撤退か継続か迷ったら何を基準にする? 定年後の小商いで沼にも後悔にも陥らない判断

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

定年後に小さな商いを始めて半年ほどになりますが、思ったように伸びず、続けるべきか迷っています。ここでやめたら早すぎる気もしますし、意地で続けて損を広げるのも怖いです。

うまくいかないとき、続けるか、やり方を変えるか、やめるかは、どう判断すればいいのでしょうか? 何を基準にすれば後悔しないのか教えてください。

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● 回答

やめる基準は、行き詰まってから考えるもの。多くの方がそう思っています。ですが実際は、長く続けている人ほど、始める前に「どうなったら見直すか」の線を、数字であらかじめ引いています。

続けるか・方向転換か・やめるかは、気合や感情ではなく、先に決めておいた数字の基準で判断します。その判断の土台になるのは、自分の事業の現在地を、数字で正しくつかんでいることです。

「なんとなく」続ける・やめるが一番危うい

私自身、これまで多くの方の商いを見てきて感じるのは、行き詰まって退場する人の多くが、事業の中身よりも自分の現在地を数字でつかめていないことでつまずく、ということです。あと一歩でうまく回りだす位置にいるのに、それが見えずに引き返してしまう人もいます。

日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査では、採算状況に回答した公庫融資先の33.0%が、調査時点で赤字基調でした。これは開業1年以内の全事業を示す数字ではありません。赤字そのものが失敗なのではなく、それに気づかず退く線も引いていないことが、抜け出せない状態を生みます。

数字を見ていないと、判断は二つの方向に転びます。ひとつは、赤字が続いているのに気合だけで粘り、抜け出せなくなる沼。もうひとつは、実は伸びかけていたのに、不安だけで早々にたたんで後悔する撤退です。どちらも、感情で決めているという点は同じです。

まずは、自分が数字を見ずに判断しかけていないか、確かめてみてください。次のような状態は、現在地が見えなくなっているサインです。

数字を見ずに判断しかけているサイン

  • 採算を把握していない:
    売上は何となく見ても、原価や経費を引いた手残りを数字で追っていない状態
  • 基準が気分で動く:
    調子のいい日は続ける気になり、悪い日はやめたくなる、その日次第の判断
  • やめる線がない:
    「どうなったら見直すか」を一度も決めておらず、後追いで悩み続ける状態
続ける・見直す・撤退を分ける線を先に引く

判断の軸は、むずかしい経営指標ではありません。自分の商いに合った数字を一つか二つ選び、「ここを割ったら見直す」「ここまで戻れば続ける」という線を、先に決めておくだけです。

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、事業の流れが細っていないかを、問い合わせの数や単価といった数字で定期的に点検し、枯れる前に手を打つ、という考え方を紹介しています。数字を決めた間隔で見る習慣があれば、続けるか変えるかの判断は、迷いではなく確認作業に変わります。

先に決めておく判断の線の例

  • 撤退の線:
    手残りが3か月続けて赤字なら、その商品や客層はいったん畳むという下限
  • 見直しの線:
    売上や件数が目標の半分を切ったら、やり方を一つ変えて試す中間の合図
  • 続ける線:
    毎月の手残りが生活の足しになる額を超えていれば、淡々と続けてよい目安

まずは今月の売上から原価と経費を引いた手残りを、いちど数字で出してみてください。自分の現在地を正確な一つの数字にすることが、判断の出発点になります。

定年後の小商いで数字を見て畳まずに立て直した例

定年後に、手作りの木工小物をマルシェで売り始めた榎本さん(60代前半・男性)は、半年たっても売上が伸びず、「もうやめようか」と考えていました。手間をかけた品ほど売れ残り、気持ちだけがすり減っていったといいます。

あるとき、自分でつけていた売上と材料費のメモを見返して、現在地がはっきり見えてきました。木工小物そのものは赤字でしたが、来場者からついでに頼まれる棚や家具の組み立て・修理のほうは、利益が出ていて依頼も途切れていなかったのです。

転機は、起業18フォーラムの勉強会でした。榎本さんはそこで、続けるか撤退かを気分ではなく、先に決めた数字の基準で見極めるという考え方に出会いました。数字を見て一部を畳んだ他の会員の見直し事例も知り、自分がやるべきは全部やめることではないと腹に決まったのです。

榎本さんは、赤字が続いていた木工小物の販売は縮小し、利益の出ていた組み立て・修理を主軸に移しました。「手残りが3か月続けて赤字なら畳む」という線も先に決めました。半年後には、組み立てや修理の依頼がひと月に8件前後で安定し、事業全体の売上も黒字に戻っています。

全部をやめるのでも、意地で続けるのでもなく、数字を見て赤字の部分だけを手放し、伸びる部分を残す。この見直しができたのは、現在地を数字でつかんだからでした。

あなたの商いにも、続けていい部分と、見直したほうがいい部分が、数字の上では別々に分かれているはずです。ひとまとめに「うまくいかない」と感じているだけかもしれません。

今日のところは、「ここを割ったら見直す」という線を、数字で一つだけ決めておいてください。基準が一つあるだけで、日々の迷いは大きく減り、感情に振り回されずにすみます。

うまくいかない時期は、必ずしもやめる合図ではありません。数字という物差しを一つ持っておけば、続けるにしても手放すにしても、後悔の少ない選び方ができます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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