では、基準期間(前々年)の課税売上高が1000万円以下の事業者は免税事業者となります。登録するかどうかは任意で、しなくても消費税を納める義務は発生しません。
年間で数十万円〜数百万円の売上段階なら、原則として免税事業者のままでいられます。ここで問題になるのは、「免税のままだと取引先が困るかどうか」という一点だけです。
取引先が法人・課税事業者の場合の関わり方
取引先が課税事業者の法人で、あなたに支払った金額を仕入税額控除したい場合、あなたが免税事業者だと相手は満額を控除できません。ここで初めて、登録するかしないかの判断が現実の問題になります。
- 取引先が法人・課税事業者中心:
登録の要否を相手と相談する余地が生まれます - 取引先が個人・免税事業者中心:
相手も仕入税額控除に関係しないため、登録の必要性は低くなります - 取引先が消費者(BtoC)中心:
一般消費者は仕入税額控除をしないので、原則として登録は不要です
経過措置で「相手の控除幅」は段階的に動く
免税事業者からの仕入れであっても、買い手側は経過措置により一定割合の仕入税額控除を受けられます。
財務省・国税庁が公表している経過措置によれば、2023年10月〜2026年9月末までは仕入税額相当額の80%、2026年10月から2年間は70%、2028年10月から2年間は50%、2030年10月から1年間は30%が控除可能です。令和13年(2031年)10月以降は、この経過措置による控除はできなくなる予定です。最新の措置は国税庁の特設サイトで確認するのが確実です。
つまり、「免税のままだと相手が全く控除できない」わけではありません。段階的に控除幅は縮んでいくものの、いきなり全額が控除されなくなる制度ではないのです。
登録する・しないの判断材料

判断のときに見るべきは、次の3本です。ここに感情や周囲の空気を混ぜないのがコツになります。
軸① 取引先の顔ぶれ
課税事業者の法人が主要取引先なら、登録の相談は早めにしておく価値があります。個人・消費者相手が中心なら、登録の緊急性は下がります。「直近半年で誰から売上を受け取っているか」を、頭の中で三社ほど挙げてみてください。それだけで見え方が変わります。
軸② 売上規模と成長見込み
年商1000万円を超える見通しがあるなら、いずれ課税事業者になります。近い将来そうなるなら、登録のタイミングを前倒しにする意味も出てきます。逆に、当面数十万円レベルの見込みなら、無理に急ぐ必要はありません。
軸③ 2割特例の期限
2割特例は、免税事業者から課税事業者になった人が、売上に係る消費税額の2割だけを納めればよいという負担軽減策です。国税庁の資料では、2026年9月30日の属する課税期間までが対象とされています。個人事業主なら令和8年分(2026年分)の申告までが原則の対象です。その後、個人事業者については令和9年分・令和10年分の申告で、納付税額を売上税額の3割とする特例が設けられています。
この特例があるうちに登録した場合と、期限後に登録した場合とでは、初年度の納税額が変わってきます。ここも「今登録するか、先送りか」の判断材料になります。
会員さんの事例:制度対応そのものが商品になった話

綿貫さん(仮名・40代・メーカーの経理事務)は、当初、オンライン講座で得ていた月数万円の売上について、インボイスに登録すべきかどうかを何ヶ月も決めかねていました。取引先が個人講師なのか、法人の研修部門なのかで判断が変わり、答えが見えなかったのです。
転機は勉強会で聞いた他会員の話
風向きが変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で、フリーランスとして活動する他の会員さんが「取引先ごとに登録の判断を分けて相談していった」経緯を共有してくれたときでした。綿貫さんは、自分が抱えていた「全部いっぺんに決めなければ」という思い込みに気づいたそうです。
フォーラムの個別相談では、拙著『会社を辞めずに「朝晩30分」からはじめる起業』で紹介している「商品4構成」の考え方を綿貫さんに当てはめて整理しました。フロントエンド(お試し)、バックエンド(メインの講座)、サイドメニュー(クロスセル)、ストック型(顧問・継続契約)の4層で、収益の柱をどう積むかを勉強会の中で描き直したのです。
ストック化に舵を切った13ヶ月目
綿貫さんは、単発の講座提供から少しずつ舵を切り、法人向けの月次アドバイザリー(ストック型)を軸に据えることを決めました。この軸では登録を選び、講師個人向けの単発講座はしばらく免税で続ける、という使い分けにしたそうです。
13ヶ月目に、最初の法人と6ヶ月の顧問契約が成立し、以降は継続的な顧客が増えていきました。ご本人いわく、「インボイス対応で右往左往した半年の経験そのものが、同じ立場の人への説明商品になった」とのことです。
- フロントエンド:
無料の相談窓口や、少額のオンライン講座で入口をつくる - バックエンド:
主力の講座・コンサルなどメインの収益源を据える - サイドメニュー:
関連する追加サービスをクロスセルで用意する - ストック型:
月次顧問・サブスクなど継続収入の仕組みを持つ
制度対応そのものを説明商品に転じられたのは、綿貫さんが自分の経験を「同じ立場の人が困ることリスト」に翻訳できたからです。
迷ったときの考え方と今日の一歩

制度の細部は毎年少しずつ動きます。2割特例の終了時期、3割特例の対象、経過措置の控除割合。細部まで自分で追い続けるのは大変です。
迷ったときの考え方はシンプルです。まず「相手は誰か」を確認し、次に「自分の売上規模はどこにあるか」を見て、最後に「特例と経過措置の期限」を確認する。この順番で見れば、極端な判断にはなりません。
同じ売上を作るにも、単発の切り売りに寄せるのか、継続契約に寄せるのかで、登録の判断は変わってくるものです。自分の商品構成を先に決めておくと、制度への向き合い方も自然と定まります。
よくある質問

Q.売上が年10万円ほどですが、インボイスの登録は必要ですか?
取引先が個人・消費者中心なら、原則として登録の必要性は低いといえます。取引先が法人の場合は、相手と相談しつつ判断するのが自然です。
Q.登録すると、勤務先に起業準備をしていることが分かってしまいますか?
インボイス登録は公表制度なので、登録番号から氏名・屋号を検索されると分かります。ただし、勤務先が積極的に検索しない限り、登録そのものが直接バレる仕組みではありません。住民税の徴収方法(普通徴収)や取引の慎重さのほうが影響します。
Q.2割特例はいつまで使えますか?
国税庁の資料では、2026年9月30日の属する課税期間までとされています。個人事業主なら令和8年分(2026年分)の申告までが原則の対象です。その後は、一定の個人事業者について令和9年分・令和10年分に3割特例が用意されています。
Q.一度登録したら、あとで取りやめできますか?
登録の取り消しは可能ですが、届出書の提出時期によって取消しの効力発生日が変わります。詳細は国税庁の特設サイトか、税務署・税理士に確認するのが確実です。
Q.取引先から「インボイス登録してほしい」と言われたら、断れませんか?
登録は任意なので、断ることは可能です。ただし、取引条件の見直し(消費税分の値下げ交渉など)が起こりうる点は認識しておく必要があります。相手との関係性や、代替となる取引先の有無を見て判断してください。
今日できる次の一歩

制度を全部理解してから動く必要はありません。まずは国税庁のインボイス特設サイトで、登録申請のフローチャートや事前準備チェックシートを一回開いてみる。それ以上は今日はしなくて大丈夫です。

登録するかしないかは、ページを見たあと考えれば十分間に合います。
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