同僚に起業準備がバレたらどうする? 噂が広がった後の立ち回り方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

同僚に自分が起業準備を始めていることを知られてしまい、噂が上司の耳に届くのが怖くて動きが止まっています。給湯室で「あの人、会社の外で稼ぎ始めてるらしい」と話しているのが聞こえてきて、以来まわりの視線が気になって仕方ありません。

波風を立てずに続けていくには、どう立ち回ればいいのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

まず桧山さんという女性会員さんの話から始めさせてください。30代後半・仮名、地方銀行の総務部で10年以上働いている方です。ある水曜日の午後、給湯室でコーヒーを淹れていた桧山さんは、同期の会話がふと耳に届きました。「桧山さん、休日にワークショップやってるらしいよ。会社の外で稼ぎ始めてるって」。手が止まり、そのままオフィスに戻れなかったそうです。

その日から桧山さんは、勉強会で書き溜めていた事業計画のノートを閉じてしまいました。噂が上司に届くまでの残り時間を数えるような気持ちで、3ヶ月ほど何も進めなくなったそうです。

最初に就業規則と申請状況を確認する

桧山さんが動けなくなった理由は、「誰かに知られたら終わり」という前提で行動していたことにあります。この前提を持っていると、対策は「黙る・隠す・SNSも消す」の一択になり、続けている限りずっと消耗します。

ここで先に確認したいのは、勤務先の就業規則、雇用契約、誓約書と、必要な届出・許可を済ませているかです。噂への対処より、会社の時間・設備・情報・顧客を使っていないか、競業や本業への支障がないかを点検することが先です。必要な手続きが未了なら、上司、人事、コンプライアンス窓口、労働組合など適切な窓口へ相談します。

厚生労働省のガイドラインやモデル就業規則は、勤務時間外の活動を認める方向の参考例を示しています。ただし、モデルは個々の会社を直接拘束する規則ではありません。実際には自社の規程と個別事情を確認し、労務提供上の支障、秘密漏洩、競業、会社の信用や信頼関係への影響を避ける必要があります。

パーソル総合研究所が2025年に公表した調査では、企業の容認率は64.3%で前回から3.4ポイント上昇し、正社員の実施率は11.0%でした。一方で、この統計から個別の勤務先が認めることや、規程違反に処分がないことまでは判断できません。

  • 誤解:
    知られたら会社にバレて終わるという思い込み
  • 実態:
    知られる経路と、キャリアに響く経路は同じではない
  • 対応:
    規程・申請状況の確認と、必要な窓口への事実に基づく相談
桧山さんが再設計した3つの情報開示範囲

桧山さんはその後、起業18フォーラムの勉強会に参加しました。そこで同世代の女性会員が「話す相手を3層に分けて情報開示を組み直した」という実践報告をしていたことが、動き直すきっかけになったそうです。桧山さんはノートを開き直し、次のような形で自分の情報開示範囲を設計し直しました。

  • 第1層=「中身まで話す相手」:
    起業18フォーラムの会員さんや、社外の同業の先輩など5人以内
  • 第2層=「やっていることの輪郭だけ伝える相手」:
    家族と、心を許せる社外の友人2〜3人
  • 第3層=「雑談では話題にしない相手」:
    社内の同僚・後輩と、規程上必要な上司・人事への正確な届出・説明

桧山さんが徹底したのは、第3層の同僚には自分から話題にしない、という一点でした。雑談の流れで自慢したくなる気持ちが出たら、その場ではコーヒーを取りに行く動作でひと呼吸置き、話を別の話題へ流します。この一手間だけで、噂は自然に広がりを失っていきました。

もう一つ大事だったのは、就業規則を先に読み込んだことです。桧山さんが勤めていた地方銀行の就業規則は、事前届出をすれば会社の外での活動を認める書き方になっていました。「届出で認めてもらう仕組みがそもそもあった」という事実を確認してからは、「隠す」という言葉が桧山さんの中から消えていったそうです。

30代後半の現在地から見える具体行動

ここまでの話は、勇気の量ではなく手順の問題です。今日動かせるのは、自分の会社の就業規則、雇用契約、誓約書を開き、会社外の活動に関する条件と相談先を確認することです。規程は単純な届出制・許可制・禁止の三つに分け切れないこともあるため、曖昧なら担当窓口へ確認します。

次に、話す相手の3層を紙に書き出してみてください。名前を書くだけで、「誰に何を話しているか」が自分でも見えていなかったことに気づく方が多いです。桧山さんも、同期の中で2人には輪郭を伝えていたつもりが、実際は5人に断片を渡していたと後から気づいたそうです。

事業づくりを一人で抱え込みそうなときは、地域の商工会議所やよろず支援拠点などの創業相談を利用できます。受付条件や予約方法は窓口ごとに確認してください。雇用上の扱いや懲戒リスクの判断が必要なら、労働局の相談窓口、労働組合、弁護士など分野に合う相談先を選びます。

桧山さんはその後、半年ほどかけて情報開示範囲を安定させました。噂は1ヶ月ほどで自然に消え、上司から質問が来ることはなかったそうです。準備の中身は変えず、勉強会での相談と勉強会での事例学びを続けながら、9ヶ月目に社外の知人2人へ手ぶらのモニター相談を1件出し、有料の相談業務を12ヶ月目に立ち上げています。現在は月3〜4件の継続顧客を抱えていて、社内での役割にも変化はないと聞きました。

まとめ

  • 知られた事実を消そうとしない「話す相手の層」の再設計
  • 就業規則・契約・誓約書の確認と、必要な届出・許可の正確な実施
  • 抱えきれないときに利用する商工会議所の創業相談

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』に「ドリームキラー」という考え方が出てきます。家族や同僚・上司など身近な相手が善意で口にする心配の声が、起業準備の一歩を止めてしまう存在になりやすい、という趣旨です。

噂の一件も同じで、聞こえてきた同期の声に一人で耳を澄まし続けると、いつまでも動けません。ドリームキラーになり得る相手には話題にしない、と決めて、話す相手だけを注意深く選び直していけばいいのです。

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30代後半という現在地は、これまで積み上げた社会人経験が説得力に変わりはじめる時期です。同僚の視線に足を止めず、話す相手を今週1人だけ選び直してみてください。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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